発売
二〇五三年、一八五三年にペリーが来航してから二〇〇年が経ったこの年、日本の無名ゲーム企業があるゲームの発売を発表した。そのゲームの名は「history of country」ジャンルとしては歴史シュミレーション、他の歴史シュミレーションゲームと違うところはただひとつ……実際に自分がその時代さながらの仮想空間に転送され、歴史を変えるゲームということだ。そして歴史を変えることに成功すれば多額の賞金を得ることが出来る……。
東京某所、家電量販店。
「押さないでください……! 順番に順番に……ご案内します!」
「history of country」発売日、日本各地の家電量販店、ゲームショップには大量の人の列でごった返していた。
「1つください」
「はい! 一点、税込八万五千円です」
ある少年宅。
「さぁ……始めようかな!」
少年は「history of country」本体同梱版の箱をカッターで慎重に開けていた。
箱を開けると「この度はご購入ありがとうございます、このゲームはあなたの命を奪う可能性があります、ご理解いただけましたらゲームを始めてください」という注意書きの紙と共に本物さながらの鞘に収まった日本刀が入っている。
「ゲームで死ぬわけないでしょ……てか重っ……」
少年は笑いながらそう言い、ずっしりと重い日本刀を取り出した。
「どう使うんだ」
日本刀のどこを見ても使い方は書いてない。
「あっ……! なんか紙が入ってるな」
日本刀が入っていた場所の底に小さく折り込まれた紙が入っていた。
「説明書……もっとわかりやすいところに入れろよ……てかでかいな!」
折り込まれた説明書を開くとB3ほどの大きさになり、床いっぱいに広がった。
「ほとんど、注意書きなんだけど……! 」
説明書のほとんどは注意書きと死にますの文字で埋め尽くされていた。
「使い方は? って裏に書いてあるじゃん……」
説明書を裏にひっくり返すと1から3まで日本刀の使い方がデカデカと書かれていた。
「文字でかいな……まずは……刀を鞘から抜く」
鞘から刀を抜くと鋭い刃が光り輝いていた。
「次は……上半身裸になる」
着ていた服を脱ぎ、上半身裸になった。
「次は……その刀の刃を腹に当てて、切腹する」
刀の光り輝く鋭い刃を腹に当て、少年は一思いに切腹を……。
「待て待て、おかしいだろ! なんだこれ、完全に自殺用品じゃないか……! え? なに? 俺は間違えて自殺用品買ったってこと? そりゃー死にますって注意書きがたくさんあるわけだわ!」
少年は切腹をせずに刀を床に置き、パソコンで「history of country ゲーム 使い方」と調べ始めた。
「あーやっぱりみんな切腹について触れてるなぁ……」
検索結果の一番上に出てきた掲示板に左クリックをして入り、下にスクロールすると「切腹したくない」「クソゲー」「詐欺かよ」などの批判のコメントが大量に書き込みされていた。
「なんだー詐欺かよ……」
上にスクロールして、サイトを閉じようとした瞬間「やってないゲームを批判するのやめろよ、切腹がやり方ならそれに従え、出来ない奴はやるな」と一番上にコメントされた。
そう、このゲームの始めた方、それは本当に切腹をすることなのだ。
「確かに……切腹がやり方って言うなら……それに従うべきだ」
シャットダウンをせずにパソコンを閉じ、少年は再び刀を腹に当てた。
「死んだら一生恨むからなっ……!」
少年は一思いに震える両手で刀を押し、切腹をした。
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「え、俺死んだ? え? 死んだ? 」
目を開けるとそこには真っ暗な世界が広がっていた。
「いえいえ、あなたは死んでませんよ、ほら」
どこから発されてるか分からないが、どこからか声が聞こえてきて、真っ暗な世界に画質が決して良くはない映像が映された。
「なんだ……この映像」
その映像には切腹して血まみれになった俺が映っていた。
「いや、死んでるじゃん」
「俺死んでるじゃん……」
「死にたくないよ……!」
叫び声と共に自然と目から涙が出てくるは何故だろうか……。
「大丈夫です、本当に死んではいません、まずは、説明をさせていただきます」
さっき聞こえた声と同じ声を発する謎の光る球体が俺の前で話し出した。
「説明?」
「そうです、このゲームについての説明をします」
「ほんとに切腹がゲームの起動条件だったのか……変わったゲームだな、どうぞ……!」
やっと安心した。
「それでは、説明させていただきます、あなたは切腹をしたことによってこの仮想空間に来ました、言わばここはあの世です」
今、あの世って言わなかったか……。
「あなたは今、仮死状態になり、切腹に使った日本刀の中に魂が保存されています」
今、仮死状態って……。
「あなたはこのゲームで歴史改変を成功させなければ本当に死んでしまいます、もちろん、ゲーム内で死んだりしても本当に死んでしまいます、何か質問があれば聞いてください」
「待ってください、そんなこと事前告知では言って無かったじゃないですか!」
事前告知では、お金が稼げる新感覚、歴史改変ゲームとしか書いてなかった……。
「それがこのゲームの隠し種です」
「なら、やめます、今すぐ現実世界に戻してください」
まだ死にたくない、まだ生きてたい、まだ彼女すら出来たことないんだから……このまま死んでたまるか……。
「それは無理です、あなたは注意書きを読んだ上で切腹をして、このゲームを始め、この仮想空間に来たわけです、と、いうことはあなたはご自分の意志でこの仮想空間に来たわけです」
「それは……改変に失敗したら死ぬと書いてくれてれば……しなかった……!」
「どうしてもこのゲームで死にたくないなら今ここで、死にますか?」
「えっ……」
どうゆうことだ。
「このゲームは一度始めたら……どう足掻いても歴史改変に成功するまで現実世界には戻れないゲームなんですよ、それ以外で現実世界に戻る方法があるとすれば、この仮想空間で死んで、死体として現実世界に戻るぐらいです」
「戻れない……?」
一度始めたら歴史改変に成功するまで現実世界に戻れない……つまりはこのゲームは死のゲームということか。
「はい、絶対に戻れません、あなたは今ここで選ぶんです、ここで死ぬか……それともこのゲームで歴史改変に成功して現実世界に戻るか」
「……」
死にたくない。
「……」
死にたくない……。
「でも、俺は……」
このゲームがしたい。
「分かった……歴史改変に成功して現実世界に戻ってやる!」
俺はこのゲームの発売を発表された時から待ちわびてたんだ、バイトもしてお金を貯めたんだ……だから絶対、歴史改変に成功させてみせる。
「良くぞ決意されました、あなたはこのhistory of countryの六百二十一人目のプレイヤーです」
真っ暗な世界にでかでかと「history of countryへようこそ」と赤い文字が映し出された。
「まだ六百二十一人しかプレイヤーが居ないんですか?」
あんなに発売前から騒がれてたのにこれしかプレイヤーが居ないなんて……。
「皆さん、ここに来て私があなたに説明したように現実世界に戻れないこと、歴史改変に失敗したら死ぬことを話したら、パニックになってここで死ぬ選択をしてるんですよ」
「なるほど……!」
そうゆうことか……でもどうせ死ぬならこのゲームしてみた方がいいと思うけどなぁ……。
「あ……あと歴史改変をしたら賞金が貰える話についてなんですが……いくらぐらい貰えるんですか?」
これが一番重要だよな、俺絶対、今ゲスい顔してる。
「はい! 歴史改変の難易度は五つに分かれています……! 足軽級が五千円、足軽大将級が一万円、部将級が十万円、家老級が百万円、そして当主級が……一億です」
「え……当主級がそんなに高いのはどうしてですか?」
やべぇ……ヨダレが止まらない。
「クリアが不可能だからです」
「不可能?」
「はい、ベータテストをした百人のうち成功した者は八人で他の者は全員死にました」
ベータテストでも死ぬのか……。
「ちなみにその内容は?」
そんなに成功しない歴史改変ってなんだ。
「クエスト名……切腹の英雄、備中高松城に散るです」
「備中高松? 清水宗治ですか?」
清水宗治として羽柴秀吉を倒すってことかな……。
「はい……! 清水宗治殿です、但し、このクエストは水攻めをされてお城の周りを水に覆われてからのスタートです」
「え……? 絶対無理じゃないですか……それ」
城の周りを水で覆われてるってもう負け戦確定……。
「負け戦確定なので……もし歴史改変に成功して羽柴軍を撤退させることが出来れば一億なんです」
「なるほど……!」
いつかはそのクエストクリアしたいなぁ。
「説明はこれぐらいにして、そろそろhistory of countryの世界に参りましょう!」
「いよいよかぁ……!」
「最初はチュートリアルとして、一五六〇年、クエスト名……東海道の弓取り桶狭間に散るにご案内します」
「お願いします!」
俺はこのゲームで歴史改変を成功させてみせる。
その瞬間、俺の体は謎の球体が放つ、光の中に吸い込まれた。
ヒストリーオブカントリーをお読みいただき誠にありがとうございます。以前投稿しましたヒストリーオブカントリーのリメイク版です。読みやすくすることを意識し、リメイクしました。
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