第十六話 激突
一行は、数時間飛んだ後地上に降りて休み、又数時間飛ぶという移動手段を繰り返し、二日ほどで遊州に辿り着いた。
遊州は青州と文化がにていた。歴史的に、青州、遊州、徐州は昔太公望姜子牙が納めていた土地だったとの事、なので民の生活習慣や文化が似ていた。それでも一行は初めてこんなに遠く外出した者が多数だったのでみんな心が浮かれていた。
「今夜は此処で宿を取り、一晩過ごす、明日の朝、太公望様の墓地の前で他の流派のものと待ちあせる約束をしている、今日は存分に体を休めるがいい」
「はい、わかりました」と一同が返事をして解散した。
晧は夜市場を回ろうと意見を出した、この意見には流石に誰も反対する者はいなかった。
四人は夜の市場で色々な店や出し物を見回した、そして、お腹も減ってきたところで近くの料理屋でラーメンでも食べてから宿に戻ることにした。
料理屋は既に人で賑わっていたが、晧たちが着いた時ちょうど一席空いたのでみんなそこに座り、適当な事をしゃべり始めた。
「なあ、ずっと思ってたんだけど李墨ちゃんは二年前柳の試練をすんなり超えたけど、何か霊力を上げるための修行をしていたのか」と晧。
「ああ、うん、そのことなんだけど、実は小さい頃から父上から変な姿勢の座り方を教わってな、妹の李韻と二人で武術のあいまにやらされてたんだ」
「その変な姿勢の座り方ってまさか」と聖。
「ああ、入門してからやっとわかったが、それが四形と呼ぶもので、一般人がその四つの型で長年かけて体内に霊気を取り組む修行方法だったんだ」
「やっぱな、道理で、受かったわけだ。でもなんでお前のおやじさんが四形を知ってたんだ」と聖。
「あれ?言ってなかったけ、私の父の兄弟子が李武さんだって事」
「ええええ?!あの薬草や仙丹学にすっごく詳しくて曹康様のお弟子の?」と晧。
「ああ、その通り、あの李武さんだ。父は私が幼い時に李武のおじさんに四形の極意を教わり、私と李韻が自立できる年頃に成ったら弟子入りに来るように案内していたらしい」
「え?李韻のやつもいつから来るのか」と聖。
「ああ、たぶん今年入ってくるとおもうよ、李韻も十三歳になるしな」
「まじか、あいつ絡んでこないといいけどな」と聖。
「李墨ちゃん、妹がいるの?」と今まで余り喋らなかった大牛が口を開いた。
大牛はずっと李墨に好意を抱いていたが、聖との関係をしり、諦めていたが、妹がいることを知り再び熱情の火花を心内で燃やしはじめるのだった。
「ああ、二歳下の妹が一人な」
「そっか、二歳したか~」と何かを思いめぐらすような大牛。
そんな時少し離れた席から女の子の声が飛び上がった。
「ちょっと、なにこれ?こんなまずい料理誰が食べれるの?」
そう、店員に文句を言っていたのは年が晧たちと変わらない若い妙齢の娘だった、彼女は全身を赤い服で纏、所々金の刺繍が施されていた豪華な身なりをしていた。同じ席には彼女よりやや年上の使用人姿をした青年が座っていた。
「申し訳ありません、ですがこれが当店の最高級の食べ物でして、これ以上のものは扱っておりません」
店員が申し訳なさそうに何度も何度も謝った。
「んもう、なんで私たちがこんなへんぴな所まで来なきゃいけないのよ、ちゃんとした料理も出せないような田舎よ」
彼女は不満を隠すことなく大声で騒ぎ立てた。
「それは仕方ないですよお嬢様、旦那様は今回の件かなり重視しているようですし、此処は穏便に我慢してください」
使用人姿をした青年は女の子を慰めようとしていた。
彼女らの騒ぎを目にした聖は「わがままな女」と呟いた。
思いがけなかったことはその何気ない一言が彼女の耳に入った事だった。
「ちょっと!、いま私の悪口言ったやつはだれ!」
彼女は聖達に向かって叫び、ずかずかと聖達の方に歩きより、聖達の机まで来ると腕を組み皺を寄せながら聖達に問いただした。
「私のことわがままって言ったやつはあんた達の中のだれ!」
「俺だよ」聖も苛ついた口調で言い返した。
次の瞬間彼女は何処から出したのかわからないが、小刀を手に聖の首に向かって突き出していた。
聖はこの一年間仙術修行は主に肉体強化系の者を取得していた、だから小刀が首に触れるか否かの刹那に反応し首を後ろに引いて絶命の一撃を躱した。
この攻撃に瞬時に反応したのは聖だけじゃなかった、李墨は腰に巻き付けてあった帯を掴み攻撃してきた赤い服の女に向けて払った、「ギンッ」と刃物がぶつかり合う音とともに、李墨の帯は剣の様な金属化しており、それを黒く短い刀で受け止めた使用人の姿がいた。
「下がってください」
使用人は落ち着いた口調で赤い服のお嬢様にそう告げた。
「あっぶねーな!てめー何しやがる」
とっさの一撃を避けた聖がお嬢様に怒鳴りつけた。
お嬢様は聖を睨みつけながら、
「お前、私の事侮辱しといて生きれると思うなよ」
そういうなり手にしていた小刀で又聖に切りかかった。
聖は攻撃をかわしながら応戦しようとする、そのとき晧が長めの筆を持って助けに来た、からもこの一年少なからず剣術を習った、手者に剣がなかったので筆で代用したのだ。
使用人姿の青年と李墨も打ち合い始めた、両者ともに華麗な攻防を繰り返し決着がつかない、この時、彼らの間を黒い物体が飛び交った、大牛の黒煉瓦だった。
黒煉瓦は戦っている二組のの間を飛び、彼らを一旦別れさせた。
「皆一旦手を置いて!」と大牛。
引き離された二組は相手を警戒しつつも大牛の方に顔を向けた。
聖が先に口をきいた。
「おい、こんなあっぶなかしい奴ら放っておけねーだろ」と聖。
「ああ、いきなり刃物で切り付けるなんて正気じゃないね」と晧
「っは、私が誰を切り付けようが私の勝手だ」赤い服の女は自己勝手な意見を主張する。
店の客は先ほどの騒ぎで皆「人殺しだー」だの「助けてー」と騒ぎながら外に走り逃げた。
「晧、聖、李墨ちゃん、僕らも此処を去るよ、後で役員のお世話になりたくないでしょ」と大牛。
「お嬢様、我々も此処は去りましょう、このままだと旦那様に怒られます」
自分の父親に怒られる事をお恐れたのか、使用人姿の青年に言い返すことなく、聖にかみ殺すかのような目線を送りその場を去っていた。使用人姿の青年も後を追う。
「さあ、僕らも行くよ」と大牛が晧たち三人にそう告げてから四人はその料理屋を去った。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
夜道を歩く男女の姿が有った。
「今度あの餓鬼見たら殺してやる」
赤い服の少女はそまるで独り言の様に傍にいる青年にそう漏らした。
「.....」
「なあ、赤虎私の言う事聞いてるのか」
「はい、お嬢様、次回やつめに出会ったら間違いなく仕留めて差し上げます」
「...帰ったらこの事は父さんには内緒、いいね!」
「はい、我々はただ単に夜食を済まして帰ってきました納品で何も問題はございません」
「ふふ、それでいいわ」
二人は町一番の旅館に入った、その日その旅館は貸し切りにされていた。旅館に入るや否や二人は呼び止められた。
「羽燕、赤虎少しわしの部屋まで来い」
その声は低く貫禄のこもった声だった、そして誰もいないのに空中から伝わってきたのだ。
「げ?!父さんの声だ」
「はあ、仕方ないですね、お嬢様行きますよ」
二人はそう言って階段を上がり一番奥の部屋の前までやってきた、そして戸を叩く前に「入れ」と先ほど伝わってきたと同じ声が中からしてきた。
羽燕は深呼吸をして戸を開いた。開けた寝室の真ん中に豪華な円卓がも設けられており、そこに中年の一人の男が居座っていた。
男は片手に本を持ち、もう片方の手は悠々とお茶を飲んでいた。
「旦那様、ただいま戻りました」と中年男に深々とお辞儀をしながら挨拶した赤虎。
「お父さん...ただいま戻りました」羽燕も恐る恐る口調で自分の父親に挨拶した。
中年男は目線を本から話すと羽燕と赤虎に対して厳しい口調で問いただした。
「儂が今回の任務に出かける前に決めた掟を言ってみろ」
「っは、今回は任務以外の事で騒ぎを起こすべからずと」赤虎はすかさず答えた。
「羽燕、お前も覚えてるか?!」
「はい、もちろん覚えてるよ」
「ならどうして先ほど大騒ぎを起こした?!」
「旦那様あれは...」
「お前に聞いていない」口を開こうとした赤虎に厳しい眼差しで睨みかえして、彼を黙らせた。
「あ、あれは私がばかにさたから...ついかっとなって」
「ついかっとなって人を殺そうとしたのか?!」
「旦那様、お嬢様は....」
「黙れ!」と声と共に彼は片手で赤虎を払った、その衝撃波で赤虎の体が宙を舞いドンっと寝室の壁に体を打ちつかす。
これを見て羽燕も青ざめた、父親がこれほど自分に対して激怒したのは初めてだった。羽燕の父は自分達が犯した過ちで部下に手を挙げることはなかったからだ。
「いいか、羽燕今回の任務は我々一族の威厳がかかっている、失敗は許されんのだ、それをお前のわがままで台無しになった時は覚悟をしておけ!」
羽燕は今でも泣き出しそうな顔で全身ぶるぶる震えながら小声で「はい」と返事をした。
その姿を見て、可哀そうに思えたのか、中年男は疲れた口調で、
「もういい、され」と赤虎と羽燕に命令した。
よろよろと立ち上がる赤虎を羽燕が支えて外に出ようとしたとき、
「赤虎、あとで六爺に回復薬を貰ってこい」と吐き捨てた。
「は、はい、ありがとうございます、旦那様」
赤虎の感謝のの言葉に彼を見ずに手を振り『出ろ』と支持を出した中年男。
赤虎と羽燕が出た後に、寝室の陰からすうっと人影が出てきた。