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4.5話 後編 とある孤児院長の受難

孤児院長視点の外伝です。

時系列としては1話より前、戦争がおわり、リリが孤児院に入る頃の話になります。

「ハボタン孤児院長さま~ たいへんなのですぅ~」


「……フリージア。そんなに慌てては、せっかくのお顔が台無しですわ。

お嬢様たるもの、いついかなるときも優雅でありなさい、と申し上げておりますのに」


「えへへぇ~ でも今回はぁ~、ちょっと普通じゃないんですよぉ~」


「……そう。戦が終わったばかりで、ただでさえ仕事が山積みですのよ。

どうか要点を簡潔にお願いいたしますわ」


「はいですぅ~。そのですねぇ……戦争孤児の受け入れの列に~、ルージャ帝国の聖女さまが並んでるんですぅ~」


「……なっ……!? よりによって、この孤児院に……!」


「ほらぁ~ だから言ったのですよぉ~」


孤児院長の顔から血の気が引いていく。

内心では「私の胃痛はこれでさらに悪化するのではなくて?」と、ため息を飲み込んだ。


「どういうことなのです?」

「わたしにも、よくわからないんですけどぉ~。でも翡翠の天使って呼ばれてた聖女さまが、ほんとに来られたんですよぉ~」

「……あれほど神聖視されていた方が実在するとは。てっきり集団幻想かと思っていましたのに」


「でもぉ~ どうして聖女さまだってわかったんですかぁ~?」

「ええ、それは……あなたの能力、でしょう?」


「はいですぅ~。“欲のない心の声”が聞こえるんですよぉ~。普段は全然役に立たないんですけどぉ~、今回は大活躍でしたぁ~」


「……なるほど。欲のない人間など、世の中にはそうそうおりませんもの」

「そうなんですよぉ~。院長さまの心の声だって、ほんのちょっとしか聞こえないんですぅ~」

「……あら。それは光栄ですわね」

(実際は『休みがほしい』と『胃が痛い』ばかりですけれど……)


「ちなみに私は、あくまで教会の利益のために動いておりますのよ」

「ですねぇ~ きれいごとだけでは生きていけませんし~、現実的で素敵ですぅ~」


フリージアが春風のような笑顔を見せると、院長は「この子は本当に、ごまを振るのが上手なのですわね……」と心の中で苦笑した。


な、なぜよりによって、我が孤児院に聖女さまが……!?


「それで? 聖女さまのお望みは?」

「お話しにはなられませんでしたぁ~。でも御心の声は、“ここで静かに暮らしたい”って……そう仰ってたんですよぉ~」


「……まさか。聖女ともあろう方が、こんな場所を望まれるなんて」

「孤児たちと同じ暮らしを望まれるなんて、まさに清貧。聖女の鑑ですねぇ~」

「そ、そうなのね……そんな聖女もいるのね」

(けれどその尊い言動が、私の仕事量に直撃するのですけれど……っ)


欲とは俗に思われがちだが、聖女でさえも「世を良くしたい」という『欲』を抱く。

だからフリージアの能力が通じる相手など、ほとんどいなかった。

いまわかるのは――。


「なるほど、そういうことなのね」

「えっ、どういうことですか~?」

「おそらく、敵国出身の聖女が強い権限を持つことを避けたいと思いつつも、自国の孤児たちの待遇を憂慮されているのでしょう」

「そこまで考えて……?」

「そう、……聖女様は身分を隠し、列に並ぶことで、助けを求めておられたのですわ」

「なるほど~」

「つまり、ルージャ帝国の聖女――翡翠の天使様は、地位や名誉を求めず、穏やかに過ごすことを望んでいるのよ」

「では私たちがすべきことは……?」

「えぇ。私たちが成すべきことはただ一つ。あくまで孤児として扱うこと。身分を明かさずとも穏やかに過ごせる場を整えること」

「ではぁ~ 裏手の小屋を改装するのはどうでしょう~?」

「そうですわね。静養できるよう、きちんと整えましょう」

「お手慰みにもなるものを差し入れたいですねぇ~」

「ふふ……ええ。聖女さんが望まれる清貧の範囲で全力を尽くしましょう。」

「かしこまりましたぁ~!」

「なにか望まれたらすべて叶えてさしあげましょう。」

「もちろんです~!聖女さまが心穏やかに過ごせるよう人を寄せ付けないように徹底しておきます~!」

「頼みましたよ、フリージア」


孤児院長は微笑を保ちながらも、胸の奥で「これがばれたら間違いなく、大ごとになりますわね……」と深く息を吐いた。


その一年後、聖騎士ユーリシアに厳しく問い詰められる未来など、二人はまだ知る由もなかった――。

リリは実際には特別な能力はもっていません。

孤児院で蔑ろにされていたわけではなかったことが伝わると嬉しいです。


ユーリにガン詰めされたあと、誤解を必死にとき、必要なものを大喜びで用意するハボタン孤児院長とフリージアちゃんなのでした。

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