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雨の神様  作者: アタリ9
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最終話 輝く愛

遅れてすみません!

「あまね~。あ~まね~。あ~あ~あ~、あ~まね~」

「……桜。頭でも打った?」

「大丈夫。どこも打ってないよ」


 今日も(とどこお)りなく授業は進み、あっという間に放課後を迎えた。


 変な歌をうたう桜の手を取り、私達は学校を出る。今日も今日とて天気は雨だ。降り注ぐ雨粒が、私の傘をパタパタと鳴らした。


「今日も雨だねぇ…」

「そうね。で、何で桜は傘持ってないの?」

「いやぁ、わたしの傘は散歩が好きみたいでね。参っちゃうよ」

「ずいぶんと元気な傘ね。……ま、いいけど」


 ついこの間も似たような事があったなと思いつつ、雨に濡れた道を歩く。今日は珍しく、カエルの鳴き声が聞こえた。


「桜はカエル好き?」

「うーん。イラストとか、デフォルメされたのは好きだけど、現物(げんぶつ)は苦手かな」

「現物て」


 何気ない会話の最中に、肩がぶつかる。そう、相合い傘は非常に距離が近い。私の傘が少し小さいと言う理由もあるが。


「ごめんね桜。小さい傘で」

「ううん、小さくてもいいよ。その分……やっぱり何でもない」


 桜は何かを言いかけてやめた。気にはなるけど、私もそれを問い詰める事はしない。余計な詮索は、往々にして相手に迷惑がかかるからだ。


 その後は少し無言で歩く。聞こえるのは二人分の足音と、カエルの鳴き声と雨の音。こうしてみると、世界に私達だけしかいないように錯覚する。


 ぴちゃぴちゃと跳ねる足音は、私達をバス停へと導く。そしていつも通り、私と桜は並んでベンチに腰かけた。


 到着早々に桜は、私の肩に頭を預ける。


「桜?」

「…少しだけ、こうさせて」

「わかった」


 体調が悪いのか、それとも眠いのか。桜は薄く瞳を閉じ、ポツリと呟く。


「これだけ雨が降ってたら、霧に(まど)ってはぐれちゃうかもね…」


 突然何を言い出すんだ桜。ポエムか? しかし、彼女が冗談で言っている様子はない。


 だから私も、真剣に考えて答えた。


 私は桜の手を優しく握る。


「こうして手を繋げば、きっと離れないよ。何があっても。それこそ霧なんかじゃ、私達を()くことなんてできない」


 我ながら少し痛いセリフだっただろうか。でも私は、本心でそう思っていた。


「あまね、なんか詩人っぽいね」


 私の手をギュッと握り返し、桜は無邪気に笑う。その笑顔を見るだけで、とても心が安らいだ。


「あ。せっかくだし、二人で写真でも撮ってみる?」

「いいよ~」


 気の抜けた許可を貰えたので、スマホのカメラを起動し、内側のカメラに切り替える。


 画面の中に顔を納めてボタンを押すと、私達の表情が保存される。この瞬間、刹那を切り取る技術を作った人に称賛を送りたい。改めて考えると、カメラってすごすぎる。


 桜は私のスマホの画面を覗き、満足そうに頷いた。


「後でわたしにも送ってね」

「おっけー」


 その後はあまり会話もなく、私は降る雨をぼーっと眺めていた。桜と話すのは楽しい。けど、一緒にいながらにして、各々の時間を過ごすのも好きだ。


 きっと、桜もそう思っている。期待しながら横を見ると、桜は寝ていた。なんか、目を離したらいつも寝ている様な気がするな。


 とりあえず寝顔を写真に納め、桜の顔をまじまじと観察してみる。無防備な寝顔は、見る者(私)の顔を熱くした。


「やっぱり、よくないな…」


 自らの心から湧き出る謎の羞恥と罪悪感。それらから逃げる為に、私は目を閉じた。





「うーん…よく寝たぁ…」


 目を開けると映るのは雨降りの道路。そうだった、今はバスを待ってたんだっけ。


「あま…」


 声を出しかけて、わたしは自分の目を疑った。


「あまね…寝てるの…?」


 小声で尋ねるも、返事はすぅすぅといった寝息だった。なんて珍しいんだろう。あまねの寝顔は初めて見た気がする。


 普段はキリッと、気を張りつめた顔をしているけど、今のあまねは違う。なんていうか、ゆるゆるに緩んでいる。そう、緊張感みたいなのが無い。寝てるから当たり前なんだけどね。


「…!」


 瞬間、わたしは閃いた。自分の鞄からスマホを取り出し、多分あまねなら許してくれるだろうという、根拠の無い自信と共にシャッターを切る。


 かくして、わたしは非常にレアな写真を手に入れた。帰ったら絶対にバックアップをとっておこう。


 スマホをスリープにして、あまねを観察してみる。わたしの目を一番引くのは、あまねの髪だった。


 肩まで伸びている髪は、まさしく濡烏(ぬれがらす)とでも言うべきなのか、とにかく美しい黒髪だ。正直羨ましい。


「ふぅ…」


 胸の中に、熱が燻る。あまねを見ていると、どうにも調子が狂う。本人の前ではいつも通り振る舞っているけど、心拍数はずっと高いままだった。


 わたしは分かっている。この気持ちがなんなのかを。しかし、それはまだ言葉にはできない。したいけど、してはいけないんだ。


 だからこそ、心の中で反芻(はんすう)する。


 初めて見た時からずっと、あまねの事が好きだったと。


 愛しく想う気持ちも、伝えられなければ、やがて(くさり)になってわたしを縛るだろう。


 重く、苦しい。言いたいけど、言えない言葉。


 でもいつか、伝えてみせる。


 だからあまね、今はまだわたしと、


「友達でいてね」


 眠るあまねの頬に、唇で触れる。


 いつの間にか雨は晴れて虹が出ていたけど、そんなものはどうでもよかった。


 だって、わたしの目の前には、何よりも輝く太陽があるのだから。

最終話いかがだったでしょうか。


今後も、こんな感じで短いお話を作っていこうと思いますので、是非ともよろしくお願いいたします。


雨の神様のこぼれ話というか、まだ考えていた話もどこかで書きたいなとも、思ってます。


あと、本当に遅れてすみませんでした!

それでは!

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