最終話 輝く愛
遅れてすみません!
「あまね~。あ~まね~。あ~あ~あ~、あ~まね~」
「……桜。頭でも打った?」
「大丈夫。どこも打ってないよ」
今日も滞りなく授業は進み、あっという間に放課後を迎えた。
変な歌をうたう桜の手を取り、私達は学校を出る。今日も今日とて天気は雨だ。降り注ぐ雨粒が、私の傘をパタパタと鳴らした。
「今日も雨だねぇ…」
「そうね。で、何で桜は傘持ってないの?」
「いやぁ、わたしの傘は散歩が好きみたいでね。参っちゃうよ」
「ずいぶんと元気な傘ね。……ま、いいけど」
ついこの間も似たような事があったなと思いつつ、雨に濡れた道を歩く。今日は珍しく、カエルの鳴き声が聞こえた。
「桜はカエル好き?」
「うーん。イラストとか、デフォルメされたのは好きだけど、現物は苦手かな」
「現物て」
何気ない会話の最中に、肩がぶつかる。そう、相合い傘は非常に距離が近い。私の傘が少し小さいと言う理由もあるが。
「ごめんね桜。小さい傘で」
「ううん、小さくてもいいよ。その分……やっぱり何でもない」
桜は何かを言いかけてやめた。気にはなるけど、私もそれを問い詰める事はしない。余計な詮索は、往々にして相手に迷惑がかかるからだ。
その後は少し無言で歩く。聞こえるのは二人分の足音と、カエルの鳴き声と雨の音。こうしてみると、世界に私達だけしかいないように錯覚する。
ぴちゃぴちゃと跳ねる足音は、私達をバス停へと導く。そしていつも通り、私と桜は並んでベンチに腰かけた。
到着早々に桜は、私の肩に頭を預ける。
「桜?」
「…少しだけ、こうさせて」
「わかった」
体調が悪いのか、それとも眠いのか。桜は薄く瞳を閉じ、ポツリと呟く。
「これだけ雨が降ってたら、霧に惑ってはぐれちゃうかもね…」
突然何を言い出すんだ桜。ポエムか? しかし、彼女が冗談で言っている様子はない。
だから私も、真剣に考えて答えた。
私は桜の手を優しく握る。
「こうして手を繋げば、きっと離れないよ。何があっても。それこそ霧なんかじゃ、私達を割くことなんてできない」
我ながら少し痛いセリフだっただろうか。でも私は、本心でそう思っていた。
「あまね、なんか詩人っぽいね」
私の手をギュッと握り返し、桜は無邪気に笑う。その笑顔を見るだけで、とても心が安らいだ。
「あ。せっかくだし、二人で写真でも撮ってみる?」
「いいよ~」
気の抜けた許可を貰えたので、スマホのカメラを起動し、内側のカメラに切り替える。
画面の中に顔を納めてボタンを押すと、私達の表情が保存される。この瞬間、刹那を切り取る技術を作った人に称賛を送りたい。改めて考えると、カメラってすごすぎる。
桜は私のスマホの画面を覗き、満足そうに頷いた。
「後でわたしにも送ってね」
「おっけー」
その後はあまり会話もなく、私は降る雨をぼーっと眺めていた。桜と話すのは楽しい。けど、一緒にいながらにして、各々の時間を過ごすのも好きだ。
きっと、桜もそう思っている。期待しながら横を見ると、桜は寝ていた。なんか、目を離したらいつも寝ている様な気がするな。
とりあえず寝顔を写真に納め、桜の顔をまじまじと観察してみる。無防備な寝顔は、見る者(私)の顔を熱くした。
「やっぱり、よくないな…」
自らの心から湧き出る謎の羞恥と罪悪感。それらから逃げる為に、私は目を閉じた。
「うーん…よく寝たぁ…」
目を開けると映るのは雨降りの道路。そうだった、今はバスを待ってたんだっけ。
「あま…」
声を出しかけて、わたしは自分の目を疑った。
「あまね…寝てるの…?」
小声で尋ねるも、返事はすぅすぅといった寝息だった。なんて珍しいんだろう。あまねの寝顔は初めて見た気がする。
普段はキリッと、気を張りつめた顔をしているけど、今のあまねは違う。なんていうか、ゆるゆるに緩んでいる。そう、緊張感みたいなのが無い。寝てるから当たり前なんだけどね。
「…!」
瞬間、わたしは閃いた。自分の鞄からスマホを取り出し、多分あまねなら許してくれるだろうという、根拠の無い自信と共にシャッターを切る。
かくして、わたしは非常にレアな写真を手に入れた。帰ったら絶対にバックアップをとっておこう。
スマホをスリープにして、あまねを観察してみる。わたしの目を一番引くのは、あまねの髪だった。
肩まで伸びている髪は、まさしく濡烏とでも言うべきなのか、とにかく美しい黒髪だ。正直羨ましい。
「ふぅ…」
胸の中に、熱が燻る。あまねを見ていると、どうにも調子が狂う。本人の前ではいつも通り振る舞っているけど、心拍数はずっと高いままだった。
わたしは分かっている。この気持ちがなんなのかを。しかし、それはまだ言葉にはできない。したいけど、してはいけないんだ。
だからこそ、心の中で反芻する。
初めて見た時からずっと、あまねの事が好きだったと。
愛しく想う気持ちも、伝えられなければ、やがて鎖になってわたしを縛るだろう。
重く、苦しい。言いたいけど、言えない言葉。
でもいつか、伝えてみせる。
だからあまね、今はまだわたしと、
「友達でいてね」
眠るあまねの頬に、唇で触れる。
いつの間にか雨は晴れて虹が出ていたけど、そんなものはどうでもよかった。
だって、わたしの目の前には、何よりも輝く太陽があるのだから。
最終話いかがだったでしょうか。
今後も、こんな感じで短いお話を作っていこうと思いますので、是非ともよろしくお願いいたします。
雨の神様のこぼれ話というか、まだ考えていた話もどこかで書きたいなとも、思ってます。
あと、本当に遅れてすみませんでした!
それでは!