第299話 終向決戦邂逅編 〜5〜
「……まさかあなたも私たちと同じになるなんてね」
額から汗を流しながら、ムサーナはムルノを放す。
ムルノの頭が地面に着いたと同時に、セトオギロがムサーナに殴りかかった。
ムサーナは刀で対抗しようとする。
「諦めて。あなたは自分の技の記憶が『無』になってる。しかも武器もない。その状態で私に勝てるわけがない」
「舐めんじゃねぇって言っただろ!」
ムサーナの握っている刀の刀身を素手で掴むセトオギロ。
もちろんその掌は切れ、そこから血が流れている。
それでもセトオギロは刀を放さず、そのまま余った片手でムサーナに殴りかかる。
ムサーナは刀を放さないままその拳を躱した。
「そのやり方、賢いやり方とは思えない。あなたの手からどんどん血を失っていくだけ」
「…………」
黙り込むセトオギロ。
それを『反論の余地がない』と判断したムサーナは刀をずらす。
セトオギロの手から血が流れる。
「どう? 痛い? 安心して、最終的には全部『無』になるから」
「……バーカ、俺がどういうやつか知ってるか?」
「え……?」
ムサーナが推測をしようとしたときには、すでにセトオギロの攻撃は始まっていた。
血が垂れる音が、止んだ。
見ると、セトオギロの手の出血が止まっていた。
「俺はな、死神だ」
「……そっか、そうだよね」
一旦距離をとるムサーナ。
ムルノはそのまま地面に横になっていた。
「私、ちょっと勘違いしてた。あなたを本気で殺そうとしなきゃいけない」
「冗談ならやめろ、今すぐ」
「冗談に聞こえる? この戦いは生死がかかってる。本気で戦わなきゃ殺される」
「……やっぱお前のこと、嫌いだわ」
「だから?」
「……戦う」
地面を蹴るセトオギロ。
ムサーナは感じていた。
先刻から、力が抜かれているような感覚を。
それはセトオギロの出血がおさまったところから始まっている。
これがなにを意味しているのか、ムサーナはすぐにわかった。
自分の養分か、それとも気力かはわからないが、それを吸われている。
そして敵である少年は、それで回復している。
ムサーナはセトオギロに向けて刀を振り下ろすが、それもセトオギロは手で掴んだ。
再び血が流れる。
すると今度は先刻よりも速いペースで、自分のなにかが吸われていることに気づいたムサーナ。
「いただくぜ、お前の全部」
「……だったらこうすればいいんだよ」
セトオギロの胸に手を当てるムサーナ。
刹那――セトオギロの視界が突然歪んだ。
なにが起こったのかはわからないが、それでもふらつく足で踏ん張る。
「あなたが私から吸うなら、私はそれを『無』にするだけだから」
その声は、なんの感情も感じさせないものだった。




