永久の少女のなやみごと
ツイッターハッシュタグ「#魔女集会で会いましょう」に刺激を受けて書きました。
「アンタ、弟子とか取らないの?」
お茶会の途中、友人の魔女が急に切り出したその話題に、ミーシャは思わず「はあ?」と返した。
「だから、弟子よ弟子。ずっと独り身でしょ?」
「そうだけど……別にいらないわよ。気楽だし」
「分かるけどさあ。でもアンタ、生活能力無さすぎるじゃない」
友人は部屋を見渡した。ミーシャの部屋は大量の本やら紙やら布やらがあちこちに散乱してる上に、うっすらなんて言ってられないくらいに埃を被っていた。
「掃除してる?」
「し、したわよ!……二十年くらい前に」
「それはしてないと同じ意味よ」
「し、仕方ないじゃない!こんな身なりだと物動かすのも一苦労なのよ!」
ミーシャは不貞腐れながら、床に届かない自分の足をブラブラと動かした。
「いや、魔法使いなさいよ。あったでしょう、掃除魔法」
「ウチの流派は魔法に頼らない主義なのよ」
「おい魔女」
仕方ないじゃない、とミーシャは愚痴を零す。
類いまれな魔法の才能に恵まれ、わずか十歳にして数々の功績を残して数百年。『魔法を使い続けた者は老いと死から外れた存在となる』なんて基本事項を知らないままバンバン魔法を放ち続けたミーシャの身体は、年端もいかない少女の姿に完全に固定されてしまった。
ひょっとしたら魔法をずっと使わなければ普通に成長するかもしれない――そんな希望を持って魔法断ちを始めてみたが、その努力の甲斐もなく、身体は子供のままだった。
「弟子じゃなくても、適当に一人見つけて家政婦にすればいいのよ。なんだかんだでもう一人いると生活が潤っていいわよ?」
友人は自分の隣に侍らせた少年の顎をそっと撫でた。中性的な雰囲気の少年はうっとりとしながらそれを受け入れている。
どういう潤いなんだか。ミーシャはこっそりため息を吐いた。
数百年も魔女をやっていると色んな噂が生まれるもので、しかもそれには尾びれはひれがくっついて大変なものになっていることもある。
例えば――『永久の少女の魔女は幼い少年の生き血を啜って若さを保っている』とか。
バカバカしい、とミーシャは思う。逆にこの有り余る若さを配って回りたいとすら思う。出来ればの話だが。
しかし、そんなことを知らない者は多い。例えば、こうやって家の前に少年を一人差し出していったどこかの誰かとか。
「生贄代わりってこと? 時代遅れにもほどがある……」
ご丁寧に手紙付きだ。『この子を差し上げますので私の街を襲う魔獣をなんとかしてください』なんて書いてある。
「そんなことしなくても、一番偉い人がここまで来て頭を下げたら助けてやったのに」
哀れな街だ、と思った。残念だが、その魔獣にはとことん暴れていただこう。
「……」
少年は何も言わない。ただ虚ろな青い瞳で、ミーシャをじっと見つめていた。
適当な奴隷を見繕ったのか分からないが、整った顔立ちの少年だ。見た目だけは綺麗にしてあるが、多分差し出すためだろう、肉付きが悪い。歳は、奇しくも今のミーシャの見た目と同じくらいだった。
「お前、帰る場所は?」
少年は無言で首を振った。そうだろうな、とミーシャは思った。
だったら、貰っても構わないだろう。
「なら丁度いいわ。見ての通り部屋が汚いの。綺麗にしておいて」
「……?」
「だから、掃除よ。ちゃんとやったら、ご飯くらいは用意してやるわ」
ああ、これは気まぐれだ。友人の提案に、一度だけ付き合うだけだ。部屋が片付いたら追い出してしまえばいい。
ミーシャは、誰でもない自分に、そう言い訳した。
「……私は家政婦を雇ったつもりだったの」
「はい。今でもお世話をさせていただいております」
「余りにも片付けが下手くそだったから、掃除魔法を教えてやったの」
「はい。とても便利なのでよく使っております」
「他にも知りたいとせがむから、仕方なく教えてやったの」
「はい。弟子になって、沢山の魔法を教えていただきました」
「……お前、今幾つ?」
「今年で、八十になりました」
金髪碧眼の青年は、にこやかに答えた。
「どうしてお前まで老いが止まっているのよ!!」
「それはもう、一杯魔法を使いましたから。ミーシャ様と一緒にいるために」
青年は悪びれもせずに答える。身長はミーシャの倍近くある上に、肩幅もしっかりとした、立派な青年がそこにいた。
「しかも何なのその見た目は!! せめて最初に会った時くらいの見た目なら私とも釣り合いが取れたのに!!」
「ミーシャ様に相応しいように、一番見た目のいい時期で身体を固定するのに苦労しましたが、無事に成功しましたね」
「お前やっぱりタイミング図ってたのね!? ずるい!!」
ハハハ、と青年はミーシャの怒声を流した。
「いいじゃありませんか。自分で言うのもなんですが、美形ですよ」
「見た目の歳の差がありすぎるのよ!! これじゃ、周りから見たら、ただの親子じゃない……」
「別にいいじゃありませんか。周りの視線など」
違う。そうじゃないんだ。ミーシャはやきもきした。
「私は、どうせなら恋人に見られたいのよ!!」
「っ!! ……申し訳ありません、ミーシャ様。そんなお気持ちに気づかないなんて……今度からは、どこであっても恋人のように振舞わせていただきますね」
「ちがっ、そうじゃな……っ!!」
「では、行きましょう――私たちの愛を、見せつけに」
「ちがああああああああう!!!!」
しばらくの後、永久の少女の魔女にまつわる噂話に『子供好きの変態男を侍らせている』なんてものが付け加えられるのだが、本人がそれを知って落ち込むのは、もう少し先のことである。




