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第百七十一話「対超巨大ロボ緊急会議」

「それではゲストの方に登場していただきましょう! ビクトレッドさんです、どうぞーッ!」

「「「わーわーッ! きゃーきゃーッ!」」」


 黄色い歓声に迎えられ檀上に立った烈人は、7台ものテレビカメラを向けられぎこちなくはにかんだ。

 烈人はカメラに向かって敬礼しながら、朝霞に叩き込まれたセリフを一字一句間違えないようそらんじる。


「怪人の脅威から国民の平和と安全を守るのが、我々ヒーロー本部の職務です!」

「はいカァーット! うーん、見栄えがいまいちだなー。ちょっと顎引いてもらって、ハキハキした感じでもう一回やってもらってもいいですかー?」

「怪人の脅威から! 国民の平和と安全を守るのが! 我々ヒーロー本部の職務ですッ!!」

「はいカァーーーット! うーん、なんだかちょっとあざといかなー。もうちょい眉をキリッてできますー?」

「怪人のォーー! 脅威からァーーッ!!」



 収録が終わり楽屋に戻るなり、烈人は積まれた座布団の上に倒れ伏した。

 そしてつくづく思う、慣れない仕事などするものではないと。


「お疲れさまでした。次は15時からMetube(ミーチューブ)の収録です。その後17時から広報用CMとPVの撮影、20時からは後援会の皆さんとの食事会です」

「……ねえ、朝霞さん……」

「朝霞Pと呼んでください」

「……朝霞P……これは本当にヒーローとして必要なことなんですか……?」


 ヒーロー本部からの命令とはいえ、このところ烈人は様々なメディアに出ずっぱりである。

 新規隊員の募集イベントや、ファンとの握手会、果ては身体を張ったバラエティ番組まで。


 ここ数日、烈人と朝霞はヒーロー本部の広報として極めて多忙な日々を送っていた。


「わあああッ! もう我慢できないよ朝霞さん! 俺はアイドルじゃなくてヒーローなんだーーーッ!」

「朝霞Pと呼んでください」

「それはもういいよ朝霞さん! どうして本部は、俺を現場から遠ざけるようなことばっかりするんですか!?」

「風見長官直々のお達しです。宣伝活動もヒーローとして重要な仕事の一つです」


 朝霞は不平を漏らす烈人に、きっぱりとそう言い切った。


 ヒーロー本部は怪人という神出鬼没の脅威に対する備えを担う特性上、国家公安員会の中でも極めて特殊な組織だ。

 煌輝(きらめき)戦隊ロミオファイブのように、外部民間委託契約を結ぶケースも珍しいことではない。


 それらヒーローチームの活動には、税金や善意の寄付金が使われている。

 しかし庁舎の警備状況からもわかる通り、けして資金が潤沢であるとはいえない。


 ゆえに国民に活動への理解を求め支持を集める努力は、遠回りではあるもののヒーロー本部の戦力強化に繋がるのだ。

 ……と、烈人は風見長官からそのように説明を受けていた。



 烈人とてその構造は理解しているつもりだ。

 だが、理解することと納得することは別である。


「……朝霞さん。俺はアカジャスティスやシルバーゼロみたいな、弱い者たちを守れる強いヒーローになりたいんです! 勲章で飾り付けられた英雄になりたいわけじゃない!」


 楽屋に烈人の、嘘偽りのない慟哭が響く。

 しばしの沈黙のあと、朝霞が口を開いた。


「…………15時からの収録に遅れます。早く着替えてください」


 メガネをクイと上げると、朝霞はそれだけを言って楽屋を出ていった。




 …………。




 同時刻、タガデンタワーの最上階。

 会長室の隣に設けられたモニタールームでは、アークドミニオンの幹部たちが頭を突き合わせていた。


「はぁーーー、いかんのう。何度シミュレートしてもこちらが全滅しよるわい」

「むむむ……タガラックよ、もう一度やってみるのでる。配置をこう変えて……」


 10メートル四方ほどもある大きなテーブルには、神保町一帯の精巧な模型が設置されている。

 その中心に立っているのは、超巨大ロボ……と書かれた紙をおなかに張り付けたサメっちであった。


 超巨大ロボに扮したサメっちは、目の前にずらりと並べられたぬいぐるみたちを次々と蹴り飛ばしていく。


「ガオーッス!」

「む、いかん。百獣軍団が10秒で壊滅したのである」

「おい待ってくれドラギウスのオジキよお! オレサマたちなら根性で1分はもたせるぜえ!? おいサメっちい、ちょっとは手加減しろよお!」

「ヒーロー連中も手加減してくれりゃいいんですけどね」


 対超巨大ロボ戦のシミュレーションは、かれこれ3時間以上続いている。

 しかし林太郎をはじめとするアークドミニオン首脳陣は、未だ有効な手立てを練り切れずにいた。


「やはりコックピットに直接乗り込むしかないんじゃないですかね……」

「いや、超巨大ロボ自体に兵を配置するスペースや銃座が多数設けられておる。つまりこいつはただのロボではなく、動く巨大な城塞なのじゃ。白兵戦は分が悪かろう」

「じゃあいっそ相手の動力が切れるまで逃げ回るってのはどうですか?」

「そいつは厳しいぜえ。この体格差で逃げおおせるのは、百獣軍団でもウサニーかチータイガーぐらいのもんだ。仮にそいつらを投入したとして、巨大化の効果が先に切れちまったら打つ手がねえ」


 圧倒的な体格差の前では、正面から戦力をぶつけても玉砕が関の山だ。

 しかし搦手(からめて)を攻めるにしても隙がない。


 大きいことは正義と言うが、読んで字の如くまさにその通りである。


「未知への探求こそ人の真理にして根源的な欲求なれば、遥かなる文明は常に挑戦の先にこそ光明を見出すものなり。我らが祖は山野(さんや)を駆け、砂漠を渡り、星々を結び給うた。今また新たに、暁に()む水平線へと勇者は漕ぎ出でん」

「ザゾーマ様は『より巨大化できる薬を開発するのはどうか』と仰っています」

「おいおいそいつは体への負担がでかすぎるぜえ。ほとんど捨て身じゃねえかあ」

「ほほほ、それは致し方ございませんね。野生動物は元来臆病と言いますし」

「んだとてめえゴラア!!」



 会議が長引き、みんなピリピリしていた。



 同サイズであればまだ勝機はある、というのは林太郎も考えたことだ。

 しかし考えることはできても、実行可能かつ仲間に犠牲を強いない手段を見つけるのは容易なことではない。


 特に生身の怪人を標準以上に巨大化させる案には無理があるだろう。

 ならばと林太郎の頭に浮かんだのは、タガラック率いる絡繰軍団である。


「タガラック将軍も超巨大ロボを作れたりはしないんですか?」

「一朝一夕でそれができたら苦労はせんわい! 鹵獲(ろかく)したロボを使うにしても、わしのコレクションではせいぜい60メートル級がいいところじゃしのう……」


 アークドミニオンの地下バンカーには、タガラックがこれまでの戦いで集めに集めたロボたちが飾られている。

 林太郎が狭山湖で撃破鹵獲した8体のうち、破壊されたキングビクトリーとプリンスカイザーを除いた6体もそれに含まれる。


 しかしタガラックの言う通り、どれもこれもあの超巨大ロボの腰にすら及ばないサイズだ。




 ……対超巨大ロボシミュレーションは、完全に手詰まりかと思われた。



 が、しかし。



「はぅぅ、立ってるのしんどくなってきたッス」

「すまんのであるサメっち、もう少しだけ我慢してほしいのである」

「竜ちゃん1時間前もそう言ったッスぅ!」


 巨神役を任されかれこれ3時間立ちっぱなしのサメっちも、すでに限界である。

 紛糾する議論をよそに、百獣軍団を模したぬいぐるみを積み上げて遊んでいた。


「アニキ見て見てッスぅ。超合体ぬいぐるマンッス」

「よく作ったねえ。前衛芸術かな?」


 まるで合体ロボのように連結されたぬいぐるみたち。


 足パーツにされているクマさんは、おそらくベアリオンだろう。

 頭の部分にサメのぬいぐるみを置いているあたりちゃっかりしている。


 ぬいぐるみたちも出荷された時は、まさか自分がこんな憂き目にあうとは思っていなかったに違いない。

 子供というのは何故こうも、大人が考えた仕様に則さない遊びばかり思いつくのか。


「これこれサメっち。今は大事な作戦会議中なのである」

「でもこれならサメっちと同じぐらいのサイズッスよ」



 サメっちの一言で、林太郎の脳に邪悪なひらめきが走った。



「………………そうか……!」



 その場にいるみんなが微笑ましく見守る中、林太郎は慌ててタガラックに目を向ける。

 おそらく同じ考えに至ったのであろう、金髪幼女は目を見開き、その小さな肩をぷるぷると震わせていた。


「そ、そそそ、そっ……」

「くららちゃんもぬいぐるマンのクオリティにビックリしてるッスか? 照れるッスねえ、サメっちゲージュツの才能もあるかもッス」



 タガラックは、サメっちが作った前衛芸術“ぬいぐるマン”を指さしながら叫んだ。



「それじゃあああああああああああああッッッ!!!!」


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表紙
― 新着の感想 ―
[一言] 最近忙しくて追えなかったけどやっと追いついたぜ え、というか合体・・・? 怪人の合体・・・・・・( ˶˙ - ˙˵ )
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