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死に過ぎて辛い

 実を言うと、ガスールにはまだ到着していない。

 ペルビオールに失望していたアルバートはその付近に潜んでいた。

 納得できる理由がなければ、そのまま殺してしまうつもりだったからだ。

 弱っていれば殺せる――のだが、安直に殺していた若い頃を反省して、今回はしっかりと理由を訊いた。

 結果を言えば、無闇に斬り伏せていればアルバートは今頃吸血鬼を敵に回していた。

 全力疾走で平原を駆け抜け、森を抜けた先に防衛都市ガスールはある。

 元々根城にしていた都市からも近く、国境沿いに位置する都市である。

 一時的な駐在として利用しているらしい。ザイードの姿を保ったまま都市に入ると、すぐに団員らしき兵がやってきた。


 「ザイード団長、お待ちしてました!団長も一杯どうです?」

 

 酒特有の匂いがしてきた。この兵士は既に出来上がっている。


 「馬鹿野郎!団長に言うな!」


 「一杯?まさか酒飲んでたのか?」


 「すみません!部下の暴走を止められなかった俺たちの責任でもあります!」

 

 頭を下げた兵士は三人。

 胸の紋章が豪華なので、階級が少し高い。因みにザイードは団長なので、色々なバッヂが付いている。


 「言っておくが奢らないぞ。副団長とやらはどこにいる」

 

 その反応が意外だったらしく、三人は呆気に取られていた。

 

 ――む、もしかしてキャラが違ったのか?


 「は、はい?」


 「副団長、いるんだろう?」


 「え、ええと、中央通り沿いの酒場です」


 「そうか、食事前に寄っていくとしよう」


 「え、お、お待ちください!今は兵士たちで満席というか…………副団長は今――」


 「細かいこと気にするなよ。酔いつぶれているとかそれくらいなら私も経験がある」

 

 ――本物の毒で酔い潰れたという意味だが。

 

 酒という知識はヘルムズあたりから入手したもので、アルバートは酒が何たるかを知らない。

 神代に酒は無かった。

 一種の毒のようなものなので、残念ながら吸血鬼の解毒作用により酒は楽しめない。


 「あ、あの本当にやめていただいたほうが――」

 

 忠告を無視して酒場へと立ち入った。


 「ようやくお出ましか。ずいぶん遅かったじゃあないか」

 

 紋章が豪華な男が、剣呑な眼差しを向けてくる。

 体格とその態度からして、副団長は彼に違いない。


 「迷子の子供がいたので、ええと、教会まで送っていた。遅れて申し訳ない」


 「それでよおザイード。お前どうして騎士団を撤退させた?追討軍まで出すことになったのに、俺たちだけ消化不良のままどうして撤退させた?」


 「貴……お前、そんなに戦いたいのか?」

 

 ――戦い好きな人間は何時の時代にもいるものだな。そういう人間に限って弱いんだが。


 「戦いだと?これは殺戮だ。俺が聞きたいのはどうしてお前が日和ったのかってことだ。いつも昇進しか考えてないお前が、迷子の世話だと?冗談じゃねえよ」


 「たった一個大隊で追撃する気か?出来ると思っているのか?」


 「何のための遊撃騎士団だと思ってる!補給無しで行軍できるように魔皇様が編成した特殊部隊だぞ。この時のために在るんだろうが!今や亜人のクソ共は逃げている」

 

 周りの団員は目を伏せたまま動かない。

 彼らがどちらの味方をしているのか、アルバートには判らなかった。


 ――そんなに戦いたいのなら、その要望に応えてやらんでもない。

 

 「何も、ここで蹲っていろとは一言も言っていない。私が言いたいのは機を見誤るなということだ」

 

 団員が続々と顔を上げ、団長の方を向く。


 「何が言いたい。説明しろ」


 「追討軍が派兵されている。先鋒で勝手に活躍するより、不敬なる亜人どもを鏖殺するその様は是非とも指揮官殿に直接その目で見ていただくべきだろう?獲物に飢えているお前たちは勝手に敗北と勘違いして酔い潰れているようだが、覚悟はできているか?」

 

 ――指揮官はそれなりに序列が高い筈だ。上手く取り入れて吸血鬼にしても良いな。

 

 その言葉だけで十分だった、らしい。

 すべての不満はこの瞬間に消え去った。

 言い訳を適当に作っただけでも、団員の心は動いた。


 「なんだよ、そういうことか。ったく心配させんなっての」


 副団長にがしっと肩を叩かれた。

 

 ――安い連中だな。

 

 *   *   *   *

 

 ところが、肝心の追討軍の指揮官が行方不明になっていた。


 「最高幹部ヴィーカ様が行方不明のため、代理で私が将軍を務めます。参謀本部所属リーベです」

 

 新調した制服に身を包んだ女士官だった。

 丁寧な敬礼をされたため、見様見真似で敬礼を返す。

 女性の参謀は多いものの前線に立つ女性は多くない。

 面倒な役回りを押し付けられたとアルバートは推測した。


 「遊撃騎士団団長、ザイードです。我々遊撃騎士団も追討軍に随伴し亜人を殲滅します」


 「ご助力感謝します。その件に関しましてこちらからも本部より一点通達がありました」


 「通達?いったい何でしょう?」

 

 横に視線を送ったのが気になった。


 「”罪深き亜人連合軍を放逐することは魔皇ゲーテ様の大いなるご意志への叛逆である。参謀本部及び魔国サルモニア行政執行機関はこの事態を重大に受け止め、当該の責任者である遊撃騎士団団長ザイード、並びに副団長ベガルタを即時罷免とし、以後遊撃騎士団は参謀本部直轄下に置くものとする”――以上です」


 「失礼ですが、この判断は私一人にあります。責任を負うべきは私一人だけでいい」


 「それは本部が決めること。お二人は即時”解任”です」

 

 リーベが腕を振り上げた瞬間、背後から側近が長剣で斬りかかってきた。

 団長の体裁を保つには、ここで抵抗してはならない。あの長剣が聖別済みでないことを目視で確認した後、アルバートは何の抵抗もなしに刃を受け入れた。

 また同時に、背後で人の倒れる音がした。

 

 ――私はともかく、人の命は一度きりだぞ……

 

 *   *   *   *

 

 同刻、ペルビオールの複製人形は昏い円卓の中心に立っていた。

 本来招かれざる来客であると自覚したうえで、敢えて大袈裟に強襲した。

 全方位からこうして武器を向けられていようと、ペルビオールは汗の一つもかかない。


 「初めまして。種族王の皆様方。そしてお久しぶりです。龍王シュトレーゼマン様」

 

 この複製人形は若く長身の男。亜人を指揮した者に他ならない。一部の亜人には顔が知られていることから、外見を改変した。


 「ここが何の場所か知っているのか?愚か者の吸血鬼めが」


 「そうですね。こちらも礼儀を弁えるべきだと思いました。ですから、ちょっとした手土産をご用意いたしました」

 

 重いものが入った麻袋をシュトレーゼマンへ向けて投げる。その中身を見て、シュトレーゼマンは瞠目した。


 「最高幹部、「砂上」ヴィーカ・ベリルガットの頸です」

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