Part2:夢模様
その夜、両親がまだ出張から帰ってきていなかったからと私の家で夕食を食べ終えた黒羽に、「十六夜音楽隊」ボーカル担当、満弦リンともオンラインでつなげてもらった(…というのも、私は機械アレルギーなのだ)。名古屋暮らしのリンとは直接会うことはないのだが、こうしてオンラインでは毎日のように会える。
「リンはどう思う?この変な夢。」
「う〜ん…。あ、それってさ、あるとき偶然そんな夢を見ていて、その印象が強かったことで、何度も脳内でリフレインされているとかじゃない?」
「確かに、その線もあるな。」
「な〜るほど?やっぱ理系の言うことはよく分かんないや!」
「え」
「ちょっとドン引きしないでよ〜!」
「まぁでも、言いたいことは分かるよ。僕も昔から変な夢ばっか見てきたからさ。例えば、夢の中で会った爺さんに、コイツ自分の先祖じゃね?って直感したりしたことがあるのよ。夢の中で。」
「怖いのか懐かしいのか、よく分からなくなるだろうな。」
「そんでね、次の日起きたら、その日が一度も会ったことのない曽祖父の命日だったって、親から聞いて。んで、それを知ったのもその日が初めてだったんですよ。もう僕震え上がりましたからね。」
「うわ〜そりゃ凄いね。」
「だから、理論的には有り得ないけど、もしかしたら予知夢ミテーな何かは存在するんかもしれないな、とも思ったり。」
次の日の夕方、学校からの帰り道。私は街中で見かけた壁に、奇妙な模様を見かけて絶句した。
黒い塗料で塗られた、手のひらサイズの、満月から三日月を差し引いたような形をした、円のような模様。私たちのシンボル、十六夜の月の形にそっくりだ。周りに点がいくつもある。
それは夢の中で何度も見たものと同じ形だった。心臓が一瞬止まったような感覚に襲われ、私はその模様の前で立ち止まった。まさか、夢と現実が繋がっているのだろうか?
点をよく見ると、1、2、3、4...21個!21個の六芒星だ。夢で見たのが21個なのかは覚えていないけど、大体それくらいだった気がする。
「大丈夫か?」
後ろから黒羽の声が聞こえた。彼も模様に気づき、不思議そうにそれを見つめていた。
「これ、前に私が話したやつと同じなんだよね…」
「あ、これが…。確かに昨日ここで見た時、壁は真っ新だったもんな。」
「凄い記憶力だね。」
「そりゃ、毎日通ってて"ここに家が建つのか〜"とか思ってたからな。」
「え、でもさ、そしたら私が夢を見た後に書かれたって事だよね。なんか怖くない?」
私たちはしばらくその模様を見つめていたが、特に何かが起こるわけでもなかった。黒羽が触ろうとしていたが、私は全力で阻止した。すると黒羽は、足元にいたダンゴムシを拾って、壁に放った。ダンゴムシが模様の上を伝って歩いたが、無論、何も起こることはなかった。
立ち尽くす私たちの後ろを、救急車が走り去って行った。かつて、「目の前を過ぎると音が低くなるよね?これがドップラー効果ってやつ。」と黒羽が言っていたのを思い出した。
ーー偶然?いや、そんなわけないよね...。この模様が意味するものは何なのだろう。私達のちょっと変わった「平凡な日常」は、少しずつ変わり始めていた。