第282話 『もと』学校へ
俺は今、もと学校があった場所にいる。
俺がこの世界に転生――というか、転移してきたばっかのときに行ってた場所。
『もと』ってつけたのは、もう学校とは呼べないようなものになっていたから。
建物は崩れていて、瓦礫が広がっている。
今思い返せば、ここから始まった。
ここでフィランと会って、操者のことを知って、そこからどんどん戦っていった。
そして、ここで俺――鬼はみんなから嫌われてるって知った。
もし俺がここに通っていなかったら、今はきっと違う道を歩んでたかもしれない。
母さんの影響で操者と戦うことにはなると思うけど、セトオギロたちは巻き込まずに済んだ。
「――アシト、ちょっと話していい?」
後ろから聞こえる声。
俺は振り向いて、その声の正体を確認する。
そいつ――ルイナは俺の隣まで歩いてきた。
「ここ、懐かしいね。もうあんなに前のことだったんだ」
「……そうだな」
「……アシトはさ、不思議に思った?」
ルイナが瓦礫に触れる。
そして言葉を続けた。
「私がさ、全然取り乱してなかったことに」
「……どういう意味?」
「覚えてる? なんで私とかセトオギロたちが、アシトの家で生活することになったか」
そうだ、確かにこいつらは急に俺の家に来た。
その理由は確か……『住んでたところがめちゃくちゃにされたから』とかだった気がする。
「いつも通り家に帰るとね、みんな殺されてたんだ。近くの家もみんな壊されてて。私は見たよ? 育ててくれた親の死体を。そのあとにアシトの家に行ったんだけど、全然取り乱してなかったでしょ? なんでだと思う?」
「……ルイナの本当の親はキトナだ。キトナ以外は信用できず、そこまで愛情も感じなかったからか?」
「うーんとね……、どっちなんだろ、当たりか外れか。私から言うと、二つ理由があったんだ」
ルイナは身体を少しだけ傾けて、俺の目を見る。
そのときにやっと目が合った。
「まず一つ。ムルノが私の感情を『無』にしたから。それはセトオギロとかのところも同じだよ。みんながパニックになってなかったのも、それが理由。私の場合はもう一つあるんだ」
ムルノの能力。
確かにあいつなら激しい感情を消すことができるかもしれない。
「私はね、正直その親が嫌いだったんだ」
「反抗期ってやつ?」
「ううん。最初の私は昔の記憶を失ってたから、その親を本当の親だと思ってた。大好きだったよ? でもね、ある発言で嫌いになったんだ」
「ある発言……?」
「うん。『鬼なんかと関わるな』って言うの。そのときちょうど学校でアシトと仲良くなったからね。そのことが嬉しくて、その人たちにも言ったんだけど、そう言われちゃった」
俺は嫌われ者だった。
自分の娘が嫌われ者と仲良くなってほしくない。
だってそのせいで、娘も周りから嫌われてしまうかもしれないから。
その親の言ってることは正しいかもしれない。
ただ、俺からするとつらいな……。
「だからさ、死体見てもあんまり悲しくなかったんだ」
「…………」
「うん、これが言いたかったの。ずっと隠してたからさ……。今思うと……私って最低だね」
「そんなことはないと思う。ルイナは別にその親を殺したわけじゃない。だから――」
「ありがと」
ルイナはニッコリ笑って、それだけ言った。
……もっと早く気づけばよかった。
ムルノがみんなの感情を『無』にしたらしいけど、なんでそれができた?
みんなの親が殺されたことを、ムルノがそのときに知ってるわけがない。
それを知ってるのはルイナやセトオギロたちと――その親を殺した人たちだけ。
じゃあムルノは――?
……単なる推測ってのはわかってるけど、あんまりいい気がしないな。




