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白い聖光

 同刻。

 魔国サルモニア。

 最高幹部ルイーゼは、魔皇同士の小競り合いの復興作業に勤しんでいた。

 戦闘そのものは小規模だったため、建物への被害は少なく、犠牲者はゼロ。

 負傷者の手当と瓦礫の撤去などを国王親衛隊を連れて行っていた。

 魔皇ではなく政権運用に必要だという理由だけで設置した国王の親衛隊である。

 

 「仕事の速さには驚愕です。魔法を使わない技術も、発展しているのですね」

 

 ルイーゼは執務室にて一人、興味無さそうな声で呟いている。

 計画書通りどころか、それを上回る速さ。親衛隊の評価を見直すべきだと判断した。

 建造物の多くは魔法で組み立ててしまうというのに、精度や耐久性の面からわざわざ手作業で組み直している。

 かえってその方が面倒ではないし、費用も抑えられるらしい。

 

 ――自分で修理できるのが最適ですけど。

 

 時間の逆転を物体に仕掛ければ、修理法を知らずとも直せる。

 その時間反転魔法が、百節を超える大魔法にして、十三階梯の禁忌魔法である点を除いて。

 

 「人の知恵と神の知恵。どちらも侮れないということですよ」

 

 ルイーゼは人間の最高幹部である。

 一方で魔皇ゲーテは不死王であり、骸骨族。

 だというのに、彼は肉体を欲する。呪縛を幾重にも仕掛けて肉体を生み出す。

 しかし肉体を持たない者は肉体をすぐに腐らせてしまう。

 肉体を保持できる力が無いため、生気を常に摂取する必要がある。

 女にまつわる噂は、女を侍らせるのではなく喰って生気を頂戴するため。

 ルイーゼもその例外ではない。

 しかし、ルイーゼは側近になった。

 どうして肉体に執着するのか、ゲーテの口からは答えてくれなかった。

 

 ――いけませんね。つい一人だと色々と考えてしまう。

 

 「さて、私が独り言の多い人間だと思われるのは、些か困ります。()()()()()()()()()()()()()

 

 部屋の隅の暗闇。

 夜に溶け込んだその闇の中で、金色に光る双眸。

 その眼が、部屋の中に六つ。

 

 「遊撃騎士団は解散させた方が良いかもしれませんね。鼠が紛れている」

 

 「くっ……かはっ!」

 

 「ばか、な…………」

 

 闇に溶け込むほどの気配遮断。

 そして臨時とはいえ最高幹部の居室にまで至る程の能力。

 ところが、溶け込んだはずの闇に、逆に身体を吸い込まれた。そして磨り潰され血が滴る。

 

 「猫人の影は薄いということですね」

 

 二体が処分され、残りは一体。

 しかし、残りの一体は人間だった。

 猫人と同等の能力を持つとは、少々感心した。

 

 「魔法名すら唱えていない。何をした……」

 

 ルイーゼは魔法の才能がさほど高くない。

 一方で、スキルが非常に強力である。

 

 ――スキル「磁力」

 

 「あなたは捕縛します」


 男の人間を捕虜に選んだ理由は、単純に亜人が信用できなかったからである。

 

 ――第二階梯土魔法「砂蟲の罠」

 

 脚が床にめり込み、そのまま引き抜けなくなった。

 

 「あなたは楽には殺しません。色々と話してもらおうかと思います」

 

 「くっ……私のことはこのまま殺せ!」

 

 「威勢が良いのでしょうか?殺すわけがないでしょう」

 

 ――第三階梯木魔法「植蔦」

 

 口に差し込むように、蔦が絡みついた。これにより自害はできなくなる。

 

 ――死んだとしても蘇生させるだけですが。

 

 ルイーゼは部屋の明かりを灯し、外のカーテンを閉める。


 丁度その時だった。

 眩い光が、天空を覆ったのは。

 

 *   *   *   *


 「――何故、一年を要するのかな?理由でもある?それともそれが最短?」

 

 鬼族長が云った通り、他の亜人族たちもその時期がとても気になっていた。

 

 「我の出番は、相当後回しになりそうだな」

 

 ペルビオールは、拍子抜けしたまま返答した。

 

 「何故って、二つほどありますが、龍歴で言えば来年が誕生日でしょう。シュトレーゼマン」

 

 龍王シュトレーゼマンの眼が見開かれる。龍の年齢は他の生物の一年とは異なる数え方をしており、一説によると星座の変化を基準に定めている。

 人間でいう二千年の時も、龍族にとって換算すれば約五十歳の差異程度のものになる。

 

 「我を除き、年齢の計算が出来ている者がいようとは」

 

 シュトレーゼマンは、素直に関心の色を浮かべていた。

 

 「原初は龍の起源よりも古いです。人族に換算しておおよそ四十年周期、で間違いありませんか?」

 

 「星座が一周するのことで我らは歳を重ねる」

 

 「そして歳を重ねると龍は力を増すのだとか」

 

 他の種族にとっても初耳の内容に驚愕していた。

 

 「星座はいわば巡礼だ。魂が洗礼され続け、ゆくゆくは神へ上る。貴様のいう力が増すとは、次元の違う話である」

 

 「それは失礼いたしました。ですが、それを狙っての一年後です」

 

 「それは本当だったのか。シュトレーゼマン」

 

 「我の年齢など、長すぎるゆえ、貴様共にも伝える必要はないと思っていた」

 

 伝えたところで、先に死ぬのは彼らである。

 力の変化などを、あまり当てにしてほしくないというシュトレーゼマンの本心も、そこにはあった。

 

 「ふふっ。流石は龍族ね。私たちよりも年齢が違いすぎる。寿命もね」

 

 規格外の年齢を披露してしまったことで、多少場が和んだといえる。

 

 「それで、もう一つの理由は?」

 

 「数ある預言書が全て一年後の戦争を予期したこと」

 

 どよめきが起こった。

 吸血鬼らは、歴史から隠れるべくその記述に従う。

 シュトレーゼマンは眉を顰めた。

 

 「預言書だと?目にしたことなど一度あるかどうか……」

 

 「証拠は?」

 

 シュトレーゼマンは懐より一冊の魔導書を取り出していた。

 どちらかというと吸血鬼側の情報収集能力に絶句していた。

 一体何処で蜘蛛の糸を広げているのか、全く想像がつかない。

 シュトレーゼマンへ渡された魔導書は、一年後だけでなくその他の預言も詳細に記述されている。

 

 「大賢者ヤルタの福音書、その写本です。かの闇の森の魔女の作り出した預言書には劣りますが、精度は確かなものかと」

 

 「どうしてそこでヤルタが出てくる?」

 

 大地を割って地獄へ通ずる暗黒山脈を作ったとされる賢者ヤルタ。

 剣という概念の開祖でもある。

 

 「私の生きていた年代と離れすぎているため、そこまでは解りかねる。しかし原初所蔵の宝物の一つです。始まりの原典を原初が十一冊複製し、それぞれ真祖に持たせています」

 

 ――「原初」……伝説だけの存在と思っていたが。

 

 ペルビオールは躊躇いなく原初と言っているものの、シュトレーゼマンで僅かに耳にして程度であり、存在することすら疑わしい迷信だとばかり思っていた。

 

 「じゃあ一年何してればいいのかしら?」

 

 「ご自由に。死なないように鍛えてもよろしいのではないでしょうか。敵は七神直下の魔皇軍ですから、犠牲者を増やしたくなければ対策はするべきでしょう。追討軍の残党は私が引き受けます」

 

 ――ん?なんだこれは。

 

 鼻の中を伝う感触。見下ろしてみると、手のひらに血が付いている。

 吸血鬼が出血するというのは、奇妙な感覚だった。


 そして、アルバートの生体反応が消失したのを脳で感じ取った。

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