第33話 その名はGHOST
9月11日にブレイダー隊の九人は、いる場所は別々ではあるものの昇級の知らせを聞き、歓喜した。
「君たちも本日付で少尉に昇進することとなった。これからも、大戦終結まで頑張ってくれ……。頼んだぞ……」
ウィリアムは四人に少尉の階級章を渡した。
「ありがたく頂戴します……」
亮たちは階級章を受け取った後、敬礼をした。
その一方で地球では、江川が鎧たち五人に階級章を渡したという。
彼らは今後の戦いに向けて、精進することを決意したのだった。
同日、火星・第二住居区アルガスが革命軍の手により襲撃され、数多くの犠牲者を出した。
この惨状に心を苦しめたリザーグは、二度とこの惨劇を生まぬよう、より防衛部隊の戦力を強化するという判断に出たのだった。
「リザーグ長官、一部の区民から軍備についての批判が来ているようですが……」
「彼らは、具体的にどのようなことを言っているのだね?」
リザーグは側近の兵士を凝視する。
「はい……。特に多かったのが軍備費よりも街の復興費を出してくれという、政治家達からの意見ですね」
「そうか。確かに彼らの意見も一理ある。経済面を動かすためにも、軍備拡張だけでなく市街地復興にも金を出せるように、我々が過剰に軍備費を使うべきでは無さそうだな……」
「その方が良さそうですね……。政治家の方々からの意見もしっかり取り入れなければいけませんね……」
「うむ。協調性を疎かにしていてはいかんからな。さて、これからは佳境に入っていく頃だな……」
そしてリザーグは、漆黒の宇宙を窓越しに眺めた。
一方、火星革命軍のゼルガは、襲撃作戦成功により、この勢いに乗って火星政府軍壊滅を目論んでいた。
「ゼルガ長官、このままの勢いで火星政府軍の連中を滅亡に陥れる可能性が見えてきましたね」
ゼルガの部下・ランケルは興味深そうな表情をしていた。
「確かにそうだな。それと、兵力面でもさらなる強化が必要だな……。我々は既に第四住居区オリンピウスを占領しているからな。次は、第三住居区のロンバルダを狙うとしよう……。これで政府側はより不利となるだろう」
ゼルガは不敵な笑みを浮かべた。
「確かにそうなりますね。それと、以前から地球政府軍の艦隊がこの火星に接近していますが、それはどうするおつもりで?」
「あぁ、あの艦隊か……。その連中は、我が軍の親衛部隊“GHOST”に始末させてやろう」
それを聞いたランケルは、思わず驚いた。
「“GHOST”ですか? 彼らをまた出撃させるのですか!?」
「彼らは、我が軍の中でも突出して優れている部隊だからな。きっとやってくれるだろう……」
「そうですか……。分かりました……」
︙
そしてしばらくして、ゼルガより直々に、“GHOST”へとリントヴルム艦隊討伐命令が出た。
隊長のアンフォーン・ベルズとその大勢の部下は、その命令を真摯な態度で聞き入れた。
「了解……。さて諸君、今回はリントヴルム艦隊絡みの任務だ。何としても、あのブレイダー隊を駆逐してやろう」
「わかっています。必ず手柄を立ててやりましょうね」
部下の一人である、ガウル・ブローズは気持ちを逸らせていた。
「ガウル少佐、興奮してるようですね……。この私も、かなり心を昂ぶらせております」
同じく部下であるバルファー・マルケスは、ガウルの興奮ぶりに同調しそうになっていた。
「まぁ、お前達の気持ちもわからんでもない。とにかく、今回の作戦を考えるとしようか」
「そうですね、アンフォーン中佐。どうやら今回の作戦は我々が他の多数の部隊を率いることとなっていることですからね」
「うむ、そうだったな。今回はまず、遠距離からメガキャノンで砲撃戦を行い、弾切れを起こしたら
エネルギーチャージ完了まで時間稼ぎとして、圧倒的物量攻撃を使って包囲し、艦隊を襲撃する。そして、エネルギーが再び溜まったメガキャノンでトドメを刺す…、というわけだ。説明が終わった所で、早く出撃態勢に入るぞ、諸君!」
「了解!」
隊長含め計40名で構成された親衛部隊“GHOST”は、他の部隊と共に出撃態勢に入った。
一方、亮たちは革命軍が襲撃しようとしているとは露知らず、自分たちが昇進したことに喜んでいた。
「しかし、俺達も気がつけばもう少尉か……。地球にいた時から、手柄を上げて少しずつ努力の積み重ねをした甲斐があったな、亮」
ジェフは亮に向けて軽く微笑む。
「そうだな。でも、これからも戦争を終わらせるためにより努力することが大事だな……。ジェフもそう思うだろ?」
亮は腕を組みながらジェフを見つめる。
「まぁ、その通りだな」
二人が話をしていると、突如として警告音が鳴った。
「おい、大変なことになったぞ!」
マークは慌てて亮の部屋に駆け込んだ。
「マーク大佐! どうしたんです? まさか、敵が来たというんですか?」
「そのまさかだ! 早く整備ドックへ行くぞ!」
「はい! 玲とリーも呼んだほうがいいですね」
そして、彼らも攻撃態勢に入ることとなった。
敵部隊が接近する前に、フォーメーションを四方八方に固めて攻撃態勢に入ったリントヴルム艦隊。
しかし、革命軍は予想を遥かに越えた行動に出ることとなった。
「さぁ、どこからでもかかって来い!」
マーク達は自ら前線に出て果敢にも機銃で攻撃を行った。
「馬鹿な奴め。ただ弾を撃つだけで勝てるわけが無いだろう。さて、ここから撃つとするか……」
アンフォーン達は、遠距離から背面にマウントされたメガキャノンを展開して、総攻撃を行った。
「全員一斉掃射ァッ!!」
“了解!”
革命軍の圧倒的なまでに凄まじい攻撃に、次々と味方が撃破されているのを見つつ戦闘を行っていたマークは、さすがに焦りを感じて回避行動に移るように部下たちに指示を出した。
「早く逃げないとな……。リー、あんまり前方で戦うと撃墜されるぞ!」
亮は、必死に味方達を先に回避させようとしていた。
“亮さんも早く回避しないと……”
「わかってるさ、そんなこと! お前達に死んで欲しくないんだ!」
しかし、彼らの想定とは裏腹に、革命軍は艦隊の方へ接近しようとしていたのだ。
「まずいよ、亮! アイツら後方に向かってるよ! 何があっても守らないと……」
玲は、予想外の行動ゆえに焦燥に駆られていた。
“そうか、分かった。よしッ、一斉掃射だ!”
「りょ、了解!」
四人は我先にと攻撃を仕掛けて、革命軍の機動部隊を撃墜していった。後方では艦隊側も敵部隊殲滅のために
猛攻を浴びせており、油断できない状況となる。
“亮! 俺はマーク大佐を援護するから、しばらくここから抜ける。頼んだぜ”
「分かった、ジェフ」
亮はジェフが一旦抜ける分も補うかのように、二人分の活躍をすることとなった。
「落ちろォ、ロードブレイダー!」
“させるかッ! てやァァァッ!”
ビームブレードで敵機を真っ二つにした亮。
だが、隙も与えられないまま、敵は次々にやって来る。
「まだ来るか!」
“亮! 気を付けて! ここは私が遠距離で……”
玲はツインバズーカを両手に構えて、一対の閃光を放つ。
「そんなァッ!」
敵機は爆発四散し、一瞬にして宇宙の塵と化した。そしてその後も、玲の快進撃は続く。
「ここはビームガンで牽制した方が良さそうだね……」
玲は、バズーカを背面にマウントし、ビームガンを握る。
「喰らいなさい!!」
彼女は光弾を連射し、革命軍の敵機を確実に仕留めていく。
もはや玲に敵などいないといっても同然の状況の中、それを打破しようとする者がいた。
「まずはあの銀色の……、ソニックブレイダーを倒すか。フハハハッ、貴様もここで終わりだッ!!」
アンフォーンは、巨大なビームブレードを構えて、ソニックブレイダー撃墜を目論みる。
「死ぬが良いッ!」
しかし、即座に玲はその攻撃を回避し、反撃に出た。
「何すんのよッ!」
玲は光弾を一発放つものの、アンフォーンによって盾でいとも簡単に防がれてしまった。
「ほう……、流石は噂に聞いていた通り、只者では無さそうだな。殺し甲斐があるじゃあないかッ!」
アンフォーンは大剣を大きく縦に振りかぶり、玲の機体左腕部を切断する。
「キャアァァッ!! 左腕がやられた!?」
アンフォーンはそこからトドメを刺そうとするが、それを黙って見ていなかったのは、竜崎亮であった。
「玲、やられたのか! 何て事をしてくれたんだ! 絶対に許さねぇ!」
亮はビームブレードを構えて、アンフォーンに立ち向かう。
「これで……、斬ってやる!」
亮はこの時、凄まじい勢いで攻撃を繰り出していた。
“亮、ここは我々も援護するぞ!”
後方から現れたのは、アルフレッド率いるバルチャー隊であった。彼らはアンフォーンを撃墜するために、一斉掃射を開始したのだ。
「アルフレッド中佐! 来てくれたんですね」
“君は、亮の妹の玲だったな。早く艦へ戻るんだ!”
「はい!」
アルフレッドの指示を聞いた玲は、即座にリントヴルム艦ヘ戻っていった。
「中佐! 敵を死角から攻撃して下さい!」
亮はアルフレッドに対しアドバイスを行うが、健闘も虚しく、敵の侵入を許してしまった。
「まずいぞ! このままじゃ包囲される……」
ピンチに陥るかと思われていたその時、一筋の希望の光が彼らの元に差し込んだ。
「てやぁッ!」
リーがビームソードで、アンフォーンに軽くダメージを与え、敵を怯ませる事に成功した。
「亮さん! 早いうちに攻撃して下さい! でないと、奴は反撃して来ます!」
“分かった、リー! よしッ、大型粒子砲発射!”
亮は右腕部の大型粒子砲でアンフォーンの機体左脚部を破壊。
「くっ……、何て事だ。俺の機体にここまでのダメージを与えるとは……。撤収だ!」
“了解……”
GHOSTは呆気なく撤収を余儀なくされるのだった。
その一方、ジェフとマーク達はファルコン小隊を筆頭に構成された大編隊の攻撃に翻弄されていた。
「どうしたどうしたァ……? もう終わりか?」
アイザックは代用機のサイファルに搭乗していたが、まるで長年の愛機の如く使いこなしていた。
次々にビームを放ち、敵を撃破していくが、そこに立ちはだかったのはジェフであった。
「好き勝手に暴れやがって。俺が止める!」
“ジェフ、俺も協力しよう……”
「分かりました、マーク大佐。では行きましょうか……」
“オーケー”
そして二人は、アイザックに対し猛攻撃を行うが、なかなか当たらず苦戦する。
「二度も同じミスをすると思ってるのか?」
アイザックはニヤリと笑いながら、マークの機体を狙ってビームを放った。
「ウワァァッ! 肩をやられたようだ……」
“マーク大佐! 無理しないで下さい……”
「ジェフ、俺は一旦ここから退く。代わりに俺の右腕であるジェイクを呼ぶことにする。後は任せたぞ……」
そしてマークは、仕方なくこの場を去っていった。その代役としてジェフの元に駆けつけたのは、副隊長のジェイクであった。
「君がジェフか。よろしく頼むぞ」
“はい、こちらこそ……”
「さぁ、撃つぞ!」
ジェイクはビームライフルを即座に構えてアイザックを狙い撃つが、防がれてしまう。
「遅いぞ! 何をやっているんだか……。死ね!」
ジェイクの元にビームが放たれるが、それをジェフがどうにか防いで事なきを得る。
「危ない危ない…。よしッ、ミサイル全弾発射!」
ジェフは機体各部に装備されたミサイルポッドから、全弾発射を行い、アイザックに大打撃を与える。
「ウォォッ! 流石は俺のライバル……。だが、斬撃で激しくぶつかり合おうか……」
なんと、アイザックは果敢に接近戦に挑み、エアブレイダーを撃破しようとする。
「くっ…、コイツしぶといじゃねぇか……」
“ジェフ、ここは俺が援護する!”
「分かりました!」
ジェイクの援護の下、ジェフは猛反撃に出た。
「何だッ、後ろの奴め……。俺の動きを邪魔しやがって」
アイザックはジェイクの攻撃を避けながら、ジェフと接近戦を行うが、悪戦苦闘する。
「今だッ! 隙ありィィッ!!」
ジェフの会心の一撃によって、アイザックの機体に致命傷を与えた。
“コンディションレッド。直チニ撤収シテ下サイ”
「おのれ、覚えていろよ……。アヴィル、メイル、撤収だ」
“了解です……”
“分かりました、少佐”
そして三人は、この戦地を去っていくのだった。
その後、革命軍の作戦は実質失敗に終わり、この戦いに終止符を打つのだった。
リントヴルム艦へと戻った亮だったが、疲弊し切っていて、すぐに個室に向かっていた。
「あー、疲れた……。もう何も考えたくない。さっさと夢の中に入りてぇ」
亮は不満を口にしながらもベッドの中でボーッとしていた。
その一方、ジェフと玲は談話室で会話をしていた。
「ジェフってさぁ、大事な人っている?」
「何を突然……。まぁ、俺には幼馴染のレミーがいてな。もちろん家族も大事だけどよ……」
「そうなんだ……。幼馴染かぁ、いいねぇ」
玲は思わずニヤニヤしていた。
「何だよ、その笑い方……。気持ち悪いぞ」
「いや、幼馴染同士の恋ってよくドラマとかであるなーって感じがして、つい……」
「あのなぁ、レミーとはあくまで友達だからな?」
「本当かなぁ?」
二人が楽しそうに会話をしていると、そこにリーも来た。
「何を話してるんですか?」
「あっ、リーじゃねぇか。聞いてくれよ。玲のやつやたらと俺のことからかってきてよぉ……」
「からかってなんかないよ? ただ、ねぇ……」
「何ですか何ですか? ちょっと聞かせて下さいよ」
その後も、彼らは話に花を咲かせるのだった。
戦いの中の束の間の休息を味わうが、いつ静寂が破られるかは、わからない。




