世界の中心で愛を叫ぶ
昔の彼女からの電話、その電話の一言で主人公の人生が、彼女の人生が大きく変わっていく。
午前三時、俺は高速道路を都内に向かって激走していた..
「ところで、こんな時間に電話してきて、どうした?」
「...」
返事がない。
あの日、突然、彼女が俺の前からいなくなった理由を知っていたけれど、敢えて聞いてみた。
あの時いなくなった本当の理由を、彼女の口から聴きたかった...
「今彼氏は?」
「...」
「あのとき一緒にいた人は?」
「えっ?」
「俺は知ってるよ...」
「大体のことはお店の人から聞いたから...」
「...ごめんなさい」
「別に謝らなくてもいいよ...」
「...」
「でも、あの時は、凄く傷付いた、そして凄く悲しくて、あれだけ約束して、あれだけ愛してるって言ってくれたのに...毎日毎日、君の事を考えない日はなかったんだから...」
あの時の涙と、苦しみ、嫉妬、少しの憎しみと、悲しみ、そして、恋と、愛、全ての感情が入り交じっている感覚の中、俺はその感情を超越する「何か」に自分が心動かされ始めている事に、気が付いていなかった。
「そんな風に思ってくれてたなんて嬉しい...ありがとう」
「別に、お礼なんて...」
「いま、幸せなのか?」
この問いかけの後の彼女からの言葉で、俺の人生が決まる。
「私も、あれから結婚したんだ...」
「!!!??...」
「俺の人生真っ暗闇だ...俺の想像していた答えと違う!」心の中で呟いた...
「結婚って?あの時結婚してたんじゃないの?店の定員...」
「違うよ、あの時はしてない!」
俺からすればあの時も、このときも、男が居れば同じだ!
「そうなんだ、いつ結婚したの?」
「去年...」
「そっか、子供は?」
「一人いる...」
「!!??」
俺の求めた答えは、一つ!
「いない」
これが模範解答です...
今一度、心の中の自分に問いかける。
「今なんか聞こえたか?」
「いや、聞こえないよ...」
「そうだよな、何も聞こえないよな...」
「これは夢か?幻か?」
「夢じゃね!」
じゃあもう一度聞いてみよう...
「子供は一人?女の子?男の子?」
「女の子、一人...」
現実だ...
紛れもない現実...
頬をつねる...
痛い...
予想だにしない答と、昔の心の古傷が重なり、俺の心はズタズタになっていた...
何なんだこの電話は?
もう夜中の2時過ぎだし!
結婚の報告会か??
ふざけるな!!
心の中で叫ぶ!
俺は受話器片手に、自分の部屋の真ん中で、何度も何度も叫んだ、叫び続けた!
ふざけるなーっ!!
...そう言えば昔、「世界の中心で、愛を叫ぶ」
って映画が流行ったのを今、思い出した。
この時代にはまだ公開されていないが、もしかしたら、俺の心の叫びを聞いた作者が、この言葉を参考に、この映画の題名を付けたに違いない。
「俺は自分の部屋の中心で、ふざけるなって叫ぶ!」
売れないな...このタイトルじゃ...
心の叫びも程々に俺は冷静を装い話を続けた。
「女の子かぁ...君に似て可愛いだろうなぁ...」
「似てるわかんないけど可愛いいよ...」
赤ちゃんは誰でも可愛くてあたりまえですよ...
はぁ...早く電話を切ろう...
眠い...
「そっか、可愛くて良かった。」
「旦那さん元気?」
「うん、元気!」
「そっか良かった!」
「明日、俺、朝早いからまた電話してね!」
「わかったまた電話するね!」
「うん、ありがとう!」
「お休みー!」
「お休みなさい!」
...って
終わるはずだった...
そう終わって欲しかった...
「旦那さんは?」
「...今いない」
「夜勤かぁ、大変だねー...」
「なにしてんの、仕事?」
「塗装工...」
「え?俺の仕事と一緒じゃん?」
内心どうでも良かった。
旦那がペンキ屋だろーが、電気屋だろーが、はたまたヤクザでもお巡りさんでも、総理大臣でも、俺には関係なかった...
早く電話を終わらせて、暖かい布団に入りたい..
多少さっきの台本と違うけど仕方ない、早く切り上げよう...
「何時戻るの?」
「...わからない」
「?」
何か嫌な胸騒ぎ...
「どうした?」
聞けば結婚したのは、去年で、あの時から付き合っていた彼氏は、同じ地元の先輩後輩の仲で、出身は東北地方、子供が出来たから、仕方なく籍を入れただけで、式は上げてないとのこと。
そして、今は都内のマンションに従姉妹と、子供と三人で暮らしているとのこと。
子供は5ヶ月...
そして、肝心な旦那様はと言うと...
留置所にいた...
「旦那どこにいるの?どこかの女の所?浮気でもしてるからいないの?」
少し意地悪っぽく聞いた...
「...留置所」
「りゅ...えっーーー!?」
宮川大輔張りに叫んだ!
「えっーーーーーーーーー!!!???」
眠気も覚めた。
「留置所って...!?訳は後で聞くけどこれから生活は出来るのか?つーか出来てるのか?」
「...出来ない、出来ていない...毎日色々辛くて、色々考えていたら、あなたとのあの時の事を色々思い出しちゃって、そしたら凄く貴方の声が聞きたくなって、会いたくなって、それで電話してしまって...」
その言葉を聞いた瞬間に、俺の心のひび割れと、眠気と怒りと嫉妬、その他全ての感情が消えてなくなった。
そこにあったのは「昔彼女に募らせた愛」だけだった。
単純な男だ。
あなたの声が聞きたくなって...って一言言われただけで、何処かの火山が噴火したような熱気を出して、一人で興奮している...
「わかった!そこで待ってろ!今から迎えに行くから、場所教えなさい!」
「でも...」
「でもも、へちまもない、何も言わずに場所だけ教えなさい、今から迎えに行くから!直ぐに行くから!」
「もうどこにも行かせないし、離さない!俺の側にずっといろ!」
「だって子供も...」
「子供も誰でも、君の分身は俺の分身!子供も俺が責任もって育てる!」
その熱意が伝わったのか、彼女は住所を教えた。
東京だった。
俺の今いる場所から車で約二時間、飛ばせば一時間と、少し...よし!
早速、俺は服を着替え、彼女のいる東京方面に向かって車を走らせた...
車は、ニトントラック、荷台には沢山の塗料が乗っかっていた...
純粋な愛を求めて行動する主人公。
それを信じない回りの人間。
主人公の行動力の源は何か、主人公の愛とは、恋とは、思いやりとは何かを、模索していく姿が悲しく映る。