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偽装はどこから?

 視界が覆われたと同時に、全身を削る痛み。手を見れば、皮膚が削げ落ちて中身が見えている。

 

 ――砂粒。

 

 さらに凍結した砂粒は威力をあげている。ここにきてペルビオールの周囲を自動で冷却するスキル「冷血」が裏目に出る。

 

 ――スキル「漠塵」

 

 周囲の砂を自在に操るスキルであり、砂が少なければ魔力を変換して砂に流用する。

 さらに、ヴィーカは風の属性が得意であるという点を合わせ、第六階梯風魔法「風洞爆風」を用いて毎秒3000メートルを超える大規模な砂嵐を生み出す。

 人体はおろか鉄板すら一瞬にして砕く。

 やむを得ずスキルを解除。

 血液だけの操作で全身を鎧として覆う。

 その瞬間に、ヴィーカは肉薄していた。

 

 ――破天。

 

 吹き荒れる砂塵すら巻き込む大気の奔流。広範囲の攻撃を浴び、再び心臓が損傷する。


 「随分と頭を捻りましたね」

 

 側から見れば、ヴィーカが優勢に見えるに違いない。

 しかし未だ亜人のミスリードが大きい。これほどの破壊を繰り返しても、ペルビオールはほぼ無傷である。

 再生に血液の相当量を消費しているため、無償とはいかないが。


 『大地の深淵より噴き出る太陽――万象、黄金を焼き尽くせ』

 

 ――第四階梯炎魔法「煉獄」

 

 曰く、炎魔法において最高威力を誇る。

 砂塵が舞う中、ペルビオールは喉を削りながらも完全詠唱で「煉獄」を発動させた。

 砂塵が舞う中。

 魔法は物質以上に魔力に反応しやすい。

 魔力が原料ゆえ常識である。

 この砂は風魔法とも合わせれば魔力のようなもの。

 即ち魔力が充溢した空間と同等。

 

 そこに炎魔法を点火させる。

 砂そのものは反応せずとも、魔力は魔法に反応してしまう。

 そして生じた熱は、連鎖的に規模を拡大させる。


 酸素。

 爆発下限濃度以上の粉塵。

 最小着火エネルギー以上の着火源。


 三要素が揃った瞬間、雪原を全て溶かす「煉獄」が、旋風となって炸裂した。

 

 期せずして訪れた好機。

 しかし術者自身も爆発に巻き込まれるため、この手段は諸刃の剣と言える。

 例外といえば、治癒魔法を使わずとも再生ができるような一部の種族に限られる。

 ペルビオールの知恵の差。そしてヴィーカの知識不足。

 平原という場所であるために、砂は少なかった。

 骨の髄まで焼き尽くす爆裂。

 ヴィーカの全身は一瞬にして灰燼となった。神呪も魂が無ければ発動しない。


 即死だった。

 ただ、魂まで焼かれたということだった。


 「こういう末路は、なんとも哀れですね」

 

 全身から蒸気を発して、ペルビオールの内臓は再生を始める。

 しかし全身の火傷を治せるほどの血液が残っていなかった。

 

 ――血液の消費が激しい。次からはもう少し戦い方を変えなければなりませんね。

 

 敵の戦術を伺ってしまう、ペルビオールの悪い癖である。

 そのせいで血液を無駄にしやすい。

 深く息を吐く。その息は白かった。

 

 *   *   *   *

 

 ――吸血鬼を増やしていき、行く行くは魔皇を殺し国を落とす。猫人がどうとか言っていたな。つまり亜人の動きも謀ったのか。


 「何故亜人を使役する。吸血鬼なら七神とやら簡単に屠れるものを」

 

 ――違うな。目的がある。亜人の民衆を動かして何がしたい……そもそも、あの連中からは巨大な魔力を感じなかった。

 

 種族長すらいない軍勢を吸血鬼にでもしたのか、一斉に動かした。そして撤退させている。


 「なーんとなく分かってきたぞ。目的は種族長、特にあの龍王か。そも吸血鬼は歴史の裏に隠れる存在。表向き亜人に滅ぼしてもらう他なかった。そして今回龍王の反応は無かったから、別の作戦に乗り移ったか。クックッ。相変わらず回りくどい手を打つ」

 

 個体によっては神すら殺せる力を持つ吸血鬼。

 しかしそんな神を七人同時に相手取って余裕で勝てることなどない。

 七神は抑止力として働いており、均衡を破る際にはこれに対し対策を講じなければならない。

 

 ――確か国を作る、だったか?それとも落とすのか?

 

 振り返り、遠くで響く爆発音に耳を澄ます。


 「存外に手間取っているか。真祖も堕ちたものだ。これでは元八大魔王のゲーテにも叶わん」

 

 それも第七席は最下位では無い。

 場合によってはその相手に敗れる真祖だっているということ。臣下で手間取っているようでは、神殺しなど以ての外。

 何よりアルバートの頭を悩ませているのは――そんな輩の下についていること。

 真祖なら相当の手練に違いないと見込んで、身の安全のために眷属となったのに、弱いくせに願望だけ大きい傲慢な吸血鬼でしかなかったのだ。

 そもそも最高幹部が相当な強者であることはなんとなく理解できるが、それを圧倒してくれると期待していただけに、アルバートは失望していた。


 「――終わったようだな。私の血液から主人の気配を感じる。流石に前座で死ぬような戯けでは無いらしい」

 

 ――主人、雑魚狩りなど庭師にだってできるというのに、さては貴公不器用か?

 

 ――盗み見るとは良い度胸ですね。まだガスールに着かないのですか?

 

 ――門は超えているさ。団員がどこにいるか探している。

 

 遊撃騎士団はガスールに集結しており、ザイードは先行して都市に入った――という設定なので、アルバートも遅れられないのである。

 魔法を使うまでもなく、脚力で走破出来る。

 吸血鬼は殺すのも厄介な生物、裏を返せば生存しやすいし体力もほぼ無限にある。

 

 ――支配力だって希薄だ。このままでは神殺しなど出来ん。私が鍛えてやろうか?

 

 ――冗談を。それに私が弱いのは当たり前ですよ。何せ


 ()()()()()()


「……は、本気で言ってるのか?」

 

 呆気にとられた。つい声に出てしまったのだ。

 今まで話してきたこの吸血鬼が、よもや人形の類だったとは。

 その精巧さといい、息を呑む完成度である。

 

 ――私のスキルではありませんがね。

 

 ――なるほど、本体は三倍くらい強いと言うことか。

 

 人形を生み出す真祖を、アルバートは知っていた。

 即ち序列がさらに上の、そして二千年を超える年齢の吸血鬼である。

 それに本人の人形しか作れなかったと記憶しているのに、今や他人の人形だって可能にしている。

 

 ――さてどうでしょうかね。戦うと言うことをあまりしないものですから。

 

 ――敢えて老化させて肉体を劣化させるか。人形師の腕も流石だ。

 

 ――いいえ。外見はこのままです。全盛期が反映されるものですが、どうやら私の全盛期がこの姿のようでして、私も驚きましたよ。

 

 ――安堵したぞ。真祖も健在のようで何よりだ。

 

 ――わかったら早く合流を。


 「しかし、この義体もよく持ちます」

 

 吸血鬼の場合、血液を与えれば人形にできるためさほど難しいことでは無い。

 しかし、ペルビオールのこの人形は真祖が一から仕立てた特注品。

 激闘の末でも損傷一つなく回復し、血液の量も勝手に増えていく。


 「そもそも、私は学者ですから、戦闘は苦手なんですよ」

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