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第1話約束

「僕とずっと一緒にいて」


「はい」


「お父様が僕たちは将来結婚するって。その約束をしてる最中なんだ。 だからずっと一緒だよ」


「はい」


「約束だよ」


「はい!約束です!」


 王城の中庭。

 そこで初々しいカップルが今まさに誕生した瞬間だった。春の暖かな日差しと色とりどりの花々。演出効果もバッチリだと思う私は一般的な幼子と比べて冷めていた。


 ホンワカとした雰囲気を醸し出している小さな恋人達を生温かい目で見る周りの大人達と違って。


 今年七歳になる王太子と同い年の姉。

 二人の婚約は決定事項。というよりも殆ど王家のゴリ押しと粘り勝ちといった処だろう。王家はどうしても姉を次期王妃にしたいらしい。我が家としては大変遠慮したいのだが聞き入れて貰えなかった。


 王家と公爵家との縁組。


 他の公爵家なら喜ぶ縁組ではあるが我がノノミヤ公爵家にとっては迷惑極まりないものだった。

 

 それにしても、あの王太子は理解しているのだろうか?

 姉と約束を交わす意味を……。



「僕は何れ王様になる。イツキはお妃様だ」


「はい!」


「二人で良い国を作ろう!」


「はい!」


「僕は歴史に残る偉大な王になる!この国を世界で一番素晴らしい国にするんだ。豊かで楽しくて皆が笑顔に溢れている国に!イツキも手伝ってくれる?」


「勿論です!」


「約束だよ?」


「はい!約束です!」



 微笑ましい会話が聞こえてきますが、私の心は複雑です。

 


 『約束』


 実の妹でも姉とこんな恐ろしい事は出来ない。 何しろ、他の人と違って軽々しく出来るものではないからだ。

 姉と約束をするという事は『契約』をするという事だ。『精霊の愛し子』である姉と交わした約束は恐ろしい程の効力を発揮する。

 王太子が『約束』を守れたなら、彼は『王』としての未来が保証される。彼自身に才能がなくともだ。例え、王太子がアッパラパーであっても姉の『加護』を得ている以上、歴史に残る名君になる事は約束されたようなものだ。それこそ建国の英雄と謳われる初代国王にも手が届く程に。


 けれどそれは、『約束』を守る事が絶対条件。どんな事があろうとも、何が起ころうとも守らなければならない。ある意味、呪いと言ってもいい。


 もしも、王太子が『約束』という名の契約を破棄した場合、与えられた『加護』は消滅する。王太子が約束を反故にした気が無くとも、精霊()が約束に反したと受け取れば契約違反とみなされる。

 契約違反とみなされて自分一人が破滅するならまだしも、反動で他者にまで被害が覆いかぶさる可能性が高いのが愛し子との約束。


 愛し子との約束を守れない人間には相応しい末路が待っている。


 それは歴史書でも書かれている事実。

 あの様子では王太子は知らないのでは? 後で知って後悔しなければいいのだけど……。知ったとしても姉との約束を生涯守れば良いだけの話ではある。が、それ自体が中々難しい。




 歴史を紐解けば、過去に何人もの人間が『精霊の愛し子』に加護を願った。


 基本、愛し子は「善人」だ。

 皆が快く応じた。


 加護を与えるために人と『約束』という名の契約をした。


 その『約束』を守った人もいるが、大半は『約束』を反故にして破滅していった。

 『約束』をした人間の中には国王や王子も数多おり、彼らの国々は今はもうない。『約束』を破ったがために国も民も失い歴史の闇に埋もれてしまった。


 欲を掻いた者の末路――


 歴史書ではそう描かれている。

 けれど、人とはそういうものだ。


 あの王太子がどうなるのかは誰にも分からない。

 王太子が過去の愚か者達と同じにならない事を祈っておこう。

 

 



 



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