表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/231

第四十七話「死闘! 大怪人VSエースヒーロー」

 燃える診療所をバックに、ふたりのヒーローと2体の怪人が対峙していた。


 勝利戦隊ビクトレンジャーのリーダー・ビクトレッド。

 アークドミニオンの最強戦力・百獣将軍ベアリオン。

 史上最強のヒーロー・ビクトブラック。

 そして史上最凶のヴィラン・極悪怪人デスグリーン。


 いずれも劣らぬ猛者(もさ)中の猛者である。


 その中でも一際激しく闘志を放つのが、ビクトブラック・(まゆずみ)桐華(きりか)であった。

 流れるような銀髪が、全身から湧き立つ凄まじい怒気(どき)によってざわつく。


「極悪怪人デスグリーン……、センパイの……(かたき)……ッ!!」

「あれま、ラブコールだ。それじゃそっちの赤いのは頼みましたよベアリオン将軍」


 林太郎にとっては、後輩との久々の再会である。

 無論、桐華はデスグリーンの正体が林太郎本人であることなど知る(よし)もない。

 いまは敵対する立場であることに加え、桐華からはデスグリーンに異常なほどのヘイトが向けられていた。


「絶対に許さない……生きたままバラバラに斬り刻んでやる……」

「そんなに怒ったらキレイな顔が台無しだぞ」

「センパイの顔で……センパイの声でそんなことを言うなッッッ!!」

「会話ができるような状態じゃないってか。仕方ねえ、ビクトリーチェンジ!」


 緑の光が林太郎の全身を包む。

 竜を模したマスク、有機感あふれるヨロイ、毒々しい深緑(しんりょく)のマント。

 この姿こそ異形(いぎょう)の戦士、極悪怪人デスグリーンの完全体である。


「どうした、お前は変身しないのか」

「スーツなんか必要ありません。たとえ腕の一本や二本もがれようが、その首を落とすことさえできれば、それでいいんですから」

「本気で言ってんのかよ。とんだ狂戦士(バーサーカー)じゃねえか」


 そう、対する桐華はウサニー大佐ちゃんの電撃ビリビリムチによって、ビクトリースーツを剥ぎ取られている。

 さしもの最強ヒーローといえども、さすがに生身では勝算が無いかと思われた。



 ――しかし――。



「いまです! 狙撃班(そげきはん)!」

「うおぉぉマジでかッ!?」


 林太郎が慌てて身を(ひるがえ)すと、マントに大きな穴が開いた。

 直後に地面がえぐれ、衝撃とともにズドンッと腹に響くような銃声が(とどろ)く。


「この音と威力……対物(たいぶつ)ライフルってのは考えたな」

「ご明察です。意外と耳がいいんですね」

「聴き慣れた音なもんでね」

「ではその耳も()ぎ落してさしあげますよ」


 500メートルほど離れた位置にそびえる高層ビル。

 地方都市にありがちないわゆる成金(なりきん)マンションは、絶好の狙撃ポイントであった。


 その屋上ではビクトレンジャー司令官の鮫島(さめじま)朝霞(あさか)が観測手を(したが)え、自らデスグリーンに狙いを定めている。


「はずれ、左に15センチそれました」

「構いません。私たちの目的はあくまでもデスグリーンの動きを抑制することです。次弾装填、発射」

「はずれ、命中コースでしたが()けられました」


 朝霞が一回引き金を引くごとに、大気がビリビリと震えた。


 扱う得物は研究開発室が生み出した特製の対怪人狙撃銃だ。

 その威力は絶大であり戦車の装甲に穴をあけるほどである。


 強靭(きょうじん)な怪人の肉体だろうが、防弾防刃性に優れるヒーロースーツだろうが、直撃すればその部分は消し飛ぶだろう。


 狙撃により林太郎が体勢を崩したところに“クロアゲハ”の斬撃が迫る。

 林太郎は“ニンジャポイズンソード”で凶刃(きょうじん)をいなすと、体操選手のように体をひねって桐華から距離を取った。


 かつて初代ヒーロージャスティスファイブの切り込み隊長、アオジャスティスによって数々の大怪人たちを(ほうむ)り去ったというヒーロー剣術・無月(むげつ)一刀流(いっとうりゅう)

 若くして免許皆伝(めんきょかいでん)の腕前を持つ桐華相手に、近接戦闘は不利である。


 しかし距離を取った瞬間、今度はライフルの狙撃にさらされる。


「……ちっ、やりにくいな」

「“強敵に挑むときは、まず自分にとって有利な環境に持ち込め”」


 桐華はかつて林太郎から教わった言葉を呪文のように口にした。

 その教えの全てを駆使して、必ずや(かたき)を討ち果たすのだという強い決意を胸に(いだ)いて。


「無月一刀流、深山鴉(みやまからす)!」

「ぐえっ! いってぇーーーっ!!」


 林太郎はここにきて初めて、桐華の攻撃を弾き損ねた。

 (いな)、弾いたつもりだったのだが、実際には別の角度から手痛い一撃を貰ったのだ。


 達人どうしの剣戟(けんげき)殺気(さっき)の読み合いだ。


 殺気によって放たれる偽物の剣筋(フェイント)と、殺気を消した本物の剣筋(けんすじ)を同時に放つことで、相手の守りをすりぬける。

 これこそが無月一刀流が誇るガード不能の必殺剣技(けんぎ)深山鴉(みやまからす)なのだ。


「“必殺技は出し惜しまず、初手から仕留めるつもりでいけ”」


 スーツの防刃性のおかげで深手は(まぬが)れた林太郎だが、これを何度も受けて立っていられる保証はない。

 さらに驚くべきは、いくら狙撃で阻害を受けているとはいえ、デスグリーンスーツをまとった林太郎に生身で競り合う桐華の身体能力であろう。


 林太郎も当然あらゆる策を用意してきていたのだが、こうも肉薄(にくはく)されては対応するだけで精いっぱいである。


「“相手に手札を切る隙を与えてはいけない”」

「こりゃあ、思ってたより……本格的にヤバいぞ……!」


 マスクに覆われた林太郎の(ほほ)を、汗がひとすじ流れ落ちた。




 …………。




 いっぽう、ビクトレッドこと暮内(くれない)烈人(れっと)とベアリオン将軍の戦いは決着を迎えようとしていた。


「くそっ! 俺のバーニングヒートグローブが通用しないなんて!」

「オレサマはあ、そんじょそこらのやわな怪人とは鍛えかたが違うんだよお!」


 烈人のバーニングヒートグローブは、拳が直撃した相手を内部から焼き尽くし、噴き出した火柱(ひばしら)で相手を包み込むチート武器である。

 だがベアリオンはその“体の内側から焼き尽くす炎”を、肉体の内部……すなわち筋肉のパワーで抑え込んでいた。


 ただでさえ無類の頑丈さを誇る怪人の肉体である。

 それを刀鍛冶(かたなかじ)のごとく徹底して鍛え上げたベアリオンの肉体は、まさに動く鋼鉄の城塞であった。


 ベアリオンは凄まじい筋肉の圧力によって、烈人からの攻撃を受けると同時に内部に灯った炎を握り潰しているのだ。


 他の相手ならいざ知らず、ことこのベアリオンの肉体に関してだけはバーニングヒートグローブが通用しないのである。

 ベアリオンの巨大な拳のラッシュが、洪水(こうずい)のように烈人を襲う。


「オラオラァッ! こねえならこっちから行くぜえ!!」

「ぐっ……このままでは押し切られる……っ!」


 ベアリオンの戦いかたは、ガードも回避もしないスーパーウルトラストロングスタイルである。

 鍛え上げられた鋼の筋肉でもってあらゆる攻撃を真正面から受け止め、絶大なパワーでもって真正面から叩き潰す。


 きわめてシンプルでありながら、“(ちから)”で戦う相手には無敵の強さを誇る。

 烈人のような拳で戦うしか能のない前線担当にとっては、まさに天敵なのであった。



 ――しかし――。



「ウオォォォ!? なんだこりゃあ!?」


 先ほどまで烈人を正確に捉えていたベアリオンの拳が、突然(くう)を切る。

 ベアリオンの視界はぐにゃぐにゃと(ゆが)み、鋼の肉体から力が抜けていく。


「やっと効いてきたみたいだな!」

「ちくしょうがあッ! こりゃあいったい、どうなってやがるんだあッ!?」




 …………。




 少し離れたところでは、サメっちがウサニー大佐ちゃんを介抱していた。


「くっ、不甲斐(ふがい)ない……」

「ウサニー大佐ちゃん、しっかりするッス!」

「うぅ……伝えねば……! このままだと、あのふたりは負ける……!」


 ウサニー大佐ちゃんの視界もまた、ベアリオンを同じようにぐにゃぐにゃと歪んでいた。


「これは、毒だ……! あの刀には、毒が仕込まれていたんだ……!」


 そう、桐華が振るう黒い日本刀“クロアゲハ”にはたっぷりと毒が塗られていたのだった。


 それも林太郎がよく使う、即効性があるものの数時間で効果が切れる神経毒(しんけいどく)ではない。

 じわじわと視界と体力を奪い、最終的には相手を死に至らしめる猛毒である。


 防刃性に優れたヒーロースーツをまとうデスグリーンには効果がないものの。

 基本的に生身で戦う怪人に対し、毒はきわめて有効な手段なのであった。


 そして怪人特有の強靭な肉体を過信したウサニー大佐ちゃんとベアリオンは、すでにクロアゲハの一撃を浴びていた。


 サメっちとウサニー大佐ちゃんが見守るなか、烈人と対峙するベアリオンの動きは明らかに(にぶ)っていった。

 たよりの林太郎も、桐華の猛攻に押されて防戦一方である。


「はわわわわ……えらいこっちゃッス! アニキとオジキが死んじゃうッスぅ!」

「……私の“フルパワードロップ蹴兎(シュート)”でどちらかの首をへし折りさえすれば……うっ、目が回る……」


 絶大な威力を誇るウサニー大佐ちゃんの必殺キックも、視界が定まらなければ当てることすらままならない。

 むしろ今の状態で(はな)とうものなら、下手をすると仲間に命中しかねなかった。


「それならサメっちが助けに入るッス!」

「待てサメっち二等兵(にとうへい)、貴様では足手(あしで)まといにしかならん!」


 ウサニー大佐ちゃんの言う通り、サメっちが加勢に入ったところで、相手はデスグリーンやベアリオンと渡り合うほどのエースヒーローたちだ。

 サメっちが突っ込んでいったところで、一発退場して状況をさらに悪化させかねない。



「くっ……せめて、あの狙撃さえどうにかなれば……!」



 ウサニー大佐ちゃんが指をさす先には高層ビルが建っていた。

 その屋上からは林太郎に向けて、断続的に狙撃が行われている。


 しかし高層ビルまでは目算でも500メートル以上の距離があった。

 いまから走って向かったところで、屋上へとたどり着く前にこちら側の決着がついてしまうだろう。



 ――この距離と高さを一瞬で埋める方法さえあれば――。



 そのときサメっちの脳裏に電流が走り、頭の中の小さな豆電球に光がともった。


「サメっちひらめいたッス!」

「えっ、ちょっ、待っ! やめっ……!」


 起死回生の“でかい一発”をお見舞いすべく。

 サメっちはウサニー大佐ちゃんの身体(からだ)を押し倒した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
表紙
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ