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BFDX  作者: 姫
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尚、陥落寸前

いつも通り薬を飲んで出勤。

この薬のおかげかな、なんかすごくやる気が出てくる。

「おはようございます」

元気に挨拶をすると「おはよう、尚ちゃん」と返ってきて、

尚はこの職場が楽しくて仕方がなかった。

席に座ると、未来が話しかけてくる。

「尚ちゃん、いい匂いする。うちのボディークリーム付けたでしょ」

「わかる?この香りすごく好きなの」

「わたしも好き!これ絶対に女子が好きな香りだよね」

キャッキャしながら会話をしている2人を横目に、悠弥は呆れていた。

最初はタイプは違うが同じ男同士ということで会話をしたり、行動を共にすることが

多かった尚だったが、今は同期の志穂や未来と行動を共にすることがほとんどで、

悠弥とは挨拶以外話すことがほとんどなくなっていた。

あいつ…あれじゃまるで女子じゃないか。

元々そういう素質があったんだろうか?

少し疑問を抱きながらその光景を横目で見ていた。

すると、指導係の七瀬がやってくる。

「ねえ、それいつ終わるの?本来なら昨日中に終わらせてほしかったんだけど」

「昨日中だなんて一言も言わなかったじゃないですか」

「この程度の仕事なら普通昨日で終わるから。アンタ本当にダメね」

うるせー女だな。

最初は呼ばれたくもない悠ちゃんなどと呼んでいたくせに、

アンタと呼び方が変わっていた。

馬頭に近い言葉を浴びせ、仕事も雑用のみになっていて、立派なパワハラになっている。

それでも男のプライドからか、女にパワハラされているなんて

訴えるのは恥ずかしいので耐える日々が続いていた。

そこへ今度は綾がみんなに声をかける。

「みんなちょっと会議室にきてくれる?話があるの」

みんなが立ち会がり、悠弥も立ち上がろうとすると、綾が言ってきた。

「あ、アンタはいいから。それよりさっさと仕事終わらせて」

一人完全に蚊帳の外。

別にいいんだけどよ、すげームカつくぜ。

心の中で舌打ちしながらパソコンに向き合った。


みんなが席に着き、綾はスライドを立ち上げた。

「みんな知ってることだけど、来月に発売される限定のリップとグロス、それとアイシャドウの撮影をそろそろしないといけないのよ。それでね、今回の限定品は20代の女性がターゲットじゃない。だから若手にモデルをやってもらおうと思うの」

それを聞き、志穂と未来が目を輝かせていた。

「それって…」

思わず志穂が聞き返すと綾は「うん」と頷いた。

それを見て、2人は「やったぁ」と子供のように喜んでいた。

「よかったね、志穂ちゃん、未来ちゃん」

尚は2人がモデルになることが嬉しくて声をかけてあげた。

2人とも「ありがとう」と万弁の笑みで答えてくれた。

すると、綾から更に予想外のことを発表され、思わず耳を疑ってしまった。

「あと尚ちゃんもね」

「え、僕も?」

「だってリップ、グロス、シャドウ、3種類でしょ。3人必要じゃない。3人とも同期なんだし揃ってデビューしないとね」

この発表にみんながはしゃぐように喜んでいた。

「尚ちゃん、やったね」「よかったね」と祝福の声が聞こえてくる。

尚も正直、とても嬉しかったが素直に喜べなかった。

それは…

「でも僕は男です…」

「体はね。でも中身はどうかな?」

「それってどういう…」

「わたし…ううん、わたしたちは尚ちゃんのこと同性と思ってるの。すごく頑張って一所懸命仕事していて、最初は真面目な子だなって思っていたんだけど、最近の尚ちゃんを見ていたらコスメに興味津々だし女性の気持ちもしっかり理解しているし、考え方もわたしたちと同じなの。つまり、尚ちゃんは体はともかく、中身は普通に女の子なんだよ」

自覚していなかったが、思い当たる節は多々あった。

言われた通り、コスメや美容に興味を持ち、男でもおかしくない範囲でシャーロットフランシスを使うようになり、可愛いものも大好きになっていた。

同性の悠弥と話をするより、志穂や未来、それに先輩の綾たちと話をしているほうが楽しいし、このほぼ女性しかいない職場がとても落ち着くようにもなっていた。

それを知ったとき、段々と自覚する気持ちが芽生え始めていた。

だが、あと一歩踏み出せない。

「でも僕は…」

やっぱり男だという負い目が邪魔をする。

そんな尚に、綾が優しく聞いた。

「男とか女とか関係なく素直に答えて。尚ちゃんはモデルやりたい?」

あのとき見た朱里が今でも鮮明に記憶の中に残っている。

とてもキラキラ輝いて見えて、ああいう風になりたいと思った。

この気持ちは抑えられそうにない。

すると口は自然に動いていた。

「やりたい…です」

そう答えると、未来が肩に手を置いてきた。

「一緒にやろう、尚ちゃん」

尚はゆっくりと頷いた。

こうして、尚もシャーロットフランシスのモデルとしてデビューすることが決まり、

みんな大盛り上がりだった。

「でも僕、シャーロットフランシスのイメージ壊しちゃわないかな…」

「なんでそう思うの?」

「だってシャーロットフランシスはすべての女性が憧れるのをコンセプトにしてるでしょ。それなのに男の僕なんかがやったらイメージが…」

これを聞いた綾が突然笑い出した。

「そんなこと気にしてたの?全然問題ないよ。だって尚ちゃん、メイクしてレディースの恰好すれば間違いなく女の子にしか見えないはずだよ」

それにみんなが同調している。

「そんなことないですよ…」

「だったらさ、今から試してみる?ちゃんとメイクしてレディースの服を着るの」

それを聞いて尚はトキめいていた。

「いいんですか?」

嬉しすぎて思わず聞き返していた。

「もちろん。麻美ちゃん、今から尚ちゃんと一緒に買い物に行ってきて。もちろん尚ちゃんの服とかを買いにね」

それを聞いて、志穂たちが「いいなぁ、一緒に行きたい」と言い出した。

「こういうのは麻美ちゃんが一番適任だから。よろしくね」

「はい。尚ちゃん、行こう」

尚はドキドキしながら麻美と一緒に買い物に出発した。

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