第305話 全ての始まり、邂逅編 〜4〜
ムルノが目を覚ますと、ムサーナはもう家の中にいなかった。
リビングの机に、一通の手紙が置いてあるだけだった。
『ごめんね、私、やっぱりゼルロのところに行く。あの力がどうしてもほしいの。ムルノと一緒に過ごせてとっても楽しかったよ。もし、私になんともなかったら、また来るから。お礼を言いたいだけだから、前みたいに歓迎しなくても大丈夫だよ。また来れない可能性もあるから、先に伝えとくね。本当にありがとう、そして、本当にごめんね』
その手紙にはそう書いてあった。
ムルノはその手紙を何度も読み返した。
『ムサーナがゼルロの元へ行った』と気づくのに時間がかかった。
――せっかく、また仲間ができたと思ったのにな……
ムルノはその手紙を自分の部屋に持っていき、机の上に丁寧に置いた。
そしてその部屋のドアを閉めた。
しばらくその部屋に籠もっていた。
食欲も外に出る気もなかったのだ。
少しだけ空腹を感じたらリビングに行き、野菜を少し食べる。
そんな生活を数日間続けていた。
数日後、いつも通りムルノがリビングに行くと、ドアを叩く音が聞こえた。
ムルノはなにも思わないままそのドアのほうに向かい、開ける。
そのときにムルノは驚いた。
目の前に例の少女――ムサーナが立っていたからだ。
今までに感じたことのない喜びをムルノは感じたが、それは一瞬で消えた。
ムサーナの表情、そして左手の甲に刻まれている文字を見たからだ。
ムサーナは無表情で、左手の甲には『無』という文字。
ムルノと同じだった。
「ムサーナ……お姉ちゃん……?」
「ムルノ、本当にごめんなさい」
頭を深く下げるムサーナ。
ムルノはまだ理解が追いついていなかった。
それでもムサーナは喋り続ける。
「私、どうしてもあの力が欲しいの」
「……嘘……だよね……?」
「ううん、嘘じゃないよ。私はゼルロに認めてもらった。ゼルロと共に戦うことを条件に、あの力をもらえる」
「……だったら……痛い思いをさせてでも止めるよ……?」
そう言うムルノだったが、まだ自身も覚悟はできていなかった。
ムサーナは頭を上げる。
表情は相変わらず、無表情だった。
次の瞬間――ムサーナはムルノの頭を強く掴んでいた。
「なッ……!」
「ムルノ、ごめんね」
ムサーナはムルノを家の中に向けて投げる。
机に激突し、後頭部を手でおさえながら前に立っている少女を見るムルノ。
「あの力を手に入れたら、記憶がなくなることはあるみたい。だからもう、ムルノのことも忘れちゃうかも。もしさ、もしムルノがまだ私のことを許してなかったら……この戦いの続きは、そのときにやろう」
ムサーナはムルノに背中を向ける。
そして頭だけを回し、ムルノを見た。
「そのときは私も本気でやる。ムルノ以外の人は誰も殺さないけど、ムルノだけは殺す」
「ムサーナ……お姉ちゃん……!」
「……本当にごめんね……」
ムサーナは顔を前に戻し、そのまま走っていった。
ムルノは後頭部に広がる痛みを感じながら、遠のいていく彼女の背を見続けていた。
そしてもう、二度とムサーナはムルノの家に行くことはなかった――。
次回から『終向決戦復讐編』に入ります!




