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第九十二話「新生ビクトレンジャー改、帰還」

 ……ヴーン……。


 バイタルシーケンス、正常。

 各部ユニット出力、正常。

 外部ネットワーク、接続完了。


 起動します。起動します。起動します。



 男が目を覚ますと、見知らぬ天井が目に入った。

 彼が怪人の爆破テロに巻き込まれ、全身60箇所の骨折を負ったのは1ヶ月以上も前の話だ。

 その上無理して戦いに(おもむ)いた彼は、瀕死の重傷を負って長い間眠り続けていたのだ。



「なんだか頭がボンヤリしやがるぜ……」



 長期昏睡状態に(おちい)ると目覚めた際に記憶の混濁があったり、幻覚を見ることがあるという。

 男の視界にもなにやらよくわからない数字や、英語の羅列といった幻覚がはっきりと見えていた。


「……ったく、今度はいったい何日ぐらい眠っていたんだぜ……?」


 ゆっくりと身体を起こしつつ、彼は己の身体に起こっている異変に気づいた。

 全身の骨がバッキバキに折れたはずなのに、身体が妙に軽いのだ。


 辺りを見回してみても、そもそもここは病室ではないように思える。

 周囲を彩るのは白いカーテンや花瓶ではなく、無機質なコンクリート打ちの壁と、床を這う無数の配線である。


「あら、お目覚めかしら? やったわ、成功ね」


 不意に聞き覚えのある女の声が、男の耳朶(じだ)を打つ。

 厚い化粧とピンクのシャツ……ビクトピンクこと桃島(ももしま)るるであった。


「おいピンク、ここはいったいどこなんだぜ……?」

「あらブルー、あなたも一度来たことがあるでしょう? ここは私の個人ラボ。あなたの“ジェットカッターマグナム”もここで作られたのよ?」

「ああ、そうだったっけ……なんだか記憶がはっきりしないぜ……」


 ブルーこと藍川(あいかわ)ジョニーはぼやけた頭を軽く振ると、手で額を押さえた。


 ガイーンという金属音が、部屋とジョニーの脳に響く。


「…………は?」


 彼が己の手のひらに目を落とすと、そこには鋼鉄の装甲に包まれた両手があった。


 両手だけではない、腕も、脚も、腹も背中も胸も肩も頭も大事なところまでも。

 再起不能なまでに破壊されたブルーの全身は、今やそのほとんどが鋼鉄の機械(メカ)に置き換わっていた。


 ビクトブルー・藍川ジョニーは、サイボーグヒーローとして生まれ変わったのである!



「冗談キツいぜ!! ちょっと待つんだぜ! ピンクてめぇ、なんなんだぜこれはよォ!?」

「ふふふ……これもすべて、天におわしますデスモス・アガッピ・アグリオパッパ様のお告げよ……。あなたにも絆と愛の祝福がありますように」


 そう言うとピンクはブルーの全身に、100グラム8,000円で販売されている清めの白い砂を振りかけた。

 そして手で三角形を作ると、左右に身体を揺らしながらオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛と壊れた換気扇のような声をあげる。


 ピンクの目は瞳孔が完全に開いており、焦点が定まっていなかった。

 どうやら精神崩壊を起こした後、危険な新興宗教に没頭してしまったらしい。


「おい砂かけ宗教ババア! 俺の身体になにしてくれてやがるんだぜ!!」

「大丈夫よ、ブルー。正義はあなたの力を求めているのよ。ガンジャンホーラム、ガンジャンホーラム」


 ピンクが自分の頭に怪しいアンテナを乗せた、そのときである。

 意味のわからない呪文を唱え続けるピンクの背後で、巨大な影が立ち上がった。


 ブルーは思わずベッドを蹴り上げ、ファイティングポーズを取る。


「おいピンク! 後ろにいるでかい化け物はなんだぜ!? あれもお前の仕業か!」

「大きい声を出さないでよブルー。ほら、イエローが怯えちゃってるじゃない」

「イエロー……? ソレは黄王丸(きおうまる)なのぜーーーッ!?」


 巨体の身長は、ゆうに3メートルはあるだろう。

 岩のような身体は、その腕周りだけで冷蔵庫ぐらいのサイズ感を誇る。

 筋肉ダルマ……いや、筋肉の城とでも言うべきその姿は、もはや人間よりも怪人に近かった。


「……ゴワス」

「ずいぶん()せ細ってたからね、このままだとイエロー死んじゃうと思ったのよね。それでご禁制のカレーを毎日投与したら、なんかこうなったのよ」

「ピンクゥ! てめぇの血は赤でもピンクでもねぇ! 死神と同じ色をしていやがるぜ!」


 全身サイボーグ化されたブルーはまだマシなほうであった。


 発達しすぎた僧帽筋(そうぼうきん)に顔が半分ぐらい埋まりつつあるイエローに対し、ブルーはおそるおそる声をかける。


「おいイエロー、お前なんだってこんなことになっちまったんだぜ……?」

「……ゴワスぅ?」

「ダメよブルー。いまのイエローに“カレー”以外の言葉は通じないわ」

「言語中枢やられてるじゃねーか! もはや気の毒すぎてなにも言えねーぜ!!」




 ………………。


 …………。


 ……。




 翌日、新生ビクトレンジャーは、阿佐ヶ谷の仮設ヒーロー本部に集められていた。


 昏睡状態に陥っている間に、全身をサイボーグ化されてしまったブルー。

 特製カレードーピングにより筋肉の重戦車と化し、言語機能を完全に失ったイエロー。

 新興宗教“光臨正法(こうりんせいほう)友人会(ゆうじんかい)”で、デスモス・アガッピ・アグリオパッパ様を信奉するピンク。


 正義の名のもとに集められた彼らこそ、新生・勝利戦隊ビクトレンジャー改である。


「まるで汚いア●ンジャーズだぜ……」

「……ゴワス」

「ガンジャンホーラム、ガンジャンホーラム」


 そもそも退職届を出していたはずだが、トチ狂ったピンクの手によって握りつぶされていたことを、ブルーは今朝知った。


「ビクトレンジャーの皆さん、よく集まってくださいましたわ! (わたくし)がヒーロー本部の頭脳。高貴で美しくかつ優秀な、参謀本部長の小諸戸(こもろど)歌子(うたこ)ですわ!」


 派手な女はやけに自己評価の高い自己紹介をすると、まるで自分はこのヒーロー本部の王であるかのように平坦な胸をドーンと張った。

 唯一の頼みの綱である鮫島(さめじま)朝霞(あさか)司令官は、その隣でなにも言わずに静かに目を閉じている。


「ンフフフフ、あまりの格の違いに声も出ないようですわね! それでは左遷(トバ)されたレッドさんと死んじゃったグリーンさんに代わる、新しいお仲間をご紹介いたしますわ!」


 ブルーの電子制御された脳裏を、とても嫌な予感が駆け巡った。

 前回の(まゆずみ)桐華(きりか)みたいなことになっては、たまったものではない。


 いやむしろ、この半端なく胡散臭い女が紹介する時点で、ロクなヤツではない気がする。



「頼むぜ、無難なやつだぜ……無難で普通のやつ来い……! もう話が通じるヤツなら誰だっていいぜ……!」



 ブルーは一心不乱に神に祈ったが、廊下から陽気なラテン系ミュージックが聞こえてきた時点で祈るのをやめた。


 バンと開かれた秘密基地の扉の向こうから、米海兵隊のようなゴリゴリのマッチョが姿を現す。


 鍛え抜かれたムッキムキのボディーに、パッツンパッツンの赤いシャツを羽織る白人男性。

 そしてもうひとりは巨大なラジカセを抱えた、ドレッドヘアの黒人男性であった。


赤城(あかぎ)ウィリアムだ。俺に信頼されたかったら、トリプルチーズバーガーとダイエットコークを用意しろ。話はそれからだ」

「AH……AH……俺は草薙(くさなぎ)タムラマロ。YOUがジョニー藍川か。YO! YO! COOLなBODYだ嫌いじゃないぜッ! 仲良くやろうぜAtoZ(えーとぅぜッ)! YEAH!」


 ブルーこと藍川ジョニーは死んだ目で、(いん)を踏む新グリーンと拳をゴツンと突き合わせた。


 なぜこいつは、初対面の相手の前でガムを噛み続けているのだろうか。

 そして新レッドが手でもてあそんでいる拳銃と手榴弾は本物なのだろうか。


 いろんな疑問が、ブルーの頭の中でグルグルと回る。


「ご紹介しますわ。網走(あばしり)支部から呼び寄せた、ウィルとラマーのビクトリー兄弟ですわ!」

「……冗談キツいぜ!!」


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