第6話 アドラー殲滅作戦
2月1日、この日はいつにも増して凍えそうなくらいの冬日であった。
外には霜も出来ている位である。
そんな中、亮は自分の部屋のベッドでもう少しでもいいから長く寝たいと思っていた。
しかしそんな中、とある人物が彼の元に近寄る。
「亮…、起きろにゃっ!!」
玲はフサフサの猫耳とフリルを使った衣装を着ていた。
しかも、よりによって亮を起こす時である。
一瞬亮は、自分が浮世離れしたふざけた夢を見ているのではないかと考えたものの、すぐにそれが現実だと気がついた。
「玲…、お、おはよう…、お前またコスプレか!? 飽きないねぇ…」
「うん! どうかな…?」
その時、亮は思わず呆れた表情を見せた。
それもそのはず、実は彼女はコスプレをするのが趣味である。
しかもそのコスプレの衣装はほぼ全て自分で製作する程である。
まさしく筋金入りのコスプレイヤーといっても変わり無い。
「にゃあぁぁぁっ!」
「うわっ、抱きついてくるんじゃないッ!」
「亮、入るぞ……。えっ、どういうわけだァ……? 説明を……」
運悪く鎧が部屋に入ってきてしまった。
そして、2人の顔はほんのりと赤くなった
「出ていけ~ッ!!」
亮と玲は、鎧を無理矢理部屋から追い出してしまった。
勘違いされたとでも思ったのだろうか。
鎧があまりにも可哀想である。
「ウウゥッ、寒いッ! 入れてくれ…」
「寒いの? 本当にごめんなさい鎧さん…。入っていいよ。」
「ありがとう…、玲…。優しいな…」
鎧はどういう訳か、軍服の上にダウンジャケットを羽織っていたが、それでも寒いのか中にカイロも入れていた。
「すみませんでした、鎧さん……。でもさっきのは誤解です!」
亮はやや焦り気味にそう話した。
「わかっている……。2人はそういう仲なんだな……?」
「違いますってば! 玲、そうだろ?」
「うん! 私たち双子の兄妹だからね! 恋人同士になるわけないでしょ!」
「だよな……。少し安心したぞ……」
鎧は安堵の表情を浮かべた。
すると、部屋の近くにジェフとリックの2人が歩いてきた。
「おっ、鎧さん! 何してんだ?」
ジェフはそう問いかけた。
「えっ……、3人で仲良く話していたんだよ……」
「そうか……、どんな話なのかな?」
リックにそう言われた亮たち3人は、まるで石像かのように顔も体も固まってしまった。
亮はこの時、ジェフに「シスコンの大将」と呼ばれたらどうしようと思っていた。
「あ……、2人が抱き合ってた、から……、お……、俺も仲間に入れてほしいなって……。アハハッ……」
明らかに誤解を招きかねない発言をしてしまう亮。
その時、リックはそれを真に受けたのか、思わず唖然とする。
「3人ともッ! まさかそんな仲だったなんてッ!」
「は? 何を勘違……」
「見損なったよ! 鎧さん……。僕はまだ彼女いないのにッ! うわぁぁぁッ!!」
そして、そのままリックは自室へと戻ってしまった…。
「ちょっと……、亮……!」
「ま、待ってくれッ!」
二人は口喧嘩になりかけるが、玲が介入する。
「二人共やめてよ! 子供じゃあるまいし」
「玲……」
亮と鎧は真顔になる。
「悪かったよ、鎧さん……」
すると、玲は申し訳無さそうな顔をした。
「ごめんね、亮……。元はといえばこのコスプレを見せたかったから…」
「そうだったのか! 今まで知らなかった……」
鎧は目を丸くして驚いた。今まで鎧は冷徹な性格を一貫していたが、この時、滅多に無いような驚き方をしていた。
「済まなかったな……」
「いいのよ、鎧さん……。フフッ」
亮と玲は、鎧と少しだけ仲良くなれたと思ったのだった。
しかしその一方で、火星政府軍とは別に黒い影が何処かで動き出していた。
その影の正体は、テロ組織“アドラー”であった。
リーダーのガルス・ギャリムを筆頭に、計五十名にも及ぶ一大テロ組織で、過去にも大企業にコンピュータウイルスを流入させて混乱の渦に陥れたり、保安部隊に対し物理的なテロ行為をするなど、かなりの悪行を行っており、ドイツ政府軍が火星政府軍の次に危険視している組織ともいわれている。
「ガルス様ッ!」
そう呼びかけるのは、ガルスの部下である。
「なんだァ? うるせぇなお前よォッ!!」
「うわッ、いきなり殴って来ないで下さいよ……」
その部下は何故かガルスに殴られ、泣きそうな表情だった。
「泣くなよ! 全く、お前は子供か?」
「す、すみません……」
半泣きの状態で、彼はガルスに謝った。
「全く……、情けねえ男だなぁ……。まぁ、話は切り替えて今回の作戦内容を指示するぞ……」
「はいッ!!」
「今回はドイツ政府軍基地を狙うことにする! 何故この国をターゲットにしたかは、もちろんわかっているな?」
「もちろんです。何しろ首都のベルリンではMUの開発が盛んですから……」
彼は自慢げに微笑みつつそう話した。
「おっ、よくわかってるじゃないか……。でも、油断するなよ? ベルリンの機動部隊は今まで戦ってきた奴らとは違うぞ……」
ガルスはいつになく真剣な表情でそう話す。
「確かに、ドイツ政府軍は地球上で随一の戦力を誇っていますからね……」
「その通り! だからこそ、この防衛網を完膚なきまでに壊滅させ、最終的にこのベルリンを俺たちが支配する……。まぁ、こんな考えはその辺の悪ガキでも考えられそうだがな……」
彼は大胆不敵に笑いながらそう話した後、プロジェクターのスイッチを切り替えて立体地図を表示した。
「今回は、二手に分かれて攻撃を行う! 一方は空中班、もう一方は陸上班だ……。まず、空中班は基地の爆撃をしてくれ……」
「了解です! でも、爆撃用の武装は整っているんですか?」
「もちろんだともッ! こんなこともあろうかと、その辺のジャンクやドイツ政府軍の倉庫から火器を盗んできたからな……」
ガルスは、自信に満ちた表情でそう答えた。
「なるほどぉ、さすがはガルス様!」
側にいた部下のトムは彼を褒めた。
「なぁに、お世辞なんざいらねぇよ! ヘヘッ……。とりあえず話を戻そう。空中班のリーダーは……、トム! お前がやるんだ! 信頼してるぜ……」
「了解ッ! ガルス様!」
「次は陸上班……、指揮は俺が執る! 主な目的は、強靱な精神と身体を備えた機動部隊の殲滅だッ! 必ずビームバズーカを持って行け! 目には目を、歯には歯を……、といった感じか」
「了解です……、。でも、陸上班と空中班はどうやって分けるんですか?」
「そうだな……。陸上戦、または空中戦が得意な奴を選んで分けよう…。異議はねぇな?」
「はいッ、もちろんありません!」
全員賛成となり、この方法で決まることになった。
果たして、ブレイダー隊は勝てるのだろうか。
一方、ブレイダー隊の元にこのような命令が江川長官から出された。
“諸君、緊急命令だ!”
「江川長官!」
亮たちは慌てて敬礼をした。
“今回はドイツ政府軍基地の護衛をしてくれ……。近年、この国ではテロが横行している……。約二週間前にも、首都のベルリンでアドラーと呼ばれる組織によるテロ未遂事件が起こった……。幸い犠牲者は出なかったものの……、市街地は大パニックとなった……。
次のテロを防ぐためにも、君たち5人にベルリンへ行って基地の防衛をして貰いたい……。いいな?”
「了解!」
こうして五人は、ドイツ政府軍基地へと向かった。
ドイツへ向かう中、5人は作戦を練っていた。
「今回は、二手に分かれて戦うことにしよう……。とりあえず本部の護衛は俺と鎧の2人で行う」
「そうか……。了解した」
鎧はそう言いつつ頷いた。
「ジェフ、リック、玲の三人は倉庫付近で敵を見つけ次第俺たちに報告してくれ」
「わかった。敵を見つけたら俺ら三人で攻撃を仕掛けるだろうが、それでも撃墜できなければ、亮と鎧を呼ぶぜ。まぁ、大丈夫だと思うけどな」
ジェフは、自信があるのか少し笑みを浮かべながらそう話した。
「ジェフ、リック! 作戦はどうするの?」
玲は2人に対してそう尋ねると、ジェフが小型のプロジェクターを取り出した。
「とりあえず、リックと玲は地上で敵を見つけたらドイツ軍の兵士に連絡をしろ! 来るまでは俺も合流して応戦する……」
「じゃあ、ジェフは空中で偵察ってわけか……」
「まぁ、そうなるな。それと、話は少し変わるが、もし敵が1機で来たら挟み撃ちできるよう、どっちかが後ろに回れ。もし2機以上来たら遠距離攻撃を行うんだ。いいな?」
「了解!」
「亮……、俺達はどうすればいい?」
鎧はどうすべきか熟考した。
「とりあえず実際の戦闘ではドイツ軍も協力するみたいだからな…。地上にいたら空中から掃射する……。でも鎧のアームドブレイダーには遠距離戦用の武器は……」
「無い訳ではないぞ…。アームドブレイダーには、ビームクナイがあるんだが、投げて攻撃することも出来る」
「そうか……。じゃあ遠距離戦の際はビームクナイを使って攻撃を仕掛けるんだ」
亮の目を見て、鎧は軽く頷く。
「わかった。でも、空中から敵が来たらどうする? もし爆撃用の武器を敵が持っていたら最悪の事態は逃れられん」
鎧の指摘を受け、亮は腕を組んで暫し考える。
「なるほど……。その時は空中戦を行うとして、敵が爆撃を行う前に何としてでも駆逐しよう。
俺が敵を上手く引きつけてチャージショットで殲滅する。それで、鎧は近距離で間合いを取りつつ撃墜しろ。あと、今回の戦闘ではドイツ軍の兵士もいるんだが……、100%護衛が上手くいくという保証は無い……。やるだけやってみよう」
「了解した……」
こうして、彼らの作戦会議は終了し、そのままベルリン本部に着くのを待つのみとなった。
やがて数時間後、ブレイダー隊はついにドイツ政府軍基地に到着した。
ドイツ軍・機動大隊の隊長であるレオンハルトは、五人の作戦内容を理解した上で作戦の調整を行った後に部下と共に出撃することとなる。
「亮、まだ例の連中は来ていないようだな…」
鎧は入念にレーダーを確認しながら話した。
“確かにそうだな……。でも、油断するなよ?”
「それぐらいわかっている……」
二人がそのようなやり取りをしていると、突如レオンハルトから通信が入ったのだが、その時の彼はかなり必死な表情であった。
“アドラーの連中が上空から接近中! くれぐれも基地に被害を及ばさないように戦闘を行えッ! いいな!?”
「了解です、レオンハルト大佐!」
ついに上空から、秘密組織アドラーの編隊が姿を現した。
「トム、攻撃開始だァッ!!」
“了解!”
トム率いる空中班は、巨大なタワーがそびえ立つ基地本部へと向かった。
「まずいぞ……。航空部隊! 急げッ! 早くアドラーの方に集中砲火を行えッ!!」
“任せて下さい!”
レオンハルトは何としてでも基地を守るべく、ドイツ政府軍・航空部隊に指示を出した。
今回の作戦では、ジェフがこの部隊と行動を共にすることになっている。
果たして守り抜くことができるのか、それとも良からぬ結果になってしまうのか。
“ジェフ軍曹、12時の方向に敵機襲来!”
「了解!」
“さぁ、そのままミサイルを発射せよ!!”
アドラー空中班の元にミサイルの雨が一気に降りかかり、けたたましい爆音がこの空に響いた。
「何て威力だ……。さすがはドイツ政府軍……、やられるものかァッ!!」
トムと残った部下達は基地の爆撃を開始。
彼らは何としても敵を殲滅しようと必死であった。
「しまった! このままでは基地が全滅する……」
しかし、それをレオンハルト達は黙って見ている筈もなく、攻撃はまだ続いた。
「アドラーの好きにさせるかよ!」
怒りに燃えるレオンハルト。彼はビームライフルをしっかりと構えた。
“レオンハルト大佐! 何をするんですか!?”
「弾が着弾する前に爆発させろッ!」
“え!? は……、はいッ!”
レオンハルトの部下は少し焦りつつも彼の指示に従う。
無数の爆弾が降り注ぐ中、彼らはそれを的確に次々に破壊していった。
一方で亮と鎧は、ガルス率いる陸上班を相手に、格納庫区域にて死闘を繰り広げていた。
「さてと、爆弾の雨が降り注ぐ中、俺達は最新鋭の機体と戦う……。面白えことになってるじゃねぇか……。ヘヘッ、全員皆殺しにしてやるかァ! よし、全員集中砲火だァッ!!」
ガルスは狂ったようにバズーカから光線を放っていく。
「来たぞッ! 撃ち返せェッ!」
「はいッ!!」
しかし、亮達の味方は次々にガルスの攻撃によって次々と撃墜されていく。
このまま不利になっていくと思われたその時、一機のMUが前方へと向かっていった。
「鎧、接近戦なんて無茶だッ!」
“やるしかないだろう! 行くぞッ!”
鎧は無謀にも接近戦に挑んだ。
だが、これが思いもよらない結果に導いた。
「一気に……、切り裂くッ……!」
アームドブレイダーのホバー走行システムを駆使して地上の僅かな隙間を縫って、高速移動しながら斬りかかる鎧。彼は勇猛果敢に敵に立ち向かった。
ガルスの部下は呆気にとられたのか、次々に鎧によって撃破されていく。
“亮ッ! 今だ……!”
「了解!」
防御の態勢が緩んだ隙に、そこから亮も加勢する。
「エネルギーチャージ完了! よし……、チャージショットを喰らえェッ!!」
亮は蒼い稲光のような光線をたった一人で掃射し、アドラーの陸上班をみるみるうちに倒していった。
︙
やがて、2人の活躍によって戦況は逆転していき、 次第に機数は減っていった。
その後ガルス達は戦意を喪失し、逃げようと目論む。
“リック! 敵が逃げるみたいだよ……”
玲たちは、何とかして追撃を試みる。
「あの黒いゾギィが指揮官機かッ! よし…、僕がジャベリンで一気に突き刺してやる!」
リックと玲はガルスとその部下が逃亡しようとする姿をレーダーで確認し、追跡する。
「これで…、刺すッ!!」
「何ィッ! グァァッ!!」
リックは蝶のように舞って蜂のように刺すかの如く素早い動きで敵を翻弄し、ガルスの部下の機体を次々に撃墜していった。
「何て奴らだ! このままでは俺も死ぬ……。ん!? まだ追うかッ!!」
ガルスは玲が追跡する姿を見てビームソードを片手で構え、攻撃を始めようとする。
「来るなら来いッ!!」
「私のソニックブレイダーのスピードは並じゃないのよッ!」
玲は自分の機体の高い機動性を活かし、ガルスを翻弄していく。
「くっ……、やるじゃないか! 新型めッ!」
「えぇいッ!!」
玲は素早くガルスの機体胸部に剣を突き刺した。
「ぐぁあぁぁぁッ!!」
機体は炎を上げて崩れるように倒れ、爆発四散。
それは、一瞬の出来事であった。
「やった! これでアドラーのリーダーを倒したってわけね」
“よくやったよ、玲! まさかたった一人で親玉を倒しちゃうなんてね……。驚いたよ……”
「ありがとう、リック!」
こうして、アドラーは事実上壊滅状態となり、ブレイダー隊が勝利を収めたのだった。
翌日の朝、ブレイダー隊の5人は日本へと帰った。
「ふぅ……、一時はどうなるかと思ったが、鎧さんが自分の機体の装甲を武器にして突っ込んで行くとはねぇ…。恐れ入ったよ……」
亮は微笑みながらそう話した。
「フッ……、そんな大したことではない…。玲の手柄と比べればな……」
「えっ? まぁ……、アドラーのリーダー機を撃墜したのは事実だけど…。これはリックやジェフのアシストしたおかげでもあるし……。でも、そう褒めてくれるのは嬉しいな!」
玲はそう言いつつ優しく笑う。
「亮、玲、鎧さん……、この前は本当にごめん!」
リックは必死に謝罪した。
「あぁ、朝のときね……。いいよいいよ、気にしないで」
「あの状況じゃあ、リックが誤解しても無理はなかった……。いいんだ、元はといえば俺が…」
「鎧、お前は悪くないって」
「私が亮の部屋に入ったのが悪いから……。皆、ごめんね」
玲は亮たちに対して頭を下げた。
「何があったが知らねぇけど、良かったな。誤解が解けて……」
ジェフは少し笑いながらそう話しかけた。
五人が話している最中に、江川長官が部屋に入って来た。
「やあ、ブレイダー隊の諸君、よくやった」
「江川長官、どうも……」
「昨日の君たち戦果には驚いた。だが、油断はするな。いつでも臨機応変に対応することを忘れずに戦うんだ……。これからも期待しているぞ」
「了解!」
何とか勝利を収めたブレイダー隊の五人。
果たして、この戦いに終わりは来るのか。