第1話 奴らとの遭遇
西暦2500年、ついに25世紀最後の年を迎えた。
思えば、25世紀はいろいろなことを実現させた素晴らしき時代であった。
2450年代に念願の火星移住計画実現、他にも月面宇宙ステーションの完成が2460年代に実現し、今では木星移住計画が進んでいる。
まさに「夢世紀」といったところだろうか。あとは、26世紀が来るのを待つだけとなった。
しかし、2497年に惑星間で巻き起こった宙域権抗争が原因で地球と火星による第三次世界大戦が開戦し、平和とは程遠い世界となっていった。人口爆発により火星に移住した者たちは、戦車や戦闘機などとは比べ物にならない程の高性能人型兵器“メタルユニット”を開発し、火星政府軍は地球政府軍に猛攻撃を仕掛ける。
これを受け、地球政府軍もメタルユニットを開発するが、戦争終結は夢のまた夢。膠着状態となりつつあったのだ。
一方、日本の東京では引越しの準備をする双子の兄妹がいた。
兄は機械いじりが趣味の竜崎亮、妹は衣装作りやコスプレが大好きな竜崎玲という。
この二人は新宿で二人暮らしをする予定だ。
そんなある日、亮と玲は荷物を片付けてトラックで新宿へと向かっている最中のことだった。
「ハァ、新宿って思ったより遠いんだなぁ」
亮はそのように不満を口にした。
「そうね。思ったより結構時間かかるわね」
「もう出発してから結構経ってるんじゃねぇか?」
二人は、あまりの疲労故にかったるい表情をしていた。
何気ない会話をする中、上空にとてつもない速さで飛び回る何かが見えた。
「ねぇ亮、あれ何?」
玲は空中を飛んでいる物体に指をさしてそう言った。
「もしかして…、あれはメタルユニットじゃないか?」
「え…? メタルユニットがこの辺に飛び回ってるのは変じゃない?」
彼女は不思議そうな表情で考え込む。
「でも…、どう見てもメタルユニットだぞ」
すると、その機体はパイプライン側に向かって飛んだ。
「あら、あっち側に飛んでいったわ」
「何だったんだ? あれ」
何故か上空を飛んでいたメタルユニットを目撃して、不思議に思っていたその時であった。
向こう側から今まで聞いたことのないような爆発音が聞こえたのだ。
「何か爆発してない?」
「本当だ! ヤバくないか!?」
異変に気付いた2人は、即座に車載テレビをつけた。
“ニュース速報です。先ほど、火星政府軍のものと思われるメタルユニットが新宿のパイプラインを襲撃していることがわかりました。現在地球政府軍が対処をしています”
「大変! 早く避難しましょ!」
玲はとても切羽詰まった表情をしていた。
「わかった。でもどこに!?」
亮もまた、突然の出来事に焦燥に駆られていた。
「んーと、世田谷は?」
「世田谷は遠いぞ!? まぁ…、仕方ない。行こう」
そして亮は、急いでトラックを走らせた。
こうしている間に火星軍のメタルユニットは他のエリアへと向かっていた。
「さて…。次はどこのパイプラインを狙うか…」
火星政府軍・ガンナー小隊リーダー、バーン・ロディックは次のターゲットを捜していた。
「あそこは如何でしょうか?」
ノーグは、バーンに目的地の画像を通信で送った。
「ほう……、ここか……。よし、行くとしよう!」
「了解!」
一方、亮と玲は世田谷へと向かおうとしていたが、道が通行止めになっていたせいで行くことができなかった。
「通行止め!? こんなときに限って…、ついてないわね」
玲は思わず溜息を溢した。
「玲、また練馬に戻るぞ」
「わかったわ」
練馬に戻って再び新宿へと向かおうとするが、2人はとてつもなく長い渋滞にはまってしまっていた。
「ん? あの前のトラックは政府軍のやつじゃないか?」
「え? あ、本当ね。ちゃんとEGFって後ろにロゴが
書いてあるわね」
二人のトラックの前には、地球政府軍の輸送トラックが止まっていたのだが、その車両は既に火星軍に狙われていた。
「おいアレン、聞こえるか?」
「はい、バーン大尉、何でしょう」
アレンはニヤリと笑みを浮かべながらそう返した。
「今回の作戦では、地球軍の新型の強奪に向かう…」
「そのことについては知っています」
部下のノーグは眼鏡を直しつつ頷く。
「そうか…。しくじるなよ」
「はい」
その時のアレンの表情は、覚悟を決めているようだった。
一方、地球軍の輸送部隊の隊員である岩田は、新型メタルユニットであるロードブレイダーを日本政府軍基地へと運ぼうとしていた。
しかし、彼の背後には火星軍の量産型メタルユニットであるゾギィが迫っていた。
「アレン、ノーグ、聞こえるかッ!?」
「何ですか? バーン大尉…」
アレンは突然の通信に驚きつつも、冷静さを保とうとする。
「ついに攻撃を仕掛ける時が来たぞッ!!」
「そうですか、では行きましょう…」
ノーグは機銃を構えて、輸送トラックを追う。
それから数時間後、亮と玲はようやく渋滞から抜け出し、新宿に向かっていた。
「あっ、さっきのメタルユニットよ!」
玲は驚きつつ、上空に飛ぶそれを指差した。
「あれが火星軍のメタルユニットか…」
「あっちへ飛んでいったぞ」
亮は飛んでいく機体を指さした。
「何か狙っているのかしら…」
彼女は火星政府軍の行動に疑問を抱いた。
「恐らくそうだろうな…」
火星軍の襲撃を受け、地球軍もやむなく動く。
「来たか火星軍! 俺が相手だァッ!!」
地球政府軍の兵士は意気揚々と攻撃を仕掛けたが、全て躱されてしまう。
「馬鹿めッ! 死ねぇぇッ!!」
その時、バーンが撃った機銃から光弾が放たれ、それは機体を一気に貫いた。
「そんなッ!! ウワァァッ!!」
機体は炎を上げたあと、爆発四散してしまった。
「よし、次のパイプラインも…、何だあれは!? あれはもしかして地球軍の新型機じゃないか!?」
バーンはそのトラックを目にして驚く。
「本当ですか!? ではそれを狙いましょう」
こうして、ガンナー小隊はターゲットを定めた。
その一方、岩田は火星軍が降下してきたことを知り、周りに火星軍のMUがいないか確認していた。
「早く地球軍に新型を送らなければ…」
だが、バーン率いるガンナー小隊は新型試作MUであるロードブレイダーの奪取を始めようとしていた。
ロードブレイダーは、従来のメタルユニットよりも遥かに性能が優れているという。
「そろそろ奪取するか」
バーンはすっかり自信に満ち溢れた表情をしていた。
「了解!」
こうしてガンナー小隊は、新型機を載せたトラックを目指して向かっていく。
亮と玲は、上空から火星軍の機動部隊が飛来していることを察知し、早く新宿へ行こうとしていた。
「早く行かないと戦いに巻き込まれちゃうわ!」
「わかってるさ、そんなことッ!」
しかし、それを妨害されるかのように、バーン達によって攻撃が行われる。
「邪魔なトラックめッ!!」
バーンは亮のトラックを狙い攻撃した。
「きゃあッ!!」
玲は突然の大きな揺れに、思わず悲鳴を上げる。
彼女は突然襲いかかる恐怖に身震いしていた。
「大丈夫か!? かなり揺れるだろうから、ちょっとでいいから我慢してくれ!!」
「う……、うん」
「さぁ、行くぞォォォッ!!」
亮はアクセルを全開にして、フルスピードでトラックを走らせた。
一方、バーンはどうロードブレイダーを奪取しようか考えていた。
「うーん、どうしようか……。そうだ! 前方に回って攻撃すればいい! ノーグ、地球軍のトラックを攻撃しろ!」
「はい、了解です」
ノーグは機銃を構えた。
「よし、正面から攻撃してやる! 喰らえ!」
部下のノーグは地球軍のトラックを攻撃した。
「うわぁぁッ!!」
後ろにいた亮と玲は、何事かと思って、トラックを停めてから地球軍のトラックの元へと向かった。
「大丈夫か!?」
半壊したトラックから岩田が自力で出てきた。しかし、彼は顔や手に酷い怪我を負っている。
「おい!! しっかりしろよ!!」
亮は必死に岩田に対して返事を求める。
「う…、うっ…」
「あんた、大丈夫か!?」
岩田は亮に目線を合わせる。
「あのトラックに格納されてるやつを頼む…。これが鍵だ…」
「あぁ、はい…」
「あ…、あっ」
しかし、岩田はそのまま倒れ込んでしまった。
「大丈夫ですか!?」
亮は即座に脈があるか確認し、まだ生きていることを知り、安堵した。
「亮、どうしたの?」
「玲…」
「トラックと倒れてる人を頼んだぞ…」
「う、うん…」
亮がトラックの鍵を開けると、ドアと同時にコンテナ部分も開いた。
「あ…、あれはっ…!?」
コンテナには最新鋭のMU、ロードブレイダーが格納されていた。
蒼色に輝くその機体は、亮を驚かせ、敵を戸惑わせた。
「す…、すげぇ!」
「これが…、新型の奴か…。驚いたな…」
ガンナー小隊の3人が唖然としている間に、亮は即座にこの機体へと乗り込んだ。
「このレバーとペダルで操作するのか?」
2本のレバーとツインペダルを動かすと、ロードブレイダーは立ち上がった。
「はっ!! こうボーッとしてはいられん!! 早くコイツを生け捕りにしろ!!」
新型機に見惚れている隙に、亮に攻撃のチャンスを与えてしまい、バーンはそれを悔やみながらも任務を遂行すべく、地上に降り立った。
「了解!」
こうして、戦いは高速道路の路上で幕を開けた。
「来たッ!!」
亮は咄嗟にビームブレードを構え、攻撃態勢に入った。緊迫しながらも、亮は冷静さを保とうと上手く試みる。
「死ねっ!」
ノーグは自らの機銃でロードブレイダーを狙い撃った。
「おおっと! 危ない危ない……」
亮は、咄嗟の判断で敵の攻撃を回避した。
「俺の攻撃を避けただとッ!?」
亮はそこから、ビームブレードを敵機目掛けて振りかざす。
「喰らえ!!」
亮はビームブレードで、敵機を勢い良く真っ二つに切り裂いた。
「うわぁぁッ!!」
ノーグの機体は真っ二つになった後、爆発四散した。
「ノーグ! くっ……。やむを得ん! 撤収だッ!!」
「えっ!? りょ、了解です……」
バーンとアレンは撤収した。
「ふぅ……。 やったぜ」
亮は、初めての戦闘にも関わらず、苦戦することなく、敵機撃墜に成功したのだった。彼は勝利した喜びを噛み締めつつ、機体を降りた。
「亮! さっきの人は病院に送っておいたから大丈夫よ!」
「そうか……。ん?」
亮が周りを見ると、そこには大勢の人がいた。
「あんたが火星軍のMUを倒したのか? 素人なのにすげぇなぁ!」
野次馬の一人は、亮を褒め称えた。
「えっ? まぁ、そうですけど……」
亮は照れ気味にそう言った。
「ねぇねぇ、亮」
玲は亮の肩を軽く叩く。
「どうしたんだ? 玲」
「トラック、政府軍基地のところに返した方がいいんじゃない?」
「そうだな」
二人がトラックに乗り込もうとすると、彼の元に日本政府軍の兵士が来た。
「すみません、日本政府軍のものですけど、
一緒に来てくれませんか?」
「えっ!? は、はい……」
そして亮と玲は、日本政府軍基地へ向かっていった。
そして、基地の客室に待っていたのは、一人の兵士であった。
「しかし、びっくりしちゃいましたよ。あなたのような一般の方が火星軍のMUをあっという間に撃墜するなんて……」
「えっ、見ていたんですか?」
「はい! この辺りをパトロールしていたらたまたま……」
二人が話していると、とある人物に遭遇した。
「やぁ、話は聞いたよ」
「あ、あなたは?」
亮は突如として出会った立派な髭を生やした男に対し、驚きを隠せずにいた。
「私は、日本政府軍長官の江川志郎だ。よろしく……。
君が火星軍のMUを倒したのかね?」
「はい」
「名前は?」
江川はそのように彼に名前を尋ねた。
「竜崎亮です」
亮はやや緊張気味に自己紹介をした。
「そうか……。よろしくな、亮。それと、隣にいるのは?」
「あっ、私ですか? 私は竜崎玲です」
彼女も、兄である亮と同じようにそう話した。
「よろしくな」
「あっ、はい……。こちらこそよろしくお願いします」
玲は少し強張った表情で挨拶をした。
「そうだ。2人に紹介したい人がいる。来たまえ」
すると、部屋の扉から3人の男が入ってきた。
「俺は、ジェフ・ディアロ・マイソン。アメリカ空軍のパイロットだ。とりあえずよろしく頼むぜ」
ジェフは、過去にアメリカ空軍でエース級の活躍をしたことから、日本政府軍から引き抜かれることになったのだ。
「僕は、リック・フォーディー。フランス海軍の兵士です。どうぞよろしく…」
リックは普段おっとりとしているが、いざという時になると逞しさを戦場で見せつけるエリート兵士である。
「俺は、上城鎧。特技は剣道だ。よろしく……」
鎧は小さい頃から剣道を学んでおり、剣道の腕前をメタルユニットの操縦技能に活かせるのではという江川の提案で、入ることとなった。
「あっ、こちらこそよろしくお願いします」
亮と玲は戸惑いながら挨拶をした。
「二人共、名前は?」
「俺は竜崎亮っていいます」
「私は竜崎玲です」
二人は強張った表情であった。
「ふぅん…。よろしくな」
ジェフ達三人は軽く微笑む。
「さて、諸君。自己紹介を終えた所でやって欲しいことがある」
「やって欲しいこととは、何ですか?」
「それは、訓練だ!」
「えっ!? 訓練ですか!?」
五人は突然の発言に思わず驚いた。
「君たちには、一週間パイロットになるための訓練をしてもらう」
「訓練か…」
「ちょっと待ってくださいよ! 江川長官! 僕とジェフは軍人だからいいですけど、亮さんたち3人は一般人ですよ!? いくらなんでも無茶ですって!」
リックは江川の突然の発言に驚嘆した。
「彼らには、メタルユニットを操縦するための才能がある!」
「しかし…」
ジェフは心配そうな面持ちであった。
「万が一のことがあったら、私が責任を取る!」
志郎長官は五人に対し、そのように応えた。
「その言葉、信じていいですか…?」
長官の言葉に少しだけ疑問を感じた鎧は、彼にそう質問した。
「私を……、信じてくれないか。もし、この5人の中で戦死者が出たら私は長官を辞める!!」
江川はいつになく真剣な表情をしていた。
「そうですか。その言葉、信じます……」
リックは江川のことをしっかりと見つめた。
「では、頼んだぞ…」
「了解!」
一方、火星政府軍基地ではガンナー小隊が帰還したものの、ノーグの戦死についての情報が彼らから伝えられた。
「先ほど情報が入ったが、ガンナー小隊のノーグ・ケンツが戦死したらしい」
「そうですか……」
部下の一人はやや寂しげな顔をした。
「我々も作戦を考えなくては…」
シャドー隊のリーダーで、“真紅の悪魔”と地球政府軍から呼ばれ恐れられている男、ジン・アルガは溜め息をついた。
「そうですね。ジン大尉」
「アルカディーも協力してくれ」
部下の一人である、アルカディー・ヘンソンはジンのことを見つめた。
「はい、もちろんです」
果たして、その作戦とはどのようなものになるのだろうか。