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見えざる脅威

 自力で転移を使ったことに、ペルビオールは少なからず驚愕していたらしい。


 「血液を辿って座標を特定しましたか。吸血鬼慣れしてきたようで安心しました」

 

 吸血鬼の見た目はほぼ詐欺のようなもので、実年齢など解るはずがない。

 多くの吸血鬼は全盛期を保つべく若い肉体を保っている。

 しかしペルビオールはというと、物腰柔らかな初老の男に見えた。

 

 「単刀直入に言わせてもらおうか。私は巡回宣教師の一人だったのだが、こいつと相討ちになった結果身体に乗り移ってしまったらしい。というわけでザイードは死んでいる」

 

 アルバートがペルビオールの魔力量を解析しようとして、それが阻害された。

 スキルは不明でもおそらくはゲーテと同等の強さがあるかもしれない。

 正体を偽ることが不可能と判断し、自ら予防線を張った。

 どの宗教かなんて知りもしないので、巡回宣教師とだけ伝えておく。


 「霊脈を見れば瞭然です。しかし、ザイードさんも思いの外弱かったようですね。自爆覚悟の神聖祈祷で乗り移ってしまったあなたも、中々に運が悪いですが」

 

 自爆系の技はいくつか存在し、神聖祈祷にすら存在する。

 自らを犠牲にして魂を浄化させるというものである。

 その最たる術とは、真正言語を用いた技であるが、七神以外に真正言語を習得する存在は記録上存在していない。


 「名乗った方が良いか?アルバートだ」


 「個体名などどうでもいいのですが。ではアルバートさん、引き続き手足として働いてもらいます」

 

 アルバートという名前に聞き覚えが無い。

 少なくともアルバートの生前に生きていた、さらに言えば敵対していた吸血鬼ではないということ。

 最古参ではないことは分かったが、年齢を判断する要素としては不足している。


 ――二千年前でないと分かったはいいが、この情報は大抵の生物が滅んでいるだろうからあまり意味ないだろうな。

 

 「私は天界の門を目指し旅をしている途中だ。悪いがここで開放してもらいたい。第七席ならば、吸血鬼の解呪も容易いことだろう」


 「一年後まで待っていただけるのなら、いくらでも叶えて見せましょう」

 

 ――たった一年なら構わないところだが。宣教師は人間だろうから、返答には注意しなくては。


 「一年も拘束するか。断る」


 「眷属のあなたに拒否権はない。建国までの間、あなたは私の傀儡です」


 「貴公を殺してしまえば、そんなものは消えるが」


 「不可能です。それに私が死ねば解呪できず永遠に吸血鬼のままです」

 

 円卓を殺すなど絶対に不可能。

 それを笑い飛ばすこともせず、ペルビオールは真剣に回答していた。

 一年の拘束は彼らにとって短い。

 アルバートの時間感覚もエルフのそれであり、エルも天使であるため寿命が存在しないのだ。

 

 ――急いでいないし、何よりゲーテから身を守れるのは大きいかもしれない。

 

 生きているだけで勝手に殺してきそうな存在なので、対抗戦力に見張られているだけでも状況は良い方。

 何より吸血鬼なら殺されにくい。

 トラウマが吸血鬼だという欠点を除けば。


 「端から拒否するつもりはなかったのだがな。しかし条件が一つある。解呪は必要ないからそちらを叶えろ。それなら私は全面的に協力しよう」


 「条件?身分を越えた願いでなければ許します」


 「生前に七神の一人から賜ったスキルがある。『耐性』と名のつくスキルなのだが、どうにかして私に与えてはもらえないだろうか」

 

 こうなるなら、いっそ小指に「耐性」を移しておけばよかったと後悔している。

 エルを守護する目的で「明鏡」という絶対的な防御スキルを継がせたが、人攫いに遭う以上に危険なことが人形と誤認されているの彼女には起こらない。

 何より魔皇レーヴリスタだけが保有していたワールドスキルの一つであるため、このスキルを発動するとほぼ確実に身バレする。

 全く持って使い物にならないのである。


 「スキルなら、すでに所持しているようですが」

 

 ――解析されたか。

 

 アルバートの常識も余人とかけ離れているように、出会う存在全てが超越者である。

 常人がスキルの存在を見破ることはできず、鑑定スキルを持つことが前提だというのに、ペルビオールの両目はスキルを捉えている。


 「何?」

 

 とぼけた返事を返すと、ペルビオールも眉を顰めた。


 「魂が融合した結果……ということでしょうか。しかしザイードさんにスキルはなかったと記憶して――」

 「で、そのスキルとは何だ」

 「鑑定スキルでは無いのでそこまでは知りません。長らくスキルの謎について研究してきた歴史がありますが、あなたは希少な成功例ということですか」

 

 ――なんだその意味のない実験は。いやしかし、鑑定されていたら危なかったな。

 

 内心でその発案者を軽蔑した。

 世界の理を曲げようと考える方が馬鹿である。

 林檎が地に落ちるのは当たり前のことである。

 逆に言えば林檎が地に落ちなければ困るのだ。


 「驚いた。しかし私が言われるまで気が付かなかったのなら、使い物にはならないだろう。クックッ。では条件は変えたほうが良さそうだ」

 

 「まだ何か?」


 「強そうな獲物が欲しい。できれば長剣で壊れにくい」

 

 なんだかんだ資金が無いせいで武器を買えていない。

 それに戦闘する場面が増えるなら獲物が無ければ戦えない。

 魔法使いは戦闘面ではどうしても弱い。

 魔法戦よりも間合いを詰めて斬った方が確実で、魔法は詠唱を短くしないと間に合わないデメリットがある。

 そもそも魔法が戦闘用に開発されていないという常識は、神代から存在する。

 

 ――それならどうしてゲーテは魔法を使ったのか。手加減でもされたようだな。


 「欲張りですね。田舎の教会とはいえ祭祀用の長剣があります。聖別済みですので使い物になるはずです」

 

 白い刀身に金をまぶしたような煌めき。見惚れるほど輝かしい長剣である。

 

 「それも悪くないが、ほら魔剣とかは無いのか?吸血鬼なのだろう?」

 

 「魔剣を渡す?あなたに?冗談でしょう」

 

 「………………まあ、当面はこれで我慢してやるか」

 

 聖別済みということは、神聖的な属性があるということ。

 吸血鬼であっても食らえばまともに動けないほどの攻撃を喰らわせる。

 しかし人間には効果が無いので、ほぼ切れ味だけで勝負することになる。

 それもこれは装飾剣の意味合いが強いので、切れ味も悪い。

 

 ――下手に研いでしまうと聖別が消える可能性があるとかないとか……このまま闘うしかなさそうだ。

 

 「あなたは引き続きザイードという名前で偽ってもらいます。遊撃騎士団の団長です。そして団員が三十人います。名前は――」

 

 ザイードは死亡しているため彼の記憶が無い。

 

 「名前など聴いても忘れるだろうから必要ない。長い間不在なのが怪しまれるから私はそこに自然に合流すればいいんだな?」

 

 「はい。理解が早くて助かる」

 

 「それはそうと――敵が来ているぞ?」


 アルバートの魔力探知には高速で接近する何かを感じとっていた。

 ペルビオールはそれを聞き届けると、目を見開いてアルバートを見た。


 「まさか、この距離で探知できるとは。アルバートさんの魔力探知は中々冴えていますね」


 「私はさっさと退散させてもらう。だがこの子供たちは?人質か?」


 「まさか。それに一概に敵とみなすのは早計です。何しろここは教会ですから」


 恐ろしいほどにその表情は柔らかで、その眼は冷え切っていた。

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