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第七十七話「ザコ戦闘員たちのララバイ」

 守國(もりくに)一鉄(いってつ)、またの名をアカジャスティス。

 東日本のヒーローたちを統べるにふさわしい、ただひとりの男である。


 朝日に照らされた彼のマスクは、色あせながらも赤く正義の色に輝いていた。


「たかが1,000人と言ったかお嬢ちゃん。言っておくが俺はひとりで10万人(ぶん)だぞ」

「守國長官……さすがに老いてるんじゃないですか? 拳が軽いですよ」

「もちろん手加減したんだ。これでも可愛い“若輩(じゃくはい)”を手にかけるのは心苦しいからな」

「そうは見えませんけど……ねぇっ!!」


 守國は桐華の尻尾攻撃を難なく受け止めると、すぐさまパンチを繰り出す。


 ゴウッ!! という風を裂く轟音。

 怪人の強靭な肉体さえいともたやすく破砕する、アカジャスティスの必殺技“アカパンチ”である。


 同じ一撃必殺を誇るビクトレッドのバーニングヒートグローブが、このアカパンチをモチーフに開発された兵装であることからもわかる通り。

 “当たれば死”――極めてシンプルでありながら、その脅威は誰かを背に守りながら戦えるほど易いものではない。


「センパイ、ふたつお願いがあります。聞いてくれますか?」

「なんだ黛、欲張りセットか? 今の俺はピンチすぎてクッソ機嫌がいいから、なんでも聞いてあげちゃうぞチクショウ」

「ではサメっちさんを連れて逃げてください、今すぐに」

「おい、まさか……あの爺さんとひとりでやりあうつもりか?」


 桐華はバッと翼を広げると、両手の鋭い爪を構えた。

 それは守國――アカジャスティスと“タイマンを張る”という意思表明であった。


「キリカ無茶ッス! 巨大化したサメっちたちが20人がかりでも勝てなかったんッスよ!」

「百も承知です。だからもし生きて帰れたら……センパイ、私のもうひとつのお願いを聞いてください」

「俺の経済力が許す範囲で頼むぞ。マンション買ってくれとかは無理だからな」

「南極の続きをさせてください」


 林太郎の脳内にひしめいていた、ありとあらゆる想定が吹き飛ばされた。

 南極の続き? 南極のってなに? どれのこと? アレのこと?


 桐華はうるんだ瞳で、背後の林太郎を流し見る。


 生命の危機に(ひん)した生物は種を残そうと必死になるというが。

 この桐華の眼光にはそれ以上のなにかがあるような気がしてならない。


「ダメ……ですか?」

「わ、わかったからそんな目で見るな! そのかわり絶対に生きて帰れよ」

「お任せください。これでもセンパイ以外には、一度も負けたことないんですよ」


 桐華改め暗黒怪人ドラキリカは、放たれた矢のように最古のヒーロー・アカジャスティスへと突っ込んでいった。




 …………。




 桐華と守國による死闘のゴングが鳴らされる中、林太郎とサメっちは必然的に残りのヒーローたちと向かい合っていた。


「ああは言ったけど、俺がこいつら全員相手にしろってこと? それはちょっと非現実的だと思うんだよねえ」

「ここここここはサメっちが、アニアニアニキを守るッススススス!!」

「ビビるなよサメっち。こっちがビビッてるってバレたら連中一斉に襲ってくるぞ」


 林太郎の読み通り、ヒーローたちは1,000人という数の利を誇りながらも慎重であった。

 すでにその一割近くが、デスグリーン&ドラキリカの犠牲になったというのもある。


 だがなによりロボ8体およびチームにして30チーム以上を(ほうむ)ったという、悪名通りの実力を誇る極悪怪人デスグリーンを警戒しているのだ。



 しかしそんなヒーローたちの中から、彼らが先陣を切った。



深淵(アビス)に咲く真紅の薔薇(ばら)! ロミオロッソ!!」

静謐(せいひつ)なる闇の水面(みなも)! ロミオブル!!」

「悪魔(ささや)く至上の愉悦(ゆえつ)! ロミオジャッロ!!」

「死へと(いざな)蠱惑(こわく)の幻想! ロミオヴィオーラ!!」

「光に見放されし戒律(かいりつ)! ロミオビャンコ!!」

「正義は敗れ幾星霜(いくせいそう)……闇の(ふち)より(よみがえ)りし魔界のプリンス……」

「「「「「ウィーアー! ダークロミオファイブ!!」」」」」


 彼らはかつて極悪怪人デスグリーンによって、強制的に悪事に手を染めさせられた挙句爆破されたはずの煌輝(きらめき)戦隊ロミオファイブであった!

 五人の若き獅子たちは敗北を喫したその日から、血のにじむような特訓を重ね真煌輝(しんきらめき)戦隊ダークロミオファイブとして覚醒したのだ!


 滝に打たれ、読経をし、毎朝30キロのランニングと、ささやかな食事!

 システムエンジニア、マンガ家のアシスタント、外食チェーンのホールを兼業し、自己啓発セミナーを7つハシゴした結果、完全なる闇の力に目覚めたのであった!


「極悪怪人デスグリーン……覚悟しろ……ッ! 秘剣ロミオスパーダ!!」

「くそっ! なにがロミオだ、シェイクスピアはイングランドだろ! なんでロミオの下に付いてるのが片っ端からイタリア語なんだよ!」

「黙れッ! 貴様の言葉にはもう惑わされんぞッ!」


 ダークロミオファイブの五つの刃が林太郎に迫る。

 彼らの言葉はまんざら妄言というわけでもなく、抜群の連携はデスグリーンにも引けを取らないほどであった。


「どうしたどうしたァ! 俺たちの復讐(ヴェンデッタ)はこれからだぜぇ!」

女神(デーア)に抱かれて楽園(パラッティーゾ)に逝っちまいなあ!」

「だから全部イタリア語じゃねーか!!」


 ダークロミオファイブに触発され、慎重になっていたヒーローたちが手に手に武器を構え直す。

 彼らの活躍はその実力以上に、恐慌状態に陥りつつあったヒーローたちを奮起させた。


 ヒーローたちの士気復活は、制限時間のある林太郎にとってなんとしても避けたい事態であった。


「よそ(ヴェデーレ)してんじゃねえ!」

「ああもう鬱陶しい!!」


 ふざけた相手とは裏腹に、状況は逼迫していた。



 ――まさにそのときである。


 羽田の海上から大きな声が響いた。




「総員上陸準備ーーーーーッッッ!!!!」




 海岸沿いにいたヒーローたちが思わず目を見張る。


 東京湾を滑るように移動しながら、羽田空港に向かって真っすぐ突っ込んでくる船、船、船。

 羽田の沿岸を覆いつくすのは、あわせて30艘にも及ぶ“揚陸艇(ようりくてい)”である。


 それは羽田空港の異変を察知したウサニー大佐ちゃんによって、緊急招集されたアークドミニオンの援軍であった。


「林太郎ーーーッ! サメっちーーーッ! ……ヒィッ!?」


 指揮艇から手を振っていた湊は、海岸沿いにずらりと並ぶヒーローたちを見るなりナイフをバラまきながら船倉へと逃げ込んだ。



「上陸ーーーーーッ!」



 ウサニー大佐ちゃんの号令で、揚陸艇から羽田空港の敷地に向かって次々と橋がかけられた。

 橋の上を黒いタイツの集団が、ブーツの足音をいななかせながら駆ける。


「上がれ上がれーーーッ!!」

「「「ウィーーーッ!!」」」


 テトラポットを乗り越えて、真っ黒なタイツの集団が次々と羽田空港の敷地内に侵入を果たした。

 ウサニー大佐ちゃんに率いられた怪人軍団の数、およそ100人!


 しかし――。



「はっ! なにかと思えばザコばっかりじゃないか!」

「なんだよ! 驚いて損したぜ!」


 そう、援軍として現れたのはみんなザコ戦闘員であった。

 ヒーローひとりに20人がかりでも負ける、あのザコ戦闘員たちである。


「「「ウィーーーッ!!」」」

「うるせぇ! ザコはひっこんでろ!!」


 乱暴に放たれた銃弾を、軍用ブーツが蹴り落とした。

 教導軍団長の腕章をキラリと光らせたウサミミ軍服女子は、そんなもの意に介する様子もなくザコ戦闘員たちに対して声を荒げる。


「喜べブタども! ヒーロー本部の“ザコ以下のクソザコども”がはやくも実戦の機会を与えてくださった!」

「「「ウィーーーッ!!」」」

「親愛なる甘ったれのヒヨっ子どもよ! これまで厳しい訓練によく耐えた! 本日をもって、貴様らはゴミムシを卒業する!」

「「「ウィーーーーーッッッ!!!!」」」


 ウサニー大佐ちゃんに(あお)られたヒーローたちが、憤りをあらわにする。


「ザコ以下だとぉ……!? いきがりやがって! 力の差を教えてやる!」

「そうだそうだ! こっちは1,000人もいるんだぞ! 援軍なんて想定済みだ!!」


 手に手に武器を持ったヒーローたちの一部が、ザコ戦闘員とウサニー大佐ちゃんに向かって駆け出した。


 だがウサニー大佐ちゃんの眼は、もはやヒーローを相手にする怪人のそれではない。

 まるでそう、屠畜場(とちくじょう)の檻に入れられたブタを見るような(さげす)みの目であった。


「総員、戦闘を許可する!!」


 ウサニー大佐ちゃんの号令とともに、戦闘員たちが手のひらサイズの機械(ガジェット)を一斉に構える。

 彼らの手には一様に、(ブイ)のエンブレムが輝いていた。



「「「ビクトウィーチェンジ!!」」」



 困惑するヒーローたちの目の前で、黒いタイツの集団が赤い光に包まれた。

 光が収束するのと同時に、ヒーローたちの顔が困惑から驚愕へと変わる。



「「「悪がはびこる赤き光、量産型ビクトレッド! 参上ウィーッ!!」」」



 若干デザインや体型にバラツキはあるものの。

 その姿はまさしくビクトレッドそのものであった。


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