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九州仙戦  作者: 龍閣
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第十二話 別の方法

「んだよ、大声だすなよ、二日...持病の頭痛に響くだろ」


(今二日酔いって言いそうになったなこの人)四人とも内心そう思った物の口には出さなかった。


「あの、法器って昨日江里さんが説明してくれた霊力を付与して使うあの法器ですか」


 晧が再確認するように趙さんに聞き返した。


「そうだよ、此処にあるのは全部法器だよ」


「そんな大事なものをゴミ同然な扱いでいいんですか」


「ああ、法器っつても大したもんじゃねーよ、全部失敗作とか役立たずで本堂に溜め込むにもなんだし、此処にしまわれたんだよ」


 趙さんは軽い口調で此処の法器を役立たずと呼んだが、それでも十三歳の少年にとって初めて手にする本物の法器が実際どんな代物であれ宝物に見えた。


 晧は改めて手の中にある小さな壺とも花瓶とも言えない物に目を移した。彼の脳内には王正が猪をつら抜く光景が蘇った、(これが法器、どんな事が出来るんだろう)と期待を胸に膨らませてまじまじとその小さな

 土製陶器を眺めた。


「これも法器かよ」


 晧が思いふけっていた時、聖が割れた皿を手にしていた。


「そうだろうよ、いいか、何でも法器に成れるんだ、材料によって効力が変わるがな。ちょっと貸してみろ」


 聖は趙さんに割れ皿を渡した。


 趙さんは割れた皿を手にした後霊力をを無言でその皿に注いだ。四人は何が起きるのか期待しながらその皿を見据えた。


 次の瞬間、趙さんは「あっつっ」と叫び、皿を地面に落とし、ガシャンと音を立てて皿は数個に割れた。


 手を宙でぶらぶらさせながら、趙さんは割れた皿を見ながら呟く。


「どうやら温度を上げる効力が有るらしいが、温度調整ができないらしい」


「どうやって効力を確かめたんですか」と晧


「んん?簡単だよ霊力を流せばいいんだ、お前らの中じゃあ大牛が霊力を流せるから気になった物が有ったら確認してもらえ、何か使えそうなものが有ったら貰ってもいい」


「え?いいんですか」と晧


「ああ、いいよ、此処にあるものは本堂の奴らが要らなくなった物だからな、お前らが貰ってくれるなら処理する手間を省けて丁度いい。そうそう、棚に入ってる書物も勝手に読もうが借りようが好きにしろ、本堂の方に原本が残ってるから又複写すればいい」


「有難うございます」


「いいよいいよ、ちゃんと仕事をこなしてくれれば、ほいじゃあ俺はこの辺でおいとましするから、お前ら仲良くやれよ」


 趙さんはそう言ってだるそうにポリポリ掻きながら去っていた。


 その後、四人は何か役に立つ物はないかと片っ端から大牛に霊力を流し込ませ法器の効力を確認していた。趙さんの言った通りほとんどの物は役に立たない物だった、例えば霊力を流し込むと乾く筆、どんな結びをしても自動でほどく縄、書いたものが消える紙など、晧が最初に手にしていた小さな壺らしき物は入れた物を吐き出すと言う壺として全く逆の事をする代物で、全部が雑技団用の小道具としてなら大受けしそうな品揃えだった。


 大牛も休みなしで霊力を駆使して疲れが見えてきたときに四人は仕事を切り上げた。宿舎に戻る前に晧が書棚から『神妖全集しんようぜんしゅ』と書かれた薄い本を見つけた。中をめくるとそこには有名な神々や妖怪の挿絵と説明文が書いて有った。


「借りてくか」とぼそり呟き本を懐にしまい倉庫を出た。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 夜、晧は四人を自分の部屋に集めた。


「なあ、ずっと昼から考えていることが有る」


 他の三人は無言で話の続きを待った。


「大牛、君の黒煉瓦や今日僕らが片付けた法器は全部霊力を流して使うよね」


「うん、そうだね」と大牛。


「じゃあさ、もし君の霊力を直接僕らに送り込めないかな?」


「え?どういうこと?」


「君と多米は十分な霊力を持っている、僕とこいつはその霊力を高めたい、じゃあ、もし君らの霊力を僕たちに直接送りこめたら、四形よりは効率よく霊力を高めることができるんじゃないか」


「なるほど、確かにそういわれたらそうかもしれない」


「でも、もしそれが可能なら趙さんも提案してるんじゃないか」と多米。


「確かに」と思い悩む晧。


「なんでもやってみなきゃ分かんねーだろ」さっきから沈黙していた聖が口を開いた。


「大牛、少しだけ俺に霊りょを流してみろよ」


「え?うん、じゃあ試してみようか」


「どうすりゃいい」


「さあ、僕にもわかんないけど...ちょっと手を貸して」


 大牛は聖の手を取り、掌と掌を重ねた。


「行くよ」


「ああ、やってくれ」


 大牛は自分の霊力を聖の体内に流すように放出した。

 その直後、聖は全身をはちきれるような痛みに襲われた、何かが体内に無理やり押し入れられ、全身のあらゆる場所に潜り込もうと無理やりこじ開けようとするような痛みに聖は「がああああっ」っと悲鳴を上げ地面に倒れこみ藻掻き苦しめ始めた。


「聖、大丈夫?!」


 聖の容体を目のあたりにして三人が慌てた。


「ぐぅううううう」


 聖は地面で丸くなり痛みに耐えているようだった。


「どうしよう、どうしよう、晧どうすればいい」


 大牛は慌てながら晧に求めるように聞いた。


「趙さん呼んでる!」


 そう叫び、晧は部屋を駆け出そうとした。


「ま、まて!」


 聖が駆け出す晧を呼び止めた。


「だ、大丈夫だ、落ち着いてきた」


 大牛と多米は聖を床に担ぎ上げた、聖は全身を汗だくにして、はあっ、はあっと息を切らしていた。


「やっぱ趙さん呼んでくる」


 そう言って又外に駆け出す晧。


「やめろ!、趙さんは呼ぶな、落ち着いてきた、一晩寝れば大丈夫だ」


 晧はそんな聖の呼びかけに少し思い悩み、最終的に聖の言う通り諦めた。晧が思いとどまったのを確認すると聖はまぶたを閉じて寝入った。


「ふぅ、今夜はこれぐらいにしてもう休もう、晧は大牛と寝てくれ、俺が此処で聖と過ごすよ」


「ああ、なんか有ったら読んでくれ多米、ほら大牛、行くよ」


「あ、うん、それじゃあ多米聖をお願いね」


 心配そう顔をしながら大牛は晧と自分の部屋に戻った。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 日の光が部屋に差し込みかけた時、聖は目を覚ました。そこには自分の顔を覗き込む三人の顔が有った。


「どう、調子は、まだ何処か痛い」と心配な口調で大牛がそう尋ねた。


「ああ、大丈夫だ、体中悪い筋肉痛だが、昨日の様な痛みはもうない」


 体を起こしながら聖が答えた。


「ごめん、僕が霊力を見境なしに流したから」


「いや、もとはと言えば僕が変な提案をしたから」


 大牛心配な表情を浮かべて謝り、晧は聖の目線を避けて申し訳ない様に述べた。聖は拳を握り、また放す、それを何度も繰り返し、顔を三人にむけて、


「この方法はいけると思う、体内に確かに何か熱いものを感じる」


「な?!本気で言ってるのか聖!?」と多米。


「ああ、今夜、また試してみよう。それより、何か食べ物はないか、すっげー腹が減った」


「はは、食欲が有るなら心配ないね、まずは朝食にしよう」


 その後、晧と聖が宿舎にのこり、多米と大牛は朝の授業に出た。二人は何とも言えない変な空気の中お互い沈黙を保った。そのうち晧がしびれをきらし、


「で?さっき言った事は本気か?」


「ああ、夜また大牛に霊力を流してもらう、この方法は確かに四形より早く霊力を高めることが出来そうだ」


 それを聞いた晧は黙り込み、何かを考慮している様子だった。暫くして、


「ふう、今日の分の四系を終わらしてくる」と言い残して大牛の部屋に戻った。


 彼ら四人はその日の仕事を終わらせて夜宿舎に帰ると晧が先に切り出した。


「今日は僕が大牛の霊力を受け取るよ」


「本気でやるの?」と大牛。


「ああ、どうやら本当に効果が有るらしいからな」チラっと聖の方に目線を送り、そう告げた晧。


「大牛、昨日俺がお前から感じたのは大きな塊が生き物の様に見境なく流れ込んできたかんじだったが、もう少し弱く霊力を流せないか、そうだな緩やかな水を流すみたいにさ」と聖。


「あ、うん確かに昨日は何も考えずに霊力を出したから今日はなるべく弱くやってみる」


「頼む」


 晧が覚悟を決めたように手のひらを広げて大牛にかがげた、大牛も自分の掌を晧のと当てる。


「行くよ」


 大牛のその一言に無言の相槌おうって返事する晧。

 そして晧は手から何か熱い物が自分の体内に向けて流れ込んでくるのを感じとった、その熱みはだんだん激しくなり、晧の腕ははちきれるような痛みに襲われた。


「ぐぅううう」


 痛みを耐えながら苦痛の声を漏らす晧。額から汗がにじみだし、吐息が粗くなった。一分やそこらまで我慢した晧がついに「がああああっ」と悲鳴を上げて掌を戻した。


「だ、大丈夫、晧?」大牛が心配の声を上げた。


 昨夜の聖程ではないが憔悴しきった顔で息を荒げながら床の上に倒れこみ親指を立てて「大丈夫」だと三人に告げた晧。


 しばらく息を整えてから晧は体を起こして、


「確かに体内に何か熱いものが蓄積された感覚はある」と三人にそう告げた。


「やっぱな、この方法なら確実に霊力を高められる、大牛、俺にも霊力を流してくれ」


「本当に大丈夫なの聖?もっと休んだ方がいいんじゃないか」と気配りに聖に問う大牛。


「大丈夫だ、やってくれ」


「分かった、でも又昨日みたいな事に成ったら今度こそ趙さんに知らせるからね」


「ああ、そこまで無茶するつもりはねーよ」


 といいながら掌を大牛向けて突き出す聖。大牛は聖の要求通り、彼にも霊力を流した、昨日と違ってそれほど激しい反応はなかった、晧と同様に腕から体内に入ってくる霊力を感じながら、霊力に伴う苦痛を晧より遥かに長く耐え抜き、最終的には手を引いて、床に倒れこんだ。


「晧も聖も今日はそれぐらいでいいだろ、それ以上は体がもたないぞ」多米が口を開いて二人を止めた。


「ああ、僕もこれ以上は耐えられないよ」と晧。


「お前ら今日は二人でこの部屋で寝ろ、俺は大牛の部屋にいく」


「な?!なんでだよ、俺が戻る」と反発する聖。


 その聖を掌を向けて制し、多米が続けて言う、


「昨日のお前のいびきこちとら全然寝れなかったんだ、今回お前ら二人ともいびきかぐだろうから、うるさい者同士仲良くやってくれ」


 そう言って晧と聖の言い分も聞かずに大牛の部屋に向かった多米。


「じゃあ、二人ともゆっくり休んでね」


 大牛も多米同様そそくさに自分の部屋に戻った。



















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