新たな日々
翌日、尚はブラウスにスカートのコーデにして、メイクをしてから鏡でチェックした。
「やっぱり昨日の綾さんみたいにはいかないか…もっと練習しないと」
今まで散々コスメのことを勉強していたせいか、昨日綾に教えてもらっただけで
普通のメイクはできるようになっていた。
玄関には大量のごみ袋が置かれていた。
すべてメンズの物だ。
「邪魔だなぁ、早くごみの日にならないかな」
心が完全に女性となった尚にとって、メンズの物はごみ以外の何でもなかった。
部屋にある家具なども近いうちに可愛いものに買い替える予定だ。
女の恰好で出勤できるのが嬉しく、薬を飲んでから軽い足取りで家を出て会社へ向かった。
「あー行きたくねぇな…」
悠弥は着替えながらそう呟いていた。
それくらいあの職場は地獄だった。
テーブルに目をやると、移動直後に渡された薬が視界に入った。
「そういえば毎日飲めって言われてたのに1回も飲んでなかったな」
確か男臭さを消すとか言っていたっけ…
「ざけんなって、男が男臭さを消してどうするんだよ」
そう言いながら玄関に向かうと、なぜかあの薬が気になっていた。
男臭さが消えればもっとマシな扱いになるのかな…
「何をバカなことを考えてるんだ」
そう言いながらも悠弥はついに薬を飲んでしまった。
「こんなんで男臭さが消えるかっつーの」
自嘲気味に言いながら家を出た。
会社に着くと、相変わらず嫌な視線が飛んでくる。
こんなに俺が嫌なら移動させてくれねーかな…
そう思いながら席に座ると、見慣れない女性が入ってきた。
「おはようございまーす」
「尚ちゃん、おはよう。バッチリじゃない」
「ありがとうございます」
朱里とのやり取りが聞こえてきて耳を疑った。
尚ちゃん?…まさか!?
悠弥は慌てて入ってきた女の子を見た。
それは昨日見た女の子だ。
よく見ると、それが尚だということがわかり、慌てて駆け寄った。
「佐々木!お前どうしたんだよ?」
「どうって何が?」
「その恰好、それに髪型に化粧までして」
「わたし女だよ、普通でしょ」
そういって尚は何事もなかったかのように自分の席へ歩いて行った。
いやいやいや…ちょっと待て!
悠弥は尚を追いかけた。
「お前男だろ!何考えてるんだよ」
思わず肩を掴むと「キャッ」と悲鳴を上げた。
「触んないで!セクハラで訴えるよ!」
「セクハラって…」
そこに朱里たちがやってくる。
「ちょっと、尚ちゃんに何してるの」
みんなに囲まれて尚はホッとしたような顔をしていた。
「尚ちゃんはわたしたちと同じ女なの。身体は違っても立派な女の子なの。もし今後尚ちゃんを傷つけるようなことを言ったりしたらマジで訴えるからね」
意味が分からない…何があったんだ…
悠弥にはまったく理解できず、それでいて唯一の同性だった
尚が向こう側へ行ってしまったことで、完全に孤立してしまい、途方にくれていた。