第301話 終向決戦邂逅編 〜終〜
「……わかった、もう、終わりにしよう」
刀を捨て、ムルノに歩み寄りながら手を伸ばすムサーナ。
そんなムサーナの指が、ムルノの頬に触れた。
その瞬間だった。
ムサーナがムルノを殴る。
ムルノは踏ん張り、吹き飛ばされなかった。
そしてそのままムサーナを蹴る。
吹き飛んだムサーナに向かい、再び踏もうとする。
ムサーナはすぐに起き上がってそれを躱した。
「今度は、そっちが『無』になる番だよ」
ニヤリと嗤いながら言うムルノ。
刹那――ムサーナの両腕が消える。
それと同時にムルノは口から大量の血を吐く。
そんなムルノを、ムサーナは蹴り飛ばす。
何度も地面に叩きつけられながら、ムルノは技を発動した。
ムサーナの動きが鈍くなってくる。
彼女の血液を『無』にし始めてるのだ。
ムルノはその代償でさらに血を吐く。
「……もう、我慢比べだね――!」
ムサーナも能力でムルノの血液を『無』にする。
ムルノも能力の発動を続ける。
互いに代償を受け止め続ける。
それが数秒続いた。
先に尽きたのは、ムサーナのほうだった。
その場で倒れる。
その次には、ムルノも倒れた。
二人とも、生きることには限界だった。
それでもムルノは、ムサーナのもとまで脚だけで這う。
確実に、殺すためだ。
ムルノはムサーナの目を見る。
ムサーナもムルノの目を見た。
二人とも、瞳に光はなかった。
先刻までは肩で息をしていたのに、今は静かに呼吸をしている。
「……ムサーナ……」
「……あーあ……先に……倒れちゃった……」
このとき、初めてムサーナは笑った。
目から血と、涙を流す。
「負けちゃったよ……! 勝つ自信……あったのにな……!」
ムルノの髪に顔を近づけるムサーナ。
そこで耐え切れず、ムルノも泣いた。
しばらく二人の泣き声が響く。
数刻後、セトオギロが立ち上がった。
ただ、『代償』で歪む視界は消えていなかった。
「…………」
セトオギロを見たムサーナは能力を発動する。
その瞬間、セトオギロを襲っている苦痛が消えた。
「あなたの今の苦しみは……『無』にしたよ……」
口から流れる血と声。
「『無』にしたのは……今ある苦しみだけだから……また……苦しくなるかも……」
「……いいのか……?」
「うん……傷つけて……ごめんね……。だけど……ムルノの死は……絶対に……無駄にしないで……!」
「セトオギロ……!」
今度はムルノが喋る。
「先へ……進んで……! 私はもう……! 逝かなきゃいけないから……!」
「……わかった」
セトオギロは目を閉じてそう言う。
セトオギロはわかっていた。
ムサーナが、本当は自分を殺すつもりがなかったことを。
それはなぜかわからないが、とにかく、この少女は自分を本気で殺すことを望んでいなかった。
だからムサーナの言葉との矛盾に困惑していた。
ずっと『殺す』や『本気で戦う』と言っていた、彼女の言葉に。
「……ムルノ、そろそろ……逝こっか……」
「……うん……」
腕がない二人は、抱き合う。
そこからさらに大粒の涙が流れる。
「向こうでも……一緒だよね……? ムサーナ……お姉ちゃん……」
「……うん……。二人だよ……、ずっと……。もう……苦しむ必要は……ないんだよ……」
二人は目を閉じる。
もう、涙が流れることは、なかった――。
次回から、一度過去の話に戻ります!




