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私の国

 洞窟の中で騒然となった参謀本部。

 その洞窟より百キロ前後の地点にて、アルバートは寝転んで青空を眺めていた。


 ――やはり弱いな。


 ゴブリンはアルバートが死亡した後で後発的に発生した種族である。

 冥界から覗き見れば大抵何者かに殺されている彼らゴブリンがどれほど弱いのかを確かめていた。

 結局、アルバートは魔力を削っていない。

 回復する魔力量よりも少ない魔力を使って、ただ魔力を塊として飛ばしたに過ぎない。

 魔法ですらないエネルギーの塊だけで、ゴブリンは圧殺されてしまった。


「一匹泳がせてみたが、予想以上の収穫だ。とはいえ依頼にしては少し多すぎる。危害が加わらない限りは、このまま生存を許す」


「薬草ってこれくらいでいい?」


「十分だろう。暫しそこで待て。死体を取ってくる」


 ――空間魔法『座標断行インター・コーディネート


 魔法の開祖である光の森のフローリアス。

 彼女の扱う魔法と、魔皇アルバートの行使する魔法は若干の差異がある。

 彼は詠唱も陣も使用せず、魔法名だけを脳内で認識することで発動できる。

 アルバートはフローリアスよりも年上なので、非常に原始的な魔法を用いている。

 それ故、階梯の区分が無くフローリアスの扱う魔法と同様に未解明な魔法の一つである。


「小鬼の内臓、か。業腹だが、荷台にでも積むしかあるまい」


 依頼書には内臓を取ってくるよう指示されている。

 臭いのひどい内臓を回収し、一度エルの元へ合流した。

 グロテスクな内蔵を見た瞬間、エルは青ざめていたが。


「あっち行って。気持ち悪い」


「私だって本意ではない。これの処理にもう少し時間がかかる。この草原で昼寝でもしておけ」


 次に転移すれば魔力が底を尽きるため、徒歩で内蔵を運ぶしかなかった。


 ――大魔法もさほど使えんな。


「お疲れ様でした。意外と早かったですね」


 受付は明るく挨拶を交わしてくれた。手に持っている内臓が嘘みたいな臭いであるというのに、周囲の冒険者は誰も気に留めていない。


「こちらが依頼報酬になります。それでは書類のサインをお願いします」


「内臓だが、これは引き取ってもらえるのかね?」


「いいえ。そちらはあなたの物です。畜産の肥料になりますので、農業系の商人に売るのが良いでしょう」


「……了解した。それと、魔法薬について聞きたいことがある」


 一通り聞きたいことも終えたので、手っ取り早く農薬を作る商人に売り付けた。

 一度街を離れ、草原まで戻った。


「まさかとは思ったが本当に消えているとは」


 昼下がり、草原には誰もいなくなっていた。

 小さな足跡が残っており、それを辿っていくといきなり途切れている。

 そして、車輪の通った跡が引かれていた。


 ――勝手に乗ったのか、攫われたか。


 エルは天使のため、独特の気配と何より神性を持っている。

 これほど特有であれば残滓を辿るなどもはや誰にでも出来る芸当であった。

 加えて地脈を利用したアルバートの魔力探知範囲はおおよそ国境まで届く。相性の良さと国の小ささが功を奏した。


 ――集団で動いているのか、魔力が濃い。速度は馬車がその速度だろう。


 確かに少女であれば人攫いの可能性がある。しかしアルバートの時代ですら稀な現象が、この時代に起こるものだろうか。


 ――では、馬を止めるとしよう。


 腕を軽く振り上げる。

 風を切る音が僅かに聞こえただけに過ぎないが、アルバートはゆっくりと歩き出した。


「間もなく私も着くだろう。結局人攫いかどうかは問わねばならん。一人は生かしてやろう」


 大きく踏み出し、地面を強く蹴る。

 アルバートにはそれで十分であった。

 次の瞬間、彼の肉体は空を切っていた。


 パニックであった。手綱を取っていた馬がいきなり暴れ出したかと思えば、直後に脚の全てをへし折られて真っ二つに切断されたのだ。


「は?何が起こって――」


 御者の二人は言い終わるより先に事切れる。荷台に乗っていた監視の2人は恐怖のあまり荷台から飛び降り、街道脇の森へと駆け込んだ。そして、掠れた悲鳴は突然聞こえなくなった。

 その光景を見て、エルは青ざめていた。

 他の少女たちもそうだ。

 そして最後に残ったグループのリーダーは、小刻みに震えながら、しかしエルたちを恐喝した。


「そこから一歩も動くな!動けば殺す!一体……どうなってやがる」


 ともかく、足を絶たれたのでは移動ができない。

 リーダーは周囲に助けを呼ぶべく、鳩を使って依頼を飛ばした。

 ところが、飛ばした鳩が上空で羽を散らして墜落したのを見て、底知れぬ恐怖が増幅した。


「思えば思うほどに、最後の贄が憐れに見えてしまうものだ」


 声だけが不気味に響き渡り、木々がざわめいている。

 ゆっくりと荷台から顔を出すと、斜め上の上空――浮遊というあり得ない形で青年が一人立っている。


「『耐性』だと?持ち主の能力が低ければ宝の持ち腐れも良い所だな」


 不出来な復活魔法でも「耐性」を簒奪できたことは大きい。

 それによりスキルの質そのものが大きく上昇し、アルバートの手に宿ったことで実質的に長期戦で最強と評せるに至ったと自覚している。

 耐性の獲得にも過程が存在する。

 攻撃を受けその攻撃の構造を解析していくことで所謂「耐性」を獲得していくというスキルの認識では、あまりにも雑でスキルを活かしきれない。

 鑑定系の能力が無いアルバートでも、色々とそれを試してみるほかあるまい。

 一度攻撃を受ければ解析を終了させることが出来るのか、それとも回数を受けなければ解析は進行しないのか。

 そして「耐性」とは同種の攻撃に対してのみなのかあるいは攻撃者そのものに対する耐性であるのか。

 潜在的な可能性がまだまだ大きく、アルバートは「耐性」に大きな期待を寄せていた。


「貴公を殺す気はない。それ、何か私に攻撃してみろ。自動反射の防御は止めてある」


 ――こ、こいつは何を言っている?


 言われなくとも。リーダーは魔力を練る。


「ば、化け物が……!」


 ――第二階梯水魔法「水切」


 跳ねる軌道にて高速で飛来する水の塊、アルバートは一切の防御を加えることなくその水魔法を腹部に受けた。

 階梯の低い魔法でも攻撃魔法でかつ生身の肉体であればダメージがあるに決まっている。

 痛覚はどうでもよいため、それで「耐性」がどのように形成されるのか、それを確かめる気でいた。


「は、は?なんで、無傷なんだよ……」


「――あ?今のはただの水っぽい魔力ではないか。真面目にやれ。魔力で水を誤魔化すのではなく、魔法を使え」


 ほらほら、と促してもう一度魔法を行使させる。


 ――第一階梯炎魔法「火球」


 一直線に伸びた火の玉が、今度はアルバートの顔面に直撃した。


「熱を帯びた魔力をぶつけて魔法などとは、最早贋作ですらないな」


 当然のことであるが、「耐性」はダメージを受けることが前提である。

 だが魔力に小細工をしただけの魔法では、彼にダメージが入ることはなく、むしろ魔力を回復してしまうにまで至った。


 ――む、言い方をより仔細にした方が良いのか。


「属性で攻撃するならば元素魔法と分類されているものだ。貴公には魔法の才が無いらしい」


「げ、元素魔法だと!?馬鹿が。誰が使えるってんだ…………それで、俺のような下っ端に何の用だよ。そこにいる女たちが欲しいのか?」


「白い羽根の付いた亜人を攫ったな。私に用があるのはアレだけだ」


 いつの間にか荷台から脱走し、エルは周囲の木々の隙間から二人の一部始終を見ていた。


「そ、そいつか。なら持ってけ。だから俺を許してくれよ」


「代わりに、この魔法薬を貴公の取引先にでも販売してくれ。値段は安めでいい。さしたる効果はないからな」


 それは透明な液体の入った小瓶。

 五本ほど手渡しし、そのリーダーに宣伝してもらうことにする。

 順番の前後が入れ替わったが、目的は変わっていない。

 これでいい。


「こ、これを売ればいいのか?だが効果は?」


「痛覚だけを和らげる魔法薬。治癒効果は一つもないが、神経を刺激して麻痺させる。まあ、安く試してもらえればいい。私の所在を聞かれたら、亜人を拾った草原の近くだと伝えよ。それと痛みの時以外は絶対使うなとも」


 異国の技術を勝手に模倣したに過ぎない魔法薬は、痛覚をほとんど無効化することのできる鎮痛剤と同様である。

 ただ、それを平時で使用して快楽を得る……みたいな使い方が出来てしまうので、注意は必要だ。

 使い方は彼らが決めることなので、アルバートにはあまり関係が無い。


「わか、りました。じゃあこれを売りにいきます」


「ちなみに、その取引先とは何処になる?」


「それは、その……王宮です」


「そうか、では行け。そこの馬がまだ走れるうちに」


 魔力をぶつけただけなので治癒はかなり楽に行える。

 馬に息があったので、アルバートは治癒を施していた。


「は?馬が……治ってる。で、では失礼します!」


「誤った使い方をされれば、最悪国が亡ぶだろう」


 最初にいた場所よりもえらく遠くまで来てしまった。

 依頼報酬を受け取っていないため、最初の都市まで戻らなければならない。


 ――さて、ここはどこだ?


「元居たところに戻るの?」


「報酬を受け取っていないゆえ、かなり遠くまで来てしまったようだ。もう転移は使わんぞ」


 地図を取り出して、最初にいた都市を確認する。

 王都の位置と照らし合わせれば、現在位置も判明する。

 王都まではまだまだ遠いようだ。


 しかし――違和感。


「ん、この地形……山脈の形…………王都の位置」


 アルバートが眠っていたのはサルモニア王国の南の山脈にある洞窟。

 そこから北上して街に降りたのだが、そもそもアルバートが没した場所はどこだっただろうか。

 そして、その違和感は既視感から来ているものだと解った瞬間、アルバートはため息をついた。


 

「――ここ、私の国だ」



 ――私の国に人攫いだと?私の国に小鬼が出るのか?


 アルバートは、その事実に頭を抱えるほかなかった。

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