理事長がSなのは知らなかった。
「死ねっーーー!」
「―――!」
理事長が容赦なく攻撃してくる。
対抗しようものならすぐに切られるのが目に見えるので逃げることしか出来ない。
だから全力で逃げに徹する。
「どうした?逃げるのは許さんと言ったはずだ!逃げるな!」
夢中で逃げ回り続けていたので持っていた刀をふいに落としてしまった。
(やばい!死ぬ)
無意識に抜刀して攻撃を受け止めた。
「はあ、はあ、死ぬとこだった。」
「まずまずの刀だ。硬度に特化しているようだな。もっと楽しみたかったんだが。」
刀を取り上げて何やら分析している。
「どこが訓練なんですか!ただのいじめですよ!」
「何か言ったか?」
笑ったような顔で睨まれた。
「いえ、なんでもありません。」
「ならよろしい。もう1回行くぞ。強くなりたいんだろ?だったら死ぬ気で頑張れ。」
「はい!」
なぜこんなことになっているかは朝のやり取りにあった。
「まずは椿だが、今から作る私の刀を『指定』せずに夕方まで保て。」
「『指定』なしでですか?無理ですよそんなの。それに刀なら『指定』が無意識にされちゃうかも知れないですよ〜。」
「それを踏まえて刀はロングソードにする。安心しろ。」
「それなら大丈夫です。頑張ってみます。」
「それから、消滅させたら殺す。それくらいの緊張感でやれ。」
「え?」
椿先輩の顔が引きつった。
「殺すなんて、ご冗談ですよね?」
「私のことは十分に知ってるだろう?」
ロングソードを抜刀した。
「や、やります。やりますから!」
椿先輩は訓練を始めた。
「次は神門だが、これから死んでもらう。」
「は?」
「いや、正確には私が殺しに行く。君は精一杯抵抗したまえ。」
「それはどういう意味で」
理事長は抜刀して攻撃してきた。
「うわっ!何するんですか!」
突然のことで反射的に後ろに飛んでいた。
「言ったろう?殺すって。養護教諭の先生も近くにいるから安心しな。」
目が捕食者だ。逃げないとやられる!
━━━それからずっと逃げ回った。
これが朝の出来事。
理事長の訓練は超スパルタで実践よりもキツイのではと思う。
「よし、昼休憩に入ろうか。今日は伝えた通り私が用意するから、待っていなさい。」
「はい。」
疲れすぎて大の字で寝ころんだ。
天井があるので殺風景なのがここの嫌なところだ。
「神門くーん!」
椿先輩が走ってきた。
その後ろにロングソードが地面に突き刺してある。
「刀はいいんですか?」
「ああ、あれはいいの。休憩だから新しく作ってくれるって。」
「そうなんですか。」
疲れ切っているせいか思うように頭が働かない。
久しぶりに着る戦闘服の着心地の悪さが気になる。
「神門くんは大丈夫?すごい物騒な声がずっと聞こえてきたから心配してたんだけど。」
「大丈夫、ではないですね。何度も死にかけましたから。」
ははっと笑う自分とは裏腹に、刀を振り下ろされる瞬間が頭によぎる。
「ま、まあ、神門くんはリヴェロンが刀と一体化してるからまずは効率化!って感じで理事長が考えてると思うけど・・・さすがにあれは厳しいよね。」
「そういえば、理事長となかがいいですよね?」
「まあね。この部活そのものは私が勝手に作ったんだけど、理事長に目をつけられてそれから、いろいろあって今に至るって感じかな。」
勝手に作ったというところが気になったが、この学園は変な人も多いので先輩もその一種なんだと思った。
「先輩のリヴェロンってどんな能力なんですか?」
「ん~とね、私の力は触れたものを破壊不能にする能力なんだ。いや、正確には時間を止めた瞬間のままになるっていうかなんというか。ざっくりいうとそんな感じ。」
「それは強力な能力ですね。でも訓練前に、『指定』するとか言ってましたけどあれはなんなんですか?」
「それは私の派生能力のことさ。『指定』っていうのは私の好きな日本刀にだけ半永久的に破壊不能をつけられるんだ。」
「半永久的に破壊不能って最強じゃないですか!実践で、最強の刀を作れるってことですよね。」
「そうなんだけど、問題があってね。黒刀にしか付与できないんだ。それに、私が覚えてないと強制的に解除されちゃう。だからさぽーどには向いてないんだ。」
「そう!だから椿は基本の時間固定を極める訓練をひたすらやってもらう。」
「理事長!」
椿先輩が驚いた。
「お昼ご飯を持ってきたぞ。おにぎりだが、訓練のときはこっちのほうがいいと思ってな。」
「ありがとうございます。」
ありがたくひとつ手に取って食べ始めた。
具は梅干しだった。
「理事長。一つお聞きしてもよろしいですか?」
「どうした?急に改まって。」
「理事長のリヴェロンってなんですか?」
理事長は顔が曇った。
「それは教えられない。すまないね。」
「いえ、いいですよ。純粋に知りたかっただけですから。」
「そうだな、じゃあみんなが知るリヴェロンについて話そうか。」
「私たちが知っている、ですか?」
「そうだ。昨日は理論を語ったが、今日はリヴェロンの歴史を語ろうか。」
長い話が始まりそうなのでおにぎりをもうひとつ手に取った。
むかしあるところに、3人の男の子がいました。
3人はそれぞれ同じ系統の能力を持っていましたが。性質が違っていました。
一人は『硬質化』の能力を持っており全身を鋼鉄以上に硬くできました。
もう一人は『硬質化』の能力だけでなく派生能力として『物体硬化』という触れたものも硬質化させられる能力を持っていました。
そして、最後の一人は『柔硬質』という皮膚の弾性を残したまま鋼鉄以上の硬さを持つ能力を持っていました。
3人はとても仲が良くいつも一緒に遊んでいました。
しかしある日学校で『硬質化』と『物体硬化』を持つ男の子が『硬質化』だけを持つ男の子とけんかをして、泣かせてしまいました。
それを見ていたほかのクラスメイトは『硬質化』だけしか持たない男の子を劣化版だと馬鹿にしました。
すると2つの能力を持つ男の子と『柔硬質』を持つ男の子は言いました。
「能力なんて関係ないよ。強いとか弱いとかよりもみんながみんな違うなんて当たり前なんだからなかよくしよう。」
この言葉に目が覚めたのか馬鹿にする人はいなくなりまた。
けんかした2人は仲直りして、また仲よく遊ぶようになりました。
そして、みんながそれぞれ持つ能力を総称してリヴェロンと名付けられ、差別がなくなりましたとさ。
おしまい。
「それって童話的なやつですか?」
気になったので聞いてみた。
「いや、簡単に言えばリヴェロンとは何かということだ。」
「何かって、リヴェロンはリヴェロンじゃないんですか?」
椿先輩はおにぎりを手に取った。
「さっきの昔話の通り、リヴェロンとは私たちが持つ特殊な能力を指す。ではなぜこのようなへんちきりんな呼び方をするのか。私たちは無意識に能力のことを『リヴェロン』と呼んでいる。これは事実だ。持っている能力について聞かれるとき、君の能力はなんだ?と聞く人はいないだろう?」
「確かにそんな風に聞かれたことはないけど、小さいころに両親がリヴェロンって呼んでたから変なんて思ったこともないけどな。ほかの人もそう言ってるし。」
「神門くんもそうでしょ?」
「いや、親父がリヴェロンなんて言ったのを聞いたことない。そういえば、リヴェロンじゃなくて『吸収』としか言っていなかった。」
「そう。君のお父さんみたいにリヴェロンという言葉を使わない人もごく少数いたのさ。ただ、私が知っている人でそういう人たちはみんな死んでしまっている。それも非業の死だ。」
「そんな。偶然ですよね・・っていうか理事長はいま何歳っ」
椿先輩はボディーブローを食らって悶絶している。
理事長はふんっと息を立てた。
「さっきの続きだが、君はリヴェロンが使えなかったということでたいそう苦労したと聞いているが、では同じ能力の上下関係で差別を受けている人を見たことがあるかい?」
「いえ・・・ないですけど、違う能力同士で敵対しているのは見たことあります。」
「そう。そこがおかしい点なんだ。人間の差別意識っていうのは自分の属するグループからはみ出た少し違う部分を持つ者に対して起こるものなのだが、不自然なほどにそういった事例はない。しかし、その代わりに、異種のグループ間で起こっている。それも、共通点の一切ないグループ同士でもだ。」
確かに馬鹿にされてきた自分でもおかしいと思えるほどの意識統一だと思った。
自分の場合は完全に違う存在だったから自然と差別された。
これは仕方ないと割り切っていたが、それには気づけなかった。
「これは私の推測だが、マインドコントロールのような能力を持つ者が意識を変換していると考えている。」
「えー考えすぎじゃないですか?そもそもそんな能力を持っているなら自分の都合のいいようにつかうんじゃないですか?そんなことして何のメリットがあるんですかね?」
椿先輩が復活した。
そして、おにぎりをむしゃむしゃ食べ始めた。
「あくまでも推測だから確証はないんだが、どうにも腑に落ちなくてね。それに、最近はリヴェロンと能力の境目が━━━」
「どうしたんですか?」
急に理事長の動きが止まった。
「いや、何でもない。今日言ったことは忘れてくれ。」
「いや、でも」
先の話が気になるので食い下がる。
「いいから忘れるんだ。いいね。」
「はい。」
脅迫的な威圧を向けられて返事をした。
椿先輩も忘れるように促されていた。
「午後は二人ともリヴェロンの訓練をする。私がこれを片付けるまでに準備運動でもしていてくれ。」
理事長はおにぎりが入っていたかごを持って出入り口に向かっていった。
とりあえずストレッチをした。
椿先輩は満腹で休んでいた。
ストレッチをしながらさっきまでの話のことを考え出した。
(リヴェロンという言葉を口にしない人が死んでいるのは偶然なのか?)
親父が《反執行者》と戦って殉職したのはそれが原因なのか少し考えた。
だが、結論が出るわけでもなく理事長が来て訓練が始まった。
「そうだ。昨日聞かれなかったので忘れていたが、お前らは部活対抗バトルトーナメントに出てもらうことになっている。訓練はそのためだから私の顔に泥を塗らないように励んでくれ。」
「バトルトーナメントって3人からじゃないんですか?」
「今年から2人からでも出られるように私が裁量を図った。」
それってただの部活自慢したいだけなんじゃと言いたいのをこらえた。
「学内でも特殊なお前たちが成長して、勝ち進んだらほかの生徒の励みになるだろう?今のうちにしっかり頑張りな!」
「はい!」
理事長は剣技とリヴェロンを同時に教えるためにまず、『吸収』状態で抜刀した黒刀で、打ち合うと言った。
これをあと1週間は続けるらしい。
対して、椿先輩は相変わらずロングソードとにらめっこしている。
楽そうだが、ずっと集中するので動くよりもつらいと言っていた。
「今日の訓練は終了だ。各自帰って休むように。」
「やっと終わったーーー!」
喜びが口に出る。
それほどつらい訓練だった。
だが、それからの記憶がない。
「ん~~~ん?」
見慣れた机が目に入ってきた。
見渡すと自分の部屋だと分かった。
どうやら家に帰ったらしい。
記憶が全くないのが怖く感じた。
スマホの時計を確認すると7時31分だった。
(訓練開始は9時からだからまだ大丈夫か)
制服に着替えてリビングに向かった。
途中、久美の部屋の看板には『いません』とあったので部活にでも行ったと分かる。
久美は陸上部のエースなので忙しいようだ。
いつものようにテレビをつけた。
『連日の猛暑の影響で東原市は37度を超えた日が続いております。』
テレビを聞き流しながら信哉からのメッセージを返す
『世界的な科学者オルグ・フォード教授が、新たな量子コンピューターを開発しました。これは、世界中の人間の情報を統括するコンピューター《世界樹》の精度向上に組み込む予定で━━━』
ピッとテレビを切った。
朝ごはんのパンを食べて例の施設に向かった。
「おら逃げんな!死ぬ気で抵抗しろ!」
はじめは抜刀して初撃を受け切ろうとしたが、たたき割られてしまったので逃げ回る。
「ひぃーーー!」
次の日
「逃げんな!殺す!」
鬼の形相で攻撃してくる。
抵抗しようと覚悟を決めて、抜刀するはいいがすぐに叩き割られる。
次の日
「死ぬ気で抵抗しろ!そうだ!刀で受け流せ!」
「ぐっっ」
一撃で刀を壊されないようになったが、足を使われ思い切りお腹を蹴られて吹き飛んだ。
刀以外の物理攻撃が増える。
次の日
刀がぶつかり合う。
「まだ弱い!力を込めて殺す気で刀を振れ!」
理事長のSっ気のある目が日に日に恐ろしくなる。
次の日
「こんなもんか?まだやれるだろ?」
人をストレス発散の道具のように扱う理事長にボコボコにされた。
次の日
「今日で夏休みの基礎訓練の1割が、終了する。いいか、まだ1割なんだ。死ぬ気でついて来い!」
「は、はい。」
「ふん!」
今までの経験を生かして初撃の縦の大振りを受け流した。
「ぐっ」
そこから先は攻撃を見切って防御に徹した。
理事長は終始、笑っていた。
それは狂気の笑みだった。
「はあ、はあ、はあ、はあ、」
刀以外の攻撃で何度か吹き飛ばされたが、切られずに済んだまま休憩に入れたのは助かった。
もし、あと2分くらい遅かったら確実にあの時のように切られただろう。
椿先輩は刀数が増えて、10本くらいになっていた。
昼休憩では二人とも終始無言だった。
集中。集中。
「実戦形式で行く。今日は2人で私を攻撃しろ。」
2人で、ということは連携をとれということだろう。
椿先輩の刀はまだ灰色で、もちろん自分の刀も黒刀ではないが黒が濃くなってきている。
つまり、椿先輩の破壊不能に頼れないということだ。
「行くよ神門くん。言っとくけど私の時間固定は30秒しか持たないからね。」
「分かってますよ。けど、それだけでも最初は生き残れます。頑張りましょう。」
「来ないのならこちらから行くぞ!」
「はっ、ここは?」
体中が痛い。
傷口はないが、切られた跡が残っている。
椿先輩も隣にいたが、まだ寝ている。
「ここは、部室の隣の休憩室だよ。」
椅子に座っていたのは養護教諭の百治先生だった。
何度かリヴェロンのカウンセリングでお世話になっているので、顔見知りだ。
中年手前で気の強い生徒想いということで有名だ。
「やあ、百治先生久しぶりですね。」
「やあ、じゃないよ。式、理事長に訓練のサポートをしてくれって頼まれた途端に、死にかけた2人が運ばれるんだから驚いたよ。」
「そうだったんですか。実をいうと全く覚えてないんですよ。」
「まあ、普通はそうだろうね。あんな訓練してただで済むわけがないよ。」
「ん?起きたか。今日の訓練は終了だ。それと明日から3日間は療養期間とする。椿が起きたらそう伝えといてくれ。」
「ほんとに休みなんですか?」
てっきりまた新しい訓練が始まると思っていたので意外だった。
「この1週間でいじめ抜いた体を治す期間が必要だからな。」
ふーと理事長は大きく息を吐いた。
「百治先生もありがとうございます。治療をしてくださって助かりました。」
「いえ、これも仕事の一環ですので。ですが、くれぐれもやりすぎには気を付けてください!あなたは本来生徒を教える側なんですから!」
百治先生が怒っている。
「それは、承知の上です。しかし、これは訓練なのでしかたなく」
「随分と楽しそうにしてましたね?」
核心を突く質問を受けた理事長は逃げるように帰っていった。
「まったく、あの人は変わらないねえ。」
「なにかあったの?」
椿先輩が目を覚ました。
自分の体と同様に体が痛いのだろう、動きがぎこちない。
「そうだ、椿先輩。明日から3日間部活が休みになるそうです。」
それを聞いた瞬間椿先輩は目が輝いた。
「神門くんそれほんと!?」
「ええ、さっき理事長がそう言ってました。」
椿先輩は喜んでる様子でハイタッチしてきた。
「それじゃ明日ショッピングセンターに行かない?せっかくの夏休みなんだから遊びましょう!」
「ふたりで、ですか?」
!そうなると確かに二人きり。
ってことはデート!になっちゃうのかな?
男の子とデートなんてしたことないし、どうしたら・・・
「せんぱーい。どうしたんですか?」
神門くんが静止している私に声をかけてきた。
座っている百治先生が応援コールをしている。
「だ、大丈夫です。わ、私は大丈夫ですよ!」
神門くんが不思議そうな顔をしていた。
「ええ、行き2人で行きましょう。ショッピングセンター。」
「は、はい。行きましょう。」
半ば強引になってしまった気もするけど明日デートが決まってしまった。
胸の鼓動が早くなっている気がする。
再び百治先生を見るとグッドサインを送っていた。




