第4話 ハーガン襲来!!(前編)
1月25日、火星政府軍では地球での物資強奪作戦が計画されていた。
その作戦内容は、イギリスのロンドンにある本国の政府軍本部を襲撃し、敵の殲滅を行い、最終的にはイギリス本土を火星軍のメタルユニット開発のための工業地帯にするというものであった。
「さて……、ハーガンよ。今回のロンドンへの降下作戦だが、お前達の任務はイギリス軍の新型機
設計データの奪取だ……」
リザーグは力強い眼差しで本作戦の指揮官を見つめた。
「なるほど……、それは面白そうな考えで」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべているスキンヘッドの男の名は、ハーガン・バルディン。
彼は火星軍の中でも指折りの操縦技量の持ち主である。戦場の鬼とも呼ばれているのだ。
「頼むぞ……」
「了解です」
ハーガンは敬礼しながらそう言った後、部屋から出ていった。
一方、ブレイダー隊の玲は、自分の乗るMUの説明を受けるため、整備ドックにいた。
「玲、これが君が乗る機体だ」
整備士の山田は、新たに完成した機体を指差した。
「わぁ、凄いわね……」
玲はその機体を見て目を大きく見開いた。
「この機体は、ソニックブレイダーといってな、機動性が高く、従来のMUより俊敏性に優れた機体になっているぞ……」
玲と整備兵は、ソニックブレイダーをじっくり見つめる。
「へぇ……、でも、私がこれを扱えるのかしら……」
彼女は少し心配気味な顔で話す。
「大丈夫だ。この機体の操縦方法は至って簡単だ。
マニュアルをしっかり読んでおけばすぐわかる」
「そうですか……、なら安心ですね」
彼女は胸を撫でおろした。
「では、頼んだぞ……」
「はい……」
玲は心の中に少し不安を秘めつつそう返した。
一方で亮たち4人は、談話室で前回の工場防衛作戦についての話をしていた。
「亮、ジンって男を知ってるか?」
ジェフは亮に対しそう問いかけた。
「ジン? 誰だそれ……、お前の知り合いか?」
亮は思わず首を傾げる。
「違う違う。ジンってのは火星軍のエースパイロットの兵士のことだよ……」
「ふーん……、そうなのか」
「そいつは、“真紅の悪魔”と地球軍では専らそう呼ばれてるのさ」
ジェフはまるでジンに怯えているかのような表情をしていた。
「なるほど……。そういう仇名が付くぐらいの技量を持っているってわけか。ん? 待てよ、レッドってことは、この前戦ったあの紅い機体は……」
亮は、以前遭遇した紅いアスターグのことを思い出した。
「亮! お前ジンと戦ったのか!? それ、紅いアスターグは間違いなくジンが乗っている奴じゃないか!」
ジェフは思わず目を広げて驚嘆した。
「そうだったのか!! 道理で滅茶苦茶強かったわけだ……」
「お前ラッキーだったな! ジンに遭遇したら生きて帰れないって言われてるのに。やるじゃねえか!」
「そ、そうかな……」
亮は思わず頬を少し赤く染めつつそう言った。
「でも、調子に乗るなよ……。もし次出会った時は、お前でも死ぬかもしれないぜ……」
ジェフは亮を指差した。
「マジかよ……。じゃあ、身構えておかないとな」
「そうだな……、次会ったら注意しろよ」
亮は次にジンと戦うために、しっかり自分を鍛えておこうと決意した。
一方、リックと鎧は整備ドックで整備士から機体のメンテナンスの仕方を教えて貰っていた。
これは、まだ兵士になって日の浅い二人に万が一の事態の際、自分で修理ができるようにするためである。
「これがブレイダーシリーズ共有のシステムなんだが、まぁ、最新鋭だけあって修理はやりにくい。
でも、しっかりこの俺が教えてやるからな!」
「了解です」
二人は整備士の教える通りの手順で手際よくメンテナンス訓練をこなした。
「あの……、山田さん」
鎧は初めて目にした整備士の山田に、緊張しつつ声をかけた。
「何だ? 鎧くん」
「僕は鎧ではなく鎧と言うんですが……」
鎧はちょっとだけ呆れた顔でそう言うと、山田は顔を少し赤くした。
「あぁ! そうか! すまないなぁ、鎧くん! いやー、本当に悪かったねぇ。ところで、何か他にも聞きたそうだったみたいだが……」
「ところで、この講習は亮たち3人も受けたんですか?」
「もちろん! あの3人は君たち以上に素早く作業をしてたもんだから驚いたぜ!」
「そうですか……」
鎧は少し安堵した。
「山田さん! 作業はこれで最後ですか?」
「あぁ、そうだよ。これでお終い! やり終えたら各自の部屋に戻っていいぞ」
「了解!」
二人は山田に対し敬礼をした。
その一方で、ハーガンは二人の部下と共に小型輸送艦に乗って、地球へと向かっていた。
「ハーガン隊長、今回は作戦通りにやれば……」
部下の一人であるソルドは不敵な笑みを浮かべる。
「すべからく上手く行くだろう…。フハハハハハッ!」
ハーガンは笑った。この作戦が成功すれば昇級するだろうという思いを込めながら。
「では……、作戦内容を確認しよう」
「了解、ハーガン隊長」
「まず、ソルドが今回使用する電磁ネットガンで敵軍の部隊を捕捉……、一番大型のものを使え。
これで一網打尽にしてやれ!」
「了解…」
ソルドは冷静な態度で返答した。
「ベルツは私と共に敵軍の機動大隊の殲滅を行う!
ビームバズーカを持っていけよ! いいか?」
「了解です! 隊長!」
彼はソルドとベルツにそう指示し、ホログラムマップを表示した。
「ロンドンはイギリス政府軍の本拠地だ……。量産機であるラザックとやらもいるから、あちこちから集中砲火を喰らうことは間違いないぞ……。
身構えろよ……」
「了解しました」
ソルドとベルツは隊長に対し、敬礼をした。
彼らは、どうやって戦い抜くかをそれぞれ考えつつ地球への降下開始を待っていた。
それから数時間後、ガーディアン小隊が待ち構える小型輸送艦は地球を目前にしたのだった。
そして、このことを知ったイギリス政府軍航空部隊は、攻撃態勢に入った。
この後当然ながら、ブレイダー隊も動き出し、亮たち5人はイギリス政府軍基地へと向かう。
「私、MUなんて操作できるかしら?」
玲は亮に対してそう問いかけた。
「まぁ……、技術大学は出てるんだから大丈夫だとは思うが、万が一の時は俺が守ってやるからさ!」
「本当? やられそうになったら任せたからね!」
彼女は亮に対し期待をこめてそう言った。
「任せとけよ!」
「うん! わかった!」
果たして五人は間に合うのだろうか。
しかし、亮たちが到着する前にハーガン率いるガーディアン小隊の搭乗している輸送機は既にイギリス・ロンドン上空で航空護衛部隊に対し攻撃を繰り広げていた。
“まずいぞッ! 左舷小型ビーム砲に被弾した! ガーディアン小隊は直ちに降下しろッ!!
早くしないと間に合わんぞ!!”
艦のクルーは、ハーガンに対し必死の思いで降下するよう指示をする。
「わかった! ソルド、ベルツ! 早く降下するぞ!」
“了解です…”
“分かりましたッ! 早く行きましょう!”
二人はハーガンの応答に対しそう応えた。
「行くぞッ!! ハーガン、出撃ィィッ!!」
“ソルド、行きます”
“ベルツ、出るぜッ!”
ガーディアン小隊の3人は艦のハッチから出撃し、ついに作戦を開始した。
「ベルツッ! 攻撃を始めるぞッ!」
“わっかりましたーっ!”
「今はふざけてる状況ではないぞ……。敵の行動を見極めながら攻撃を行え!」
ハーガンはやや苛立った表情をした。
“りょ、了解ですッ!”
ベルツは隊長の苛立ちを隠せていない顔を見て察したのか、途端にかしこまった表情をした。
「全く……、緊張感の無い奴だ。ソルドは電磁ネットで敵を捕捉しろッ!」
“了解です……”
ソルドは冷静な表情でそう応えると、即座にネットガンを構えて即座に発射した。
「ネットが掛かってしまった……。まずいッ!!」
「獲物には死んでもらおう……」
ソルドは銃の側面にあるスイッチを押し、ネットに電流を流した。
「グアァァァッ!!」
「死ぃぬウウゥッ!」
ネットに捕らえられた機動大隊の2人は、強力な電撃に苦しみ、悶えながらそのまま感電死した。
ソルドはネットガンをその場で捨てた後、ハーガンとベルツに合流した。
「ようやく来たみたいだな……。よし、撃てェッ!!」
“はいッ!!”
部下の2人は、迫りくる地球軍の機動大隊を迎え撃った。
ハーガンはビームバズーカを巧みに使い、敵MUに対抗していく。
「反応が遅すぎるんだよッ!」
ビームをすぐさま放つハーガン。
この攻撃により、敵の機体は爆散した。
「まずいッ! ウギャァアッ!」
彼は迫り来る機動大隊のMUをいとも容易く次々に薙ぎ払っていった。
もはや彼らを止める者は誰もいなかったのだ。
一方、ブレイダー隊の五人はイギリス政府軍基地にようやく到着し、即座に攻撃態勢に入った。
五人は各々の機体に乗り、いつでも戦える状態である。
「ジェフ、早く行かないとこの基地が危ないッ!」
“わかってるさ! 行こうぜ!”
“亮! 私は初めての戦闘だからアシスト頼んだよ!”
「任せとけよ!」
亮は笑みを浮かべながらそう言った。
“玲…、万が一のことがあったら俺も護る…”
“僕も忘れないでね!”
「鎧さん、リック! 頼んだよ!」
このようなやりとりをした後、五人は攻撃を開始した。
亮と玲は、イギリス政府軍の機動部隊と共に敵を迎え撃つ。
二人がいるエリアは、自衛用砲台が並ぶ第一防衛ラインに当たる場所であった。
「気をつけろよ……、玲!」
“うん! こうやって戦うのは初めてだけど、頑張るよ!”
二人はお互いに相手の事を気にしていた。
何故なら、彼らは固い絆で結ばれた兄妹だからだ。
“二人共、気をつけないとすぐやられるぞッ!”
「はいッ!」
その時、亮と玲の心の中には何としても生きて帰りたいという思いがあった。
二人は生まれた時から今に至るまで二十二年間一緒にいた兄妹を失いたくない気持ちは変わらない。
「玲、しっかり身構えておけよ! でないと死ぬぜ」
“うん、わかった……!”
こうして彼らは覚悟を決めた。果たして、亮たちは生き残ることが出来るのだろうか。