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拝啓 元婚約者さま

作者: 宵闇


ごきげんよう、王太子殿下。

あなたがこの手紙を見つける頃には、私はもうここにはいないでしょう。

不敬罪に当たるかもしれませんが、思い出の清算のために少し話をさせていただきます。


もともとは、王家からの打診で結ばれた婚約でした。

でも、私はあなたのことが嫌いではありませんでした。いえ、むしろお慕いしていました。

昔、弱小貴族である私の家の領地を視察に来てくれた時。あの時に遠くから見たあなたに惹かれていたのです。

あの時はまさか自分に力があることも、その上、そのおかげであなたの婚約者になれるなんてことも夢にも思っていませんでした。


ですから、王家から縁談が来た時、内心は嬉しさでいっぱいでした。

顔合わせからずっと続くあなたの冷たい対応や嫌味にも、前から私と同じような境遇のご令嬢をとっかえひっかえしていると噂を聞いても、あなたの妻になるためにと我慢し、精一杯努力しました。

これを言うと皆様誤解されるのですが、私は“王太子妃”、ゆくゆくは“王妃”の座につきたかったわけではありません。純粋にあなたの妻になりたかったのです。


しかし、そんな私の想いは、努力は、今日すべて水の泡になりました。

あなたが夜会で、他のご令嬢をエスコートして入ってきたときに、今までの私のすべてが無駄になったように思いました。

あんなに国のために、あなたのためにと通常業務(結界維持)と両立させて勉学、マナー講座、ダンスの練習までこなしていたのに。

もちろん一国の王太子であるあなたの忙しさ、重圧に比べれば、私の日常生活なんて比べ物にならないでしょう。それでも、私は私なりに、あなたにふさわしくなれるよう尽力していました。

その結果として、今回のような騒ぎになってしまいましたが。


“本当に聖女なのか”“王家、そして国民を騙した悪女とは結婚できない”


衆人環視の中であなたに言われた言葉は、周囲の貴族たちに大きな影響を与えました。既にあの場にいた貴族から、平民の一部にまでその話が広まっているようです。

疑われるのは心外なので言っておきますが、私の力は本物です。

きっとあの男爵令嬢――自称新人聖女に何か吹き込まれたのでしょう?


話がそれてしまいました。

最終的に私は、この国を出ることにいたしました。

幸い、隣国に知り合いがおり、すぐにでも来ていいとのお言葉を頂いたため、急遽出発の準備をしながら準備の合間にこの手紙を書いています。


私の中で、あなたへの恋心はすでに思い出です。

あなたが私のことを何とも思っていなかったのは知っていましたが、やはり傷つくものですね。

元からこうなる予感がしなかったわけではありませんが、私はあなたを信じたかった。


衆人環視の中婚約破棄され、ニセモノ聖女と貶められた今、私がこの国にとどまる理由がありません。

もともと私は成人とともに隣国へ移住する予定でしたし、その予定が少し早まっただけ。問題は何一つありません。


いえ、一つだけありました。


この国の聖女は私で最後でしたね。

馬鹿なあなたもそろそろ気付いているとは思いますが、あの男爵令嬢は聖女ではありません。他の聖女たちはこの国を見捨ててとっくにここを出ました。そうですね、二年ほど前でしたっけ。

つまり、ここ二年間のこの国の結界の維持は私一人が担っていたわけです。

ついでに伝えておくと、ここ最近落ち着いていた魔物の動きが活発になってきたそうですよ。もちろんこれは信頼できる情報です。


果たして、聖女が一人もいなくなったこの国がいつまでもつのか。

隣国でしっかりと見届けさせていただきます。


こうなったのはあなた方の自業自得。

今まで散々聖女(私たち)を雑に扱い、貶めてきた報いです。

さすがにもう理解したと思いますが、力を持つ者がいつまでも馬鹿な国に仕え続けると思ったら大間違いですよ。


あら、迎えの者が来たようです。

長い手紙になってしまいましたが、そろそろ終わりにしましょうか。


それでは、またお会いできる日まで。




お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 楽しく読ませてもらいましたよー(10ptどーぞ) [気になる点] 題名なのでちょっといいかなー……って思ったけど、『拝啓』で始まってるから、『敬具』とかで閉じた方がいいと思うよ。まあ題名だ…
[一言]  ん~。 あとがき辺りにでも、博物館又は歴史資料館に所蔵されている、滅びた国の廃墟より見つかった手紙。  とか、または直接伝聞として、この○年後にかの国は滅びたと言う。 とか。  少しだ…
[一言] バカな王太子verか、数少ないであろうまともな一官僚verなんか読んでみたいです。ばかな王子はきっと最期まで騙された俺可哀想~か、この程度で国を捨てた聖女許さん!でしょうし、まともな思考を持…
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