9話ー力の差
空は雲1つない綺麗な空なのに、これからけが人、もしくは死人が出ると思うと、気が滅入る。
服に着替えて家を出た俺はとりあえず、避難の準備をしている人の手伝いをした。みんなかなり動揺しているらしく、慌てていた。
そんな中にガバンさんは自分のことは何もしてなく、俺と一緒にみんなの手伝いをした。何もしなくていいのかと聞くと、
「失って困るようなものはねえ。武器もなくなればまた作るし、何よりお前が撃退してくれると信じてるからな。」
だそうだ。
俺を信じてくれるのはありがたいが、昨日からちょっと俺を信じすぎてないか?まあ、いいや。
そうして俺は手伝いを続けた。
1時間後。
街のみんなは家に入っていて、外には誰もいなかった。
俺は道の真ん中に立って、目を凝らした。うっすらと土煙が上がっているのが見える。
(遠視!)
俺は心の中でそうつぶやくと、かなり遠くまで見えた。
あまり使ったことないけど便利だな。
そして、ミラーが言っていたように本当に歩いていた。先頭には5人の幹部と思しき人物がいた。
ここから彼らまで結構距離がある。俺が行こっかな…。でもなー、相手にも見栄ってのがあるからな。でも、ここまで来るのを待っていたら、絶対に30分以上かかる。よし、行こう。待ってられん。
もちろん、俺も歩いてね?
すると町長が俺に、「どうしたんじゃ?」ど言った。
「来るのが遅いんでこっちから行きます。その方がここの被害も少ないし、何かあった時もすぐに逃げれるようにしておいてください。」
そうして俺も相手方向に歩いた。
15分ほど歩いただろうか。
ロアンクルシル王国の兵たちはあと50メートルという所まできた。
ハリセンが俺の顔を見るなり、睨んできた。すると、先頭を一緒に歩いていた、図体のでかい男が、
「貴様が我がロアンクルシル王国を相手にしたバカか。わざわざ早死にしに来たか?」
はあ、そういうこと言わない方がいいんだけどなー。フラグが立つよ?まあ、俺の事じゃないからいいけど。
「今なら誰も死なずに済むんだけど、もう無理だよね?」
「ハ!何を言ってやがる。死ぬのはお前一人だ。調子こいてんじゃねえぞ!」
「そうねえ、1人でここまで来たのは褒めてあげるけど、あまりいいとは言えないわねえ。」
「ふーん、じゃあいいや。こっちから行くよ。後悔はするなよ?」
俺がそういったと同時に、兵の大半が戦闘態勢に入り、また、ハリセン達幹部も構えた。
俺は刀を手に取り、1度、思いっきり振った。
「風竜之逆鱗」
と、同時にかなり強い風が起こった。強いといっても台風とは比にならないくらい強いけど。
前衛にいた兵の大半が吹き飛ばされるか、尻もちをついていた。幹部の方はさすがといったかんじで、砂埃を寄れるように手をかざすだけで、普通に立っていた。
すかさず俺は敵軍隊の上部に飛び、敵が集まっているところで、刀をしたに向けた
「晴天之霹靂」
俺のしたに大きな雷が落ち、兵たちは大変なことになっていた。落雷した周辺は感電死し、死には至らなかったものは気絶するか痺れて動けない状態だ。
ユリウスは今雷が落ちた場所に、畳み掛けるように地面を殴った。
「土太鼓」
ユリウスを中心に衝撃波が広がり、地面が波打った。すると半径15メートル程の地面がへこんだ。
その光景を見ていた幹部たちは呆然としていた。あまりの実力の差に。そして知った。自分たちが今相手にしているのは、決して相手にしてはいけない存在であると。
しかしそんな中、1人だけは違った。スクラ・バーンだ。
バーンは兵たちをどかせて、ユリウスのへこませた穴の所に来て、
「もう終わりか!」
「…え?」
俺は一瞬戸惑った。
俺は圧倒的な実力を見せつけて、諦めさせようとしていたのに、諦めるどころか、こっちに挑発を仕掛けて来てるんだから。
「なんだ、もう終わりか。やっぱりその程度の実力よな。あんな小さな街の馬鹿共の元に育つなんてお前も大変だなー。」
「今、なんて言った。」
これにはマジでイラついた。俺だけをバカにするなら別にどれだけバカにしてもいい。ただ、街のみんなをバカにするのは許さない。
本気で腹を立てた俺に気づいたのか、他の4人はバーンを止めにかかっていた。しかし、バーン止まらず、トドメに入った。
「だから、馬鹿共の元に育ったお前は…。」
言いかけた瞬間、バーンの左側に少々赤みがかった熱い光線が通り、左腕が落ちた。
バーンは何が起こったのか分からず、左を見た。バーンは発狂はしなかったが、その顔は恐怖でいっぱいだった。
「俺のことは何を言っても構わない。だが、街のみんなを侮辱するのは許さない。」
「ク、クッソー!!」
バーンは自分を失ったように、ユリウスを殴りにきた。ユリウスはバーンの顔をビンタして、地面に叩きつけた。当然それで気絶。
その一部始終を見ていた4人と他の兵達。冷や汗を流し、足をガクガクさせて立っているものがいた。
「で、どうする?まだ続きする?」
俺は4人を睨みつけて言った。
しばらく沈黙が続いたが、やがてハリセンが口を開いた。
「もういい。これ以上戦ってもこちらに損害が出るだけだ。我らはもう引き上げる。」
「そうか、なら」
その言葉を聞くと俺は落ちたバーンの腕を持ってきた。その光景にハリセンは驚いていたが、先程までではない。
そして、俺はバーンの腕をくっつけ始めた。
それは4人をかなり驚かせた。先程よりも。
そりゃそうだろう。怪我を治す薬や魔法はあっても、切れた腕を治すことはできない
「え、何?どうやったの?」
リーナが代表して聞いた。
「簡単だよ。属性化スキルがあるでしょ?あれは自分の体自体を魔力にするから腕とかを切っても魔力を消費するだけで、腕はまた出てくる。これを他人に応用すればいいだけの事。精神支配でこいつの魔力を強制的に動かせて、欠損した部分を作る。後はこいつの自身の魔力と腕にあった魔力を繋げる。それで腕は元通り。」
その説明を聞いても誰も理解出来なかったが、ハリセンは思った。
なぜそんなことを相手に教えるのか。もし、相手がそれを使ってきたらどうなるとか考えないのか?
しかし今の状態では考えても考えても分からなかった。
「な、なぜ、そのようなことを、我らに教えた?」
「え、だって絶対に真似出来ないでしょ。」
当たり前に言われた。
そりゃ真似出来ないだろうけど、うーん。
ハリセンはまた考えたがもう諦めた。
「…、撤退だ。」
「「「え?」」」
「撤退と言っているんだ。」
ハリセンは3人に撤退命令を出して、兵を帰らせた。
バーンは兵に担がせて、なるべく早く撤退した。
そしてハリセンはまた考えた。
このことをどうやって国王に報告しようか、と。
去り際に、今度そっちに行くから、と聞こえたような気がしたが、今のハリセンにはどうでも良かった。
戦いは終わり、ユリウスは街に帰った。しかしユリウスもまた、考えた。
どうやってみんなに説明しようか、と。