第76話 操者がいた
「……何もいねぇじゃねぇかよ」
セトオギロが急に立ち止まる。
村の奥の方まで来た。
だけど一体もトルアキナ族がいない。
「さっきから『邪気』感じてたのによ……」
久しぶりに出たよ、『邪気』って単語。
まだ意味わからない。
今度母さんに訊こ。
「アシトはどこにいると思う?」
ルイナが訊いてくる。
そんなこと言われてもわからないな……。
「わからない……。やっぱ村全体、蒸発させるか?」
「それだと、トルアキナ族の血が集められないと思いますが……」
「トルアキナ族なんてどこにでもいるだろ。それより、ここに操者がいたら、今殺しといたほうがいいだろ?」
俺が言うと、みんなが納得したような顔をする。
これはもうやっていいのかな?
「じゃあ離れてろ。なるべく遠くま――」
そう言ってる最中に、後ろの方で気配を感じた。
急いで振り向くと、そこには一人の女がいた。
右頬に紋様があり、左手の甲に『毒』と刻まれている。
うん、操者だ。
俺はそいつから数メートル離れて、刀を抜く。
「ねぇねぇ、君がアシト?」
女は落ち着いた口調で言ってくる。
そういえばフィランにも『お前がアシトか?』みたいなこと言われたな……。
ってことは、操者は俺を狙っているってことか。
じゃあここで『俺がアシトだ!』っていうべきかな?
そうすればこいつは俺を狙う。
そして多分俺以外のやつは攻撃しない。
その隙にみんなこいつに攻撃すればいっかな?
……いや、そうとは限らないな。
『邪魔なやつは殺す!』みたいな感じで、みんなを攻撃したら意味ない。
どうしよっかな……。
……よし、決めた!
「ああ、俺がアシトだ!」
「へー、変な名前」
はぁ!?
変な名前!?
普通にかっこよくない!?
なんだこいつ!
「じゃ、じゃあお前の名前はなんだよ!」
「あ、知りたい? じゃあ気持ち悪くなりながら聞いてて」
? 『気持ち悪くなりながら』?
その言葉を俺が理解する前に、俺の身体がおかしくなった。
めっちゃ吐き気がするし、めまいもする。
普通にだるい。
俺はふらつき、片膝を地面につけた。
「アシト! 大丈夫!?」
ルイナが俺に駆け寄り、俺と目線を合わせる。
ヤバイ、マジで吐きそう……。
「なんだ、この程度か」
女はさっきとは違う声のトーンで言ってくる。
俺は顔を上げる。
すると、セトオギロ、マユ、キイラが俺と同じように片膝を地面につけていた。
全員具合が悪そうだ。
でもルイナは大丈夫そう。
「鬼ってもっと強いイメージがあったのにな……。これじゃ殺しても楽しくないよ」
女はいけしゃあしゃあと言う。
使ってみたかった言葉をやっと使えた。
『いけしゃあしゃあ』。
……って、こんなこと思ってる場合じゃないな……。




