6話ー決闘とその後
やっぱり対応を変えた方が良かったかなあ。つい、「俺が相手をする」なんて言ったから戦うことになっちゃったよ。
でも、俺の今の実力を知るにはいい機会だ。そう、ポジティブに考えよう。
相手のハリセンは完全に俺を舐めている。こういう相手はだいたい勝てる。多分だけど。
そう考えていると、ハリセンが俺に向かって剣を振りかぶった。
一撃目を難なく避けると続いて二撃目が来たので、これは刀で受け止めた。
「ほう、なかなかやるようだな。」
「まあ、それなりにね。」
「だが、この俺に勝つことはできん。死ねーー!」
ちょっと落ち着こうよ。格好付けて「死ねー!」なんて言っちゃって。
ハリセンは俺と1度距離をとるともう一度切りかかって来た。
俺はそれを全て受け流した。
ていうか、この刀ガバンさん曰くかなりの切れ味なのに、ハリセンの剣は無事だ。
ということは、ハリセンの刀もそこそこ良いやつなのかな。でも、思いっきり振ったら流石にハリセンの剣は折れるだろうね。
「どうした、さっきから避けてばかりだが。さては、本物の剣での戦いはしたことないな?それで怖くなったんだろ。」
正直ハリセンの剣は遅い。道場の先生とどっこいどっこいだ。
「今謝ってくれるなら見逃してやってもいいんだよ?」
やばい。こいつウザすぎる。
もうちょっと遊ぼっかなー、とか思ったけど、やめだ。もう、終わりにする。
ハリセンはまた切りかかって来た。
俺はその剣筋を素早く見て、ハリセンの剣に向かって思いっきり刀を振った。
すると、見事にハリセンの刀は半分に割れ、剣先の方は中を舞った。
その結果に唖然としていたハリセンとその部下。
一方で街の人は、少し間を置いて歓声を上げた。
「ユリウス、お前スゲーな!」
「アルちゃん、今度おばちゃんと一緒にお茶しましょ?」
お茶のお誘いは遠慮しておきたいけど、とりあえず勝ったからいっか。
ふと、ハリセンを見ると、剣を落として、膝をついていた。
悔しいだろうな。恥ずかしいだろうな。
あれだけ言ったやつに負けたんだから、よっぽどだ。
ハリセンは剣を拾わずに立ち、そのまま早歩きで帰っていった。帰り際に、
「チッ!覚えとけよ」
と言った気がするが、気にしたらいけないだろう。
ハリセンの部下が真っ二つになった剣を拾って、ハリセンについて行った。
1時間後。
騒ぎはだいぶ落ち着き、俺はガバンさんの家にいた。
俺が暗めの顔をして、刀を腰にかけていた(普段はかけない)ことから何となく察していたようで、しばらく沈黙が続いた。
そして、ガバンさんからシンプルな質問が来た。
「死んだのか?」
その質問に俺は頷き、父さんが俺に言ったことをそのまま話した。
「そうか、いつかこうなるとは思ったが、思ったよりも早いな。でも、お前はこれからどうするつもりだ。魔物と人間の共存させるのがお前が受けた役割なのに、今日、ロアンクルシル王国の幹部とトラブルになっちまって。あそこと関わりにくくなるだけじゃねえか?」
「まあ、大丈夫、何とかなるよ。」
「何とかって…。」
「それに、また、来ると思うよ。その時に上手く対処すれば、国王とも話ができるでしょ。」
「お前、簡単に言うけどな、そう思い通りにいくか?」
「うん、いくようにする。」
その言葉を聞いたガバンさんは、何となく少し笑ったような気がする。
■
今日はガバンさんの家に泊まる。
ガバンさんには奥さんはおらず、ずっと独身だ。
だから、1人で家のことをしている。
今夜は野菜スープにパン、酒とそのつまみだ。
ガバンさんの作る料理は不味くはない。ただ、何かが足りない。料理経験がないから何とも言えないけど。
それでも今の俺には、この味が最高に感じた。
ガバンさんが酒を飲み出して調子が出てきたのか、昔話をした。ちなみに俺はあまり酒は得意ではないから少しつづ飲む。
「昔なー。俺がまだ11の時な、鍛冶の修行のために遠くの街にいってた時、俺はよく師匠に叱られたもんだ。力が入ってねーとか、気持ちが入ってねーとか。で、俺は悔しくてよく裏で泣いてたな。で、ちょうど19の時、いつものように悔し涙を流していた時、俺と同じくらいの女の子が俺にハンカチを出してくれた、『どうぞ』ってな。それから俺が裏に来た日にはいつも来るようになった。で、いつも俺の愚痴を聞いてくれた。そして、俺はいつの間にか好きになっちまっていた。21になって、俺はようやく師匠に認めて貰えた。その時に決心したんだ。俺はあの子と結婚するんだって。でも、その日、あの子は来なかった。俺は次の日もその次の日も待った。だけど来なかった。俺は彼女が来た方向を歩いた。しばらく歩くと、一つの家が見えた。別に見るつもりはなかったが、見てしまった。その家ではその子の葬式をしていた。俺は急いでその家に入って、どうして死んだのか聞いた。どうやらその子は元々体が弱かったらしい。ある日の買い物に行った時を境に毎日、俺がいた街に来た。楽しそうに行っていたそうだ。でも、突然帰らなくなって行って、向かいに行ってみると道の真ん中で倒れていた。恐らく毎日毎日歩いていたせいで疲れが溜まっていたのだろう。それで倒れて助けが来なくて、そのまま。俺は話した、今まで愚痴を聞いてもらっていたことを。すると、お父さんが俺の方に来た。俺は殴られるとこを覚悟したが、逆だった。泣いて抱いて感謝された。『ありがとう。娘は幸せな気持ちでいっただろう。』って。つられて俺も一緒に泣いた。泣いて泣いて泣いた。」
その話をするとしばらく黙った。
そして、俺に問うてきた。
「何が言いたいか分かるか。」
俺はただ黙って、軽く首を横に振った。
「俺が言いたいのはな、後悔だけはするな、ということだ。言いたいことがあれば言え、したいことがあればしろ。幸いお前はそれが出来るやつだ。俺みたいにあとになって後悔をするな。なくなればもう、ないんだ。あの時言えば良かった、あの時やれば良かった。そう、思うことがないように生きろ。でもな、人生そんなに甘くなくてな、絶対にそう思うことがある。だけどその後どう思うかでお前の人生は変わる。一瞬の後悔はいいが、一生の後悔だけはするな。」
ガバンさんはかなり出来上がっていたようで、話終えると、そのまま寝てしまった。
俺はガバンさんに毛布をかけてあげるとともに、心の中で誓った。
絶対に後悔はしない、と。
そして、俺もソファーで寝た。