Part1:夢に刻まれ
「これ、リンに話すべきかな?」
黒羽が、壁の前で呆然としている私に言った。
「うん、そうだね…」
私たちは帰宅後、リンとオンライン通話を繋げた。
「どうしたどうした?今日はえらい興奮しとるやん。何かあったの?」
「実は、今日、下校中にね…」
私は、今日あったことを話し始めた。黒羽も、それが新築で、夢の模様の話を聞くより後に建ったということを補足してくれた。ナイス黒羽、私ゃ忘れてたよ。
リンは最初半信半疑だったが、私たちの真剣な声のトーンを感じ取ったのか、少しずつ興味を持ち始めた様子だった。
「な〜るほど、そんなことがあったんか。でも、どういう意味があるんや…?」
「分かってたら訊いてないって。」
「でも、夢と現実が繋がっているとしか思えないんだよね。」
黒羽が言った。
リンはしばらく考え込んだ後、ゆっくりと口を開いた。
「実はね、最近僕も何かを思い出しそうな奇妙な感覚を覚えてるんだ。それが前世の記憶なんじゃないかって思うことがある。」
「前世の記憶…?」
「ふざけた話やけどね。」
「なるほどね。でも、証明のしようがないだろ?」
黒羽は半信半疑ってところかな。ここは私の出番だ!
「だからじゃないの?お互いの夢や記憶をもっと共有していけば、何か手がかりが見つかるかもしれないよ?」
「少なくとも、前世の記憶が夢に出てくるっていうことはあり得なくはない。…前世の記憶を引き継ぐことさえできれば、だけどね。」
「あぁ、前にリンが言ってた『現実の記憶が夢に影響を与える』か。『記憶にないように思えるけど、実は脳は全てを覚えている』、そして『"忘却"という事象を、"記憶を上手く引き出せないだけ"と捉えると、夢などでふと思い出すことも十分あり得る』だったか。」
「ご名答。さすが黒羽、記憶力ほんと凄いな。完璧な説明だ。」
ん〜…。理系2人だけで会話が成立しちゃってる。面白くないな〜…。
それを察知したのか、黒羽がチラと私を見た。
「2人とも、実は俺も最近、奇妙な夢を何度も見るようになったんだ。」
「えっ、本当?」
「もちろん本当だ。俺は何か大きな戦いに参加していたんだ。それも、結構原始的なね。」
「どんな感じなの?」
「周りがみんな…猫耳っていうか、あれは狼なのかな?尻尾もふさふさなんだ。で、何かと戦っていたんだ。」
ーーこれはただの偶然か何かだろうか。それともこの先、何か冒険が待っているのだろうか。まだ分からないけど、これが3人の前世の記憶だとすれば、私たちの現在に影響を及ぼしているのは間違いない。