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作者: 歪杢木の枝

 幼い頃、私は少し……いや、ほんのばかり周りの空気に対して敏感な子供だった。

 そんな記憶も定かではない幼少期のお話。

 

 些細な自慢ととられても仕方ないが私は小学生の頃は優秀だった。

 テストで満点をとることは当たり前。

 運動神経も良く、お昼休みにはグラウンドに出て遊び。放課後には我が家に親しい友達を招き、ゲームをする。

 それがどれだけ幸せな事だったのか、あの頃は気づきもしなかった。

 欲しいオモチャはワガママを言い続ければ買える、などと思い上がっていた未成熟なガキ(自分)を後悔しない日はない。

 親に買ってもらえなければ祖父母の家に行き、お小遣いをせびるなど子供ながらにヤクザな事をしていたと今でも思う。

 言い訳をさせて貰えるのであれば、あの頃の自分はそうやってストレスを発散させねば壊れていたんだと今では思う。

 (後で聞いた話だが)父は仕事を転々としていたらしい。

 幸いな点は母も仕事(自分のお店)をしており、母方の祖父母も小さいながらも近くで旅館を経営していた為、私達『家族』としての生活はなんとか保たれていたという事だ。

 問題は私がそんな事情を知らず、あいも変わらず……いや、それどころか年々年齢が上がるに連れて先述したワガママの度合いが増していってた事だろう。

 父と母はその頃からよく喧嘩をしていた。

 いや、喧嘩をしていたどころではないか?

 父は一度、母を殺そうとした。

 首を絞めて。

 私の前で。

 私は必死にそれを止めた。

 母は首に数週間は消えない痣を作ったが、命に別状はなかった。

 父はそれから暫く家に帰らなかった。

 包帯で首を隠す母を見て私は安堵した。

 安堵してしまった。

 その頃からだろうか。

 母はテストで満点を取らない私を執拗に責め立てる様になった。

 そろばん塾やピアノのお稽古にも通わされ、今まで自由に遊べていた週の半分は自由が効かなくなった。

 ※尚、ピアノのお稽古は鍵盤どころか紙に書かれた楽譜でドレミの場所をタッチするという苦行が続けられた為、私を連れて行こうとする親の車の中で暴れに暴れまくって辞めた。

 こんな事にお金使うなら俺が欲しいオモチャやゲーム買ってくれよ!

 子供ながらにそう思ったのを今でも覚えている。

 私は店舗兼家の使われてなかった物置の様な場所を改装した窓のない部屋に入れられた。

 ドアもなかった。

 塾や習い事に行かせる為、鍵もヘッタクレもないスリガラスの様なスライドが部屋の境に設置されていた。

 今で言う引きこもりを強制的に部屋から出し、更生施設に連れていくあの映像の行為を私はいつもされていた。

 父は自分の都合で子供を連れ回す事が常だった。

 途中で私がグズると、どことも分からない山の中へ放置する。

 文句言うなら山の中で捨てるぞ。

 それが父の脅し文句だった。

 実際、何度か強制的に車から降ろされそのまま車を発進させられた事も一度や二度ではない。

 とうとう私に『自由』というものは無くなっていた。

 そんな折、小学6年生のある日。

 生徒会室で一つか二つ、年下の男児に私の些細な不出来をからかわれた。

 私は明確な殺意を持ってその男児の首を片手で絞め上げ、中に浮いた奴の顔が紫になるまで見つめた。

 逃れようとバタつかせていて当たったガキの蹴りなど痛みすら感じなかった。

 遅れて生徒に呼び出された教師が到着した。

 顔を土気色にして横たわっているガキとそれを無感情で見下ろすガキ。

 教師の判断は正しかった。

 あの時、呑気に状況を確認するでもなく人工呼吸や蘇生措置をとっていなければ私はあの長崎の事件よりも先に全国区の少年殺人犯として歴史に名を残していただろう。

 未だケータイすらない時代で本当に良かった。

 息を吹き返したからなのか、学校側がその事実を隠蔽したからなのかは分からないが生徒の行きすぎた喧嘩という事で決着がついた。

 歪ではあったが何とか保っていた『家族』という形はここで崩れた。

オチは無い。

ただ吐き出す為に綴った現在まで続く過去の記憶。

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