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九州仙戦  作者: 龍閣
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第十四話 本堂の十一人

趙さんは四人を本堂に連れて行った。

今年は柳の試練に合格する人が出なかったのだ。趙さん曰く、本来その方が正常で去年みたいに一年で三人も一気に受かることなどはなかったとの事。


本堂は竹の里よりさらに森の奥に行ったところに有り、その規模は竹の里より小さいが建物一つ一つがちゃんとした煉瓦製だった。


四人は趙さんに連れられて大きな建物に入った。


「ここが本堂の一番大きな殿堂でんどう大和殿たいわでんだ」


趙さんが簡潔に一言だけ説明した。


中に入るとそこには一つ大きな椅子が中心部に置かれており、その両脇に若干素朴な椅子が右に五つ、左に六つ並べてあった。見たところ殿内と椅子は日頃から奇麗に整備されているようだが、普段は使われている様子はなかった。


「まあ、お前ら、此処で暫く待て」


そう言って趙さんは両脇に並べてある椅子の一つに座った。


「おう、酔っ払い今日は珍しく早いな」


大和殿の外から女の声がした。


詩月しげつ様だ」


その声をを聞いた大牛は嬉しそうな声を上げた、どうやら彼が言っていた詩月と言う人物らしい。


男女が二人入ってきた、一人は長身で白い服を着た詩月だった、そしてその後ろで無言で歩いていたのは東鉉だった。


詩月は大牛にきずいた。


「おお大牛、この一年で学問の方は昇進したか」


「はい、詩月様、今はもう大丈夫ですどんな仙術の巻物でも読めます!」


「それはいいことだ、後で一年前に伝授してやろうと思ってた術を教えてやるから楽しみにしてろ」


「はい!」


詩月も椅子に座ったが東鉉は無言で彼女の後ろに立った。


暫くすると又知らない人たちが続いて入ってきた、まずは道士の服を身にまとい長い顎髭あごひげをはやし、頭を団子にしてかんざしでとめた、いかにも「仙人」と言う格好をした老人だった。先に来た趙さんと詩月たちは椅子から立ち、この老人に向かって「曹の兄者」と拱手した、そして曹の兄者と呼ばれた老人が座るのを待ってから又座り戻した。その後に来たのは質素な灰色の服を身にまとった中年女性で、彼女も「曹の兄者」と老人に拱手して彼の隣に座った。


「おいおい、大丈夫だって、あの酔っ払いが要るんだ、俺たちが一番最後にはならないって」


「そういうことじゃねーよ、毎回毎回お前を待っている間に送れるんだ、もうちょっと早くしたくしろよ、なあ亜虞陀あぐだ


「ああ、いっつもお前が遅い」


そう言って入ってきたのは三人の男だった、一人は少し体系が太った大柄な男で、真ん中にいる男はやせ型の体系をしており、背もやや小さいが目が異常なくらい大きい、そしてもう一人の男は三人の中で一番の美形だが、その顔つきはいかにも九州大陸の北西の出だと訴えていた、何故なら彼の眼は他のものと違い緑色の瞳孔をしていた、そして皮膚が白く、髪の毛の色が枯れたもみじの様な色だった。三人も「曹の兄者」と老人に拱手して空いている席に座り込んだ。


そして彼らの後から男が四人入ってきては老人に挨拶をしてから椅子に腰かけた。十一の椅子に全員がすわり、中心の一番立派な椅子以外は全部埋まった。座っている者の中で趙さん以外の全員が背中に同じような剣を背負っていた。


晧は誰が中心に座るんだろうと考慮していたが、その時,先ほど入ってきた一番年上らしき老人が口を開いた。


「今年は入門生が多いのう、しかも皆若い、大牛君は去年会ったことが有るのう」


「はい、お久しぶりです曹康そうこう様」


「うむ、他の三人も大牛君の様な逸材かな、趙陽ちょうよう


趙陽が趙さんの事だときずくのに少し時間がかかった四人、この一年間趙さんの本名を聞くのは今が初めてだった。


「はい、曹康の兄者、三人とも優秀なもので、そこにいる多米は去年試練を一回で突破し、後の二人は一年で試練を突破しました」


趙さんの話を聞いた他の物もざわついた。


「おお、それはすごい、今までに一番早くても三年はかかってたのう」


「おい、趙陽、お前俺たちに関する説明はしたか」


少し太った男が趙さんにそう尋ねた。


「いいえ、そこは兄者たちに任せようと思いまして」


「どうせ又だらけたんでしょ、全くお師匠様が帰ってきたら言いつけてやるからね」


中年女性が自分の子供を叱るような口調で趙さんを咎めた。


「ははは姉じゃ、こいつにそれは通用しませんよ、毎回の事じゃないですか」


後から入ってきた眉がきりっとした美男がそうつけ加えた。


「はあ、それもそうね、趙陽の下で一年も苦労しただろうにね」


中年女性は憐れむような、そして慈愛を含む声で四人にそう問いかけた。


これに対して晧たち四人はどう返事していいのかわからなかった。


「おうお前たち、此処について少しだけ説明する」と又太った男が言い出した。


「これからお前たちは此処で生活することになるが、まずは本堂の俺たち『鳳来十一剣』を紹介してやる。

まずは俺から自己紹介しよう、俺は思海しかいほんで、こいつが周星しゅうせい忠山ちゅうざん姜炎きょうえん呉喬ごきょう亜虞陀あぐだ秦然しんぜん詩月しげつさん、永香えいか、お前らの知っている趙陽ちょうよう、そして俺たちの一番の兄弟子、奏康そうこうさんだ。これからお前たちは俺たち十一人の中から師匠になるものを選び、その者の下で修行をしてもらう」


四人は十一人の紹介の中曹康以外はなぜ詩月だけ「さん」付けなのが気になったが、思海は続けて話を進めた。


「俺たちはお師匠様と一緒に此処にやってきて、鳳来山の一派を築いた、お師匠様は今留守にしていてな、俺たち十一人が弟子を取ってるわけだが、俺たちはそれぞれ修行方法や得意分野が違ってな、これから一日ずつ俺らの下で体験入学をしてもらう、そして気に言ったやつの門下に入ればいい。お前ら明日俺の所に来い、先に俺の門下生がどのような修行をしているのか体験させてやる」


「大牛、お前は今日から私の所に戻ってこい、もともと私の弟子なんだ」


詩月は大牛にそう告げた。


「ほほほ、いや~新しい世代が育つのは楽しみな事じゃ、我々もお師匠様が返ってくる頃には精進しょうじんしていたと驚かせてやらんとのう」と曹康。


「では、趙陽、昼からの案内任せてもいいかしら」と永香えいか


「はは、わかりました、こいつらの宿舎を案内しますよ」


「よし、じゃあ、お前ら、また明日な」


思海は立ち上がら座っている皆に拱手して出ていった。


「大牛、私とこい」


詩月も有無を言わさず大牛を連れて出て行った。


「じゃあ、皆またあとでね」


大牛はそれだけ言い残して詩月と一緒に出て行った。東鉉が無言で皆に拱手して詩月と大牛の後を追う。

他の人達も次々に席を立ち、各々の場所に帰った。


残された三人を趙さんが、


「ほい、じゃあまあ、又俺とお前たちになったわけだが、今から本堂の宿舎に連れて行く、ついて来い」


といつもと同じ調子で彼らたちの宿舎まで連れて行った。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 


宿舎は竹の里と同じ構造な建物だったが、使われているのは竹ではなく大和殿と同じ煉瓦製だった。


「部屋は十分にあるから、空いてるの見つけて名札でも何でもつければいい、ほいじゃあ、俺は竹の里に帰るから、これから頑張れよ」


そう言い残し趙さんは去っていた。


「さて、じゃあどれか空いてる宿舎見つけて此処周りを探検してみようぜ」と聖。


「聖に賛成」と多米。


「へへ、李墨ちゃんに会いたいんだろ?」と晧。


「な?!そんなことはねーよ!」と聖。


「はははハイハイ、そうですね」。と晧。


「なあ大牛戻ってくるかな?」と多米。


「確かに、あいつもう師匠がきまってるっぽかったしな」と聖。


「なあ、何で自己紹介の時に詩月さんだけさん付けだったんだろ」と晧。


「確かに、一番の兄弟子である曹康ならわかるけど詩月さんはどう見ても若い方だし、なにか理由があるんじゃないか」と多米。


「いいじゃねーかよんなこと、大牛も夜にはこっちにくるだろ、見つけやすいように名札付けとけばいいじゃねーか」と聖。


「そうだな、じゃあとっとと終わらせて李墨ちゃんでも探しに行くかな」と晧。


「おい、何で又あいつの事になるんだ」


「ははは、僕は誰かさんの本心を声に出して言っただけだよー」


「お前な、俺はあいつに勝ちたい為に会いたいだけで別に他の意味なんてねーからな」


「なんだ~やっぱ会いたいんじゃん」


「やれやれ、李墨ちゃんが見つかるかどうかはわかんないけど、二人ともその辺にしろよ」と多米。


晧、聖、多米の三人はたあいのない言い争いそしながら宿舎を整理して名札を戸にかざした。

その後は三人で本堂を見て回ったが、李墨どころか誰一人見当たらなかった、夜になってやっと人の話し声が聞こえて何処からか修行を終えた者達が宿舎の方に帰ってきた。


大牛もその者達と同じ時間に聖達の新しい宿舎を見つけて入ってきた。


「皆此処にいたんだ」と大牛。


「お前何処行ってたんだよ」と聖。


「いや、師匠の詩月様に新しい術を伝授してもらってね、それの練習していたんだ」と大牛。


「それはどんな仙術なの」と晧。


「へへ、まだ自分の物にしていないから、完全に把握出来たら見せるね」とご機嫌な大牛。


「やけに嬉しそうだな、そんなにすごい仙術だったのか」と多米。


「え?ううん、仙術じゃなくてさ、本堂に戻ってきたからやっと詩月様に会えて嬉しんだよ、詩月様って超美人だろ」


「.......」この一言に三人は無言になった。


「ところでさあ、今日なんで詩月様の時だけはさん付けだったんだろ」と晧。


「ああ、それね、僕も詩月様に聞いたところ、昔思海様が詩月様に喧嘩を吹っかけてきたらしくて、その時叩きのめされてからはさん付けで呼び始めたらしい」


「.....」この一言も衝撃的な事実だった。



















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