真夜中の電話
突然いなくなった彼女からの電話。
そこから始まる奇跡と試練...
彼女が部屋を出てから何ヵ月経ったのだろう...
何事もなく、毎日仕事場と家を往復するだけの日々が続いていた。
そんなある日の晩にあの電話が鳴った。
「どうしてこの電話番号がわかったの?」
「調べたの...電話帳で...」
「よくわかったね」
「だって、あなたの名前珍しいから...」
「そっか、元気にしてた?」
「俺、あれから凄く君を探して、毎日毎日あの店で君を待って、来日も来日も君と行った店、君と待ち合わせた駅、君と歩いた海に君を探しに行ってたんだよ...」
「...」
俺の心は、嬉しい気持ちと裏腹に、心苦しい歯痒さと、とてつもない切なさと、突然、何も言わずいなくなった彼女に対する怒りで、心臓が破裂しそなくらい鼓動が激しくなっていた。
その事を悟られないように冷静を装い会話を続けた。
「今どこにいるの?」
「何で突然いなくなったの?」
質問攻めだ...
「あの頃本当に君が好きで、抱きしめて抱きしめて、抱き締め続けても、全然足りなくて、手を繋ぐ、髪に触れる、瞳を見つめる、唇を重ね、言葉を交わす、そんな毎日を君と過ごしたくて、君とずっと一緒だと思って、君もずっと一緒だと言ってくれたのに...」
「なんで、どうしていなくなったの...」
受話器の向こう側の答えは
「ごめんなさい...」
と一言。
でも俺は、彼女が消えた理由を知っていた。
あのとき彼女がいなくなってすぐ店の店員に聞いてみた。
「すいませーん??」
「あのー、この前までここにいた、女の人はお休みですか?」
従業員が答える。
「あれ?田中さんの事かな?」
「はい」
「彼女辞めたよ!」
「えっ!!
や、辞めたって...
休みではなく、辞めた!?」
「そう、一週間位前かなぁ」
一週間前って...
予想外の答えに少し戸惑った。
彼女は俺とのデートを最後に姿を消していた。
「そうですかぁ...どこ行ったか知りませんか?」
するとその従業員がこういった。
「旦那さんと田舎に帰るっていって辞めていったよ。」
「???」
はぁ!??
はぁああ???
はああああーっ!!!???
「だ...」
俺の頭の中は大パニック!!
あの日の笑顔!あの日の微笑み!あの日の口づけ!あの日の声!あの日の、あの日の!あの日の色々ーっっっっ!!!
あれはなんだったのか!!!???
あれは、あのときの、あれは!!??あれは!!!???
その言葉の意味を理解するまで俺は、テレビアニメ「あしたのジョー」の主人公、矢吹丈がボクシングの世界王者「ホセメンドウサ」と闘い、最終ラウンドで主人公、矢吹丈が燃え尽きて真っ白になったように、俺も1人公園のベンチで真っ白になっていた...
こう表現すると、俺の気持ちの本気度が余り伝わらないかも知れないが、長い年月の経った今だからこそ面白おかしく書けるのかも知れない。
当時は、毎晩枕を濡らし、信じぬ神に祈り、来るはずのない駅であの瞳を待ち続け、日々あの子を探していた。
そして、心の中に穴が空いたまま誰かを愛そうとし、その誰かに心の隙間の穴を埋めようと、必死にもがき苦しむ俺がいた...
愛すると事がこんなに辛くなるとは思わない主人公と、愛されたいと願う一人の女性。何のための出会いなのか、それぞれの思いが伝わったときに幸せが訪れる事を願う...