第32話 大激闘! パリ基地防衛戦線
9月10日、地球では今後の防衛戦線に向けての会議が行われていた。
そこには日本政府軍長官の江川も当然ながら参加しており、これからの方針の計画を練っていたのだ。
「さて、マーティン長官。リントヴルム艦隊の方に戦力が集中してしまっては、地球圏内の戦力が手薄になるでしょう。そこで、リントヴルム艦の艦載機であるグレインを、早いうちに世界共通の量産型MUとするのはいかがでしょう?」
「それに関しては、既に計画が進んでおりますよ、アルベルト長官。グレイン自体は元々、新世代の量産機として開発されていたのでね」
イタリア政府軍長官のダンテ・フォルストは、冷めた目でアルベルトを見つめた。
「ダンテ長官、一つ気になることがあるのですが、よろしいでしょうか」
「勿論ですとも。江川長官」
「グレインの配備体制について、より明確に教えてもらいたいのですが……」
「それに関しては、各国でグレインを製造できるよう世界各地のMU開発メーカーにライセンスを既に取らせているので、すぐに旧世代型のラザックと世代交代できるでしょう……。江川長官のいる日本では、メガテック社が製造すると以前伝えたはずですが……。あと、初期生産機数は200機の予定です。空戦タイプと陸戦タイプをそれぞれ100機ずつということで」
「分かりました。ご返答ありがとうございます」
そして江川は軽く頷いた。
「他に意見がある者は?」
マーティンは周りを見渡すが、会議室の中は静寂に包まれた。
「いないようですね。以上で会議を終了します。皆様、ご協力ありがとうございました」
一方で、火星政府軍のヴェスタ小隊リーダーのアシュリーは、強襲作戦の内容について部下たちに説明を行っていた。
「この作戦では、ヨーロッパの中でも比較的戦力が薄いフランスを襲撃することになっていることは知っているかしら?」
「はい、もちろんです」
ケイトはとても冷静な表情をして頷いた。
「まぁ、肝心の作戦内容はというと、空中から砲撃を行って、敵を上手く引きつけた上でそこからさらにナパームミサイルで地上に爆撃を行う……、といった感じね。ただ、地上班は動きが違うわ。空中砲撃の後に地上へと降り立って、地上に味方艦がダミーバルーンを射出するから、それで撹乱しながら接近攻撃で果敢に攻めていく……、ということよ。分かったかしら」
アシュリーの部下たちは即座にタブレットを用いてメモを取った。
「はい、作戦内容はしっかり理解しました」
「あら、ミアも成長したじゃない。この調子で作戦も是が非でも成功させましょう……」
「はい!」
「では、出撃態勢に入るわよ」
アシュリーは即座に整備ドックへと向かうのだった。
火星政府軍が攻撃態勢を整えている一方で、ブレイダー隊地球圏班のリーダーとなった鎧は、談話室で不安ゆえに今後どうすべきか悩んでいた。
「俺はリーダーとして、やっていけるのか……」
深く考え込んでいると、そこに省吾が現れた。
「鎧さん、どうしたんですか。顔色が悪いですよ」
「省吾…、俺はここのリーダーとして上手く出来るだろうか」
暗い表情をする鎧。
しかし、省吾は鎧が有能な人物であると知っていたので、なぜそのような言葉を発したのか疑問に思った。
「少なくとも、鎧さんは実力があるはずですし、そんなに悩む必要は無いと思いますよ。リックさん達も鎧さんのことを信頼してますからね」
「だが、俺は指揮が出来るかが心配なんだ。自分のミスが原因で、作戦に失敗なんてしたらどうしたらいいか……」
鎧は悲観的になるあまり、頭を抱えていた。
「まだ起きてもいないことに悩んでもダメですよ。いざやるという時に、考えればいいんです。鎧さんのフォローは僕達が多少どうにかしますから」
「そうか……。ありがとう、省吾」
「元気出して下さいよ。鎧さんなら必ずやれますって」
鎧はその言葉を聞き、口元が軽く緩んだ。
「分かった。やれることはやってみる。励ましてくれて嬉しいよ。ありがとう……」
「どういたしまして。あっ、それと僕はこの後機器のメンテナンスの手伝いがあるんで……、また後で会いましょう」
「分かった。じゃあな」
そして省吾は、整備ドックへと走り出した。
それから数時間後、機器のメンテナンスが終わった後にとある情報が入った。火星政府軍の小規模艦隊がフランスの空域へと向かっているとのことである。
その事を受け、ブレイダー隊も大至急フランス政府軍パリ基地へと向かった。
「手遅れにならないといいんだけど……」
リックは不安な表情をしていた。
「私も、到着したらもう遅かった……、みたいになっていたら見ていられないですね」
アンナもまた、不安ゆえに青ざめた顔をしていた。
「二人共、心配することは無い。この輸送艦ならすぐに到着出来るはずだ」
「でも、万が一ってこともあるじゃないか……」
鎧が安心させようとするが、それでも二人は軽く鬱蒼としていた。
「確かにリックの意見には一理ある。だが、心配しすぎるのもいいことでは無い。もう少し気を楽に持った方がいいぞ。リックも前に言ってたじゃないか。前向きに物事を捉えるんだ」
リックは、以前自分が言っていたことを思い出し、顔色を変えた。
「そうだね……。確かに、僕も大分前に同じことを言ってたよ。まさか、今度は言われる側になるとはね……。鎧さん、とにかくやるだけやってみるよ」
「あぁ、その調子で頑張ろう」
「うん」
リックは、ほのかに余裕のある表情を見せた。
「私も、心を切り替えて前向きになって頑張ろうと思います」
アンナもまた、自信が付いたのか、穏やかな表情になった。
そして、ついにパリ基地を目前にしたブレイダー隊の5人は、作戦の確認を行った。
「今回の作戦は、地上で俺とリックが、空中では美奈と省吾、アンナの三人で戦闘を行う。リックはミサイルを使って敵を遠距離から攻撃して、その隙に俺が一気に近くに詰め寄ってる……、といった感じだ。次に美奈と省吾は、遥か遠方から砲撃して、敵部隊を牽制すること。そこにアンナが中距離射撃を行いながら近づいて撃破していってくれ。四人共、頼んだぞ……」
鎧はスッとサムズアップをして見せた。
「任せて下さいよ、鎧さん! 美奈も一緒に頑張ろうな」
「そうだね、省吾」
美奈はどこか自信に満ちた表情をしていた。
「アンナ達三人には、申し訳無いことをしたな……」
「いえ、気にしないで下さい。これぐらい大丈夫ですよ」
明るく微笑むアンナ。彼女は先ほどの鎧のアドバイスを受け、自信を取り戻していた。
「鎧さん、今回の作戦は何としても成功させよう」
「もちろんだ……、リック……」
彼らが会話をしているうちに、ついにパリ基地へと到着し、鎧たちは意気揚々と戦地に赴いた。
フランス政府軍本部・パリ基地では、現地の機動部隊が奮戦しており、何としても拠点を守ってみせるという思いを胸に、兵士達はひたすら戦闘に夢中になっていた。
「やってやる、やってやるぞッ!」
兵士の一人であるモルガンは、ビームライフルでゾギィを狙い撃ち、見事撃墜に成功した。
「よしッ! この調子で行くぞ!」
しかし、彼の期待とは裏腹に、想定外の事態が待ち受けていたのだった。
「何だッ!? 攻撃が激しくなってきたぞ……!?」
空中から攻撃を仕掛けていたのは、ヴェスタ小隊であった。
「フランス政府軍の戦力はこんなものなのかしら……? 喰らいなさい!」
アシュリーの攻撃により、味方機が一機撃墜される。
「ギャアァァッ!!」
「ダミアン! てめぇよくもダミアンをッ!」
モルガンは必死に応戦するが、なかなか敵に弾が当たらず、焦燥に駆られる。
「落ちなさい!」
このまま死を覚悟したモルガンだったが、その時、彼を敵の攻撃から、一機の朱色の機体が庇う。
「ん……? まさか、この機体は……」
“大丈夫ですか? 私は上城鎧、階級は准尉です”
「上城……、鎧。あんたもしやブレイダー隊か! よく来てくれた! 援護してくれないか?」
モルガンは安心し、胸を撫でおろした。
“分かりました……。貴方、名前は?”
「俺はモルガン・アルス。階級は大尉だ」
“モルガン大尉……、ですか。よろしく頼みます”
そして、彼に遅れてリックも鎧に合流した。
“鎧さん、この人は?”
「モルガン・アルス大尉だ。この方も一緒に戦ってくれるとのことだ」
“なるほど…。よろしくお願いします、モルガン大尉。
私はリック・フォーディー准尉であります”
“よろしく頼むよ”
そして3人は、アシュリー達に挑んだ。
「ハンドミサイルランチャー、発射!」
リックはミサイルを放つが、アシュリーによって盾で防がれてしまった。
“アシュリー少佐、大丈夫ですか?”
ミアは少し心配そうな表情をしていた。
「ふん、こんな攻撃なんて大したことないわよ……。それじゃあさっきのお返しをしてあげないとね……」
アシュリーは、即座にビームライフルで光弾を放った。
「何ッ!? 馬鹿め、空中からだとタイムラグが……。ん!? 何だこれは!?」
モルガンは、空中からばら撒かれたダミーバルーンに驚くも、すぐさま冷静に本物と偽物を見分けて、地上ヘ降り立った敵機を次々に撃ち落としていった。
しかし、敵は倒しても倒しても群がるばかり。
これを見てリックは、ナパームミサイルで敵を一掃することにした。
「発射ァッ!!」
ナパームミサイルの爆風で、次々にダミーバルーンや敵機が爆発し、木っ端微塵になっていき、真っ赤な炎が、この戦地の中で燃え盛る。
「この調子で、あそこにいるゾギィも倒すぞ!」
“了解、モルガン大尉”
リックは、必死に地上からミサイルを放ち、見事アシュリーの機体に被弾させることに成功する。
“機体左脚部、コンディションイエロー。コノ後ノ攻撃ニ、ゴ注意下サイ”
「こんなことで……、こんなことでやられるワケにはいかないわ! ケイト、地上の敵を撃墜してやりなさい!」
“了解です。さぁ、早いとこ片付けましょうか……”
ケイトは地上を滑空して、果敢にも接近戦に挑んだ。
「切り裂いてやる!」
「何だと……!? やらせるものか!」
鎧は緊迫した空気の中、何とか刀で攻撃を防いだ。
「防いだッ!?」
ケイトが焦燥に駆られる隙に、鎧は二本のクナイを彼女の機体に目掛けて投げた。
「ウゥッ!! まだよ、まだこんな所でェッ!」
「この刀で……、斬る!!」
鎧は自らの刀で、ケイトの機体右腕部を切断した。
「しまった!! アシュリー少佐、私はここで撤収します……」
“右腕をやられてるようじゃ、仕方ないわね……。
流れ弾に当たらないように気を付けて帰艦しなさい……”
「はい……」
ケイトはどこかしょぼくれた表情をして、艦へと戻った。
激しい戦闘の中、不利になると思われた地球軍側だったが、上空よりアンナ達三人が合流した。
「アンナ、来てくれたのか。空中の敵を殲滅してくれ」
“了解! 任せて下さい!”
そしてアンナは、機銃を巧みに使って迫りくる敵を撃墜していくが、その中でアシュリーが彼女の快進撃を妨害しようとしていた。
「あの機体、妙に動きが軽やかね……。倒しがいのありそうな機体じゃないの!」
アシュリーは機銃を撃ちながらジワジワとアンナの元に詰め寄っていく。
「近づいてる!? 絶対にやられはしないわ!」
アンナはビームソードを両手でしっかりと構え、接近戦に挑むこととなった。
“アンナ、気を付けて! 私達も応戦するわ!”
“僕も忘れないでくれよ!”
「美奈、省吾! ありがとう。援護頼んだわよ!」
小型艦の砲撃により、思うように動けなくなったアシュリーは、行動範囲の制限を余儀なくされる。
「くっ、迂闊に近寄れない……」
「隙ありッ!!」
アンナは凄まじい速度で、アシュリーの元に接近し、彼女の機体の下半身を切断した。
「あぁッ!! これ以上戦ったら身が保たないわ……。全員撤収するわよ」
“了解です……”
アシュリーとミアは、やむなく撤収することとなった。
それから間もなく、この戦闘も終了した。
戦いが終わり、初めて鎧たちと直接顔を合わせたモルガンは、感謝の気持ちで胸がいっぱいであった。
「鎧君、あの時は助けに来てくれてありがとう。もし、君の協力が無かったら今頃どうなっていたか……」
「いや、それほどでも……。モルガン大尉こそ、ご協力ありがとうございました。また会えることを祈っています……」
「俺もそう祈ってるよ。もうすぐ出発か……。またな」
「また会いましょう……」
そして鎧たちは、モルガンと再び会うことを誓い、日本へと戻っていった。
日本に帰った鎧たちは、疲れ切った表情をしてベッドで寝転がっていた。
鎧は、現在宇宙にいる亮たち四人のことを想った。
「皆、また会えるよな。きっと……、いや、必ず!」
ブレイダー隊の九人の写った写真を見ながら半ば感情的になったのだった。




