第295話 終向決戦邂逅編 〜1〜
「――!」
目の前の景色が変わる。
それに驚いたムルノは、とうとうゼルロが自分たちを殺しにきたのだと確信した。
ムルノの周囲に広がるのは、真っ白な世界。
一言で表すと、『無の世界』だった。
色はない。
物もない。
なにもない。
「……面倒だな……。どうせならご主人様と一緒に戦いたかったな。……『ご主人様』って言っちゃダメだったんだ。ま、とにかく――」
「お前、独り言多いな」
「うひょ!?」
背後から聞こえた男の声に驚くムルノ。
振り向くと、そこには巨大な鎌を持った男――セトオギロがいた。
「しょ、しょうがないでしょ! 言いたくなっちゃうんだから!」
「別に否定はしてねぇだろ。で、どうやらここで戦うみたいだな。相手はどういうやつだと思う?」
「この景色とリンクしてるなら、なんとなく想像はつくよ」
「へー、そうなんだ」
聞こえる女の声。
なにもなかったはずの目の前の空間に、女が現れた。
トルアキナ族特有の右頬の紋様と、左手の甲に刻まれた『無』の文字。
その者が誰であるかを一瞬で理解できた。
『無』の操者。
「……ムサーナ……」
その女の名前を口にするムルノ。
その女――ムサーナはそれを聞いて特に表情を変えることなく、ムルノに向かって言った。
「久しぶりだね、もうずっと会ってないじゃん」
「あぁ? 俺はテメェなんかと会った覚えねぇぜ?」
ムサーナに鎌を向け、攻撃を仕掛けようとするセトオギロだが、ムルノがそれを目で制している。
セトオギロはその目線を気にしながら、いつでも敵に斬りかかれるようにした。
「あなたじゃない。ムルノに言ってるの」
「……おい、こいつと知り合いか?」
「まぁね、あんまいい関係じゃないけど」
「私は正直、ムルノだけと戦いたかった。これ以上犠牲を出す必要はない」
「まるで俺が死ぬみたいに言うじゃねぇかよ」
『これ以上犠牲を出したくない』、この言葉の真の意味を理解できたのはムルノだけだった。
この言葉を放っているのが他の者だったら、ムルノもセトオギロと同じように、『ムサーナによってムルノ以外の者も死ぬことになる』と解釈しただろう。
しかしそれは違う。
「……相変わらず変わってないね、そういうの」
「悪い?」
「……ううん。否定するつもりはないよ」
「じゃあそろそろ楽しもっか。できそう?」
「うん。準備オッケー」
ムルノはセトオギロから目を離す。
それを合図に、セトオギロが鎌でムサーナに斬りかかった。




