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BFDX  作者: 姫
22/24

代償

「田口も完全に女になったら報告しろ。2人揃って秘書課に異動させるから。それにしてもあんなに可愛くなるなんてなぁ…ぐふふ」

最後の吐き気のするような笑い声で綾はキレた。

「お断りします!あの2人は大事なわたしの部下です!アンタみたいなゲス野郎のところになんて死んでも行かせるか!」

「お前!社長の俺に逆らうのか!それにゲス野郎だと」

小澤は顔を真っ赤にして立ち上がり、机をバンと叩いて威圧してきた。

しかし綾は怯まなかった。

「アンタなんか社長でも何でもない、ただのクズよ!悠ちゃんと尚ちゃんを何だと思ってるの!?自分の私利私欲のために勝手に女にして、わたしの大事なシャーロットフランシスを汚して…許せない!」

「お前のような女がいるから俺はBFDXを作らせたんだ。全部お前らのせいだろ」

「女を…女をバカにするな!」

綾は拳を握り、思いっきり小澤の顔を殴った。

ガンッという音と同時に小澤は後ろに倒れこむ。

「き、貴様ぁ」

慌てて立ち上がり、今度は綾に飛びかかってきて、頬を何度も叩いてきた。

それでも綾は必死に反抗し、ポケットからあるものを取り出した。

「お前はクビだ!いや、もっと辺鄙なところに飛ばしてやる!覚悟しろよ」

そういいながらもまだ叩いている。

痛みに耐えながらタイミングを計った。

今だ!

小澤が大きく口を開けた瞬間、口の中に投げ込んだ。

小澤はそれを飲み込んでしまう。

「ゲホっ…何を飲ませた!」

「BFDX…」

「な、なんだと」

小澤は綾から離れ、うろたえだした。

綾はジッと立っていた石嶺を見て問いかけた。

「これ…一度飲んだら完全に女性化するまで飲み続けちゃうんでしょ?」

「ああ」

小澤がすがるように石嶺の襟をつかみながら訴える。

「石嶺、何とかしろ!中和剤とかあるだろ?」

石嶺は小澤を見下し、完全にバカにした目で答えた。

「社長~、そんな都合がいいのあるはずないでしょ。それに中和剤を作れなんて言いませんでしたよね」

「だったら作れ、今すぐ作れ!」

「無茶言わないでくださいよ。BFDX作るのに5年もかかったんですよ。あと5年待ってくれれば作りますけど」

「5年だと…それまでに俺は完全な女になってしまうじゃないか…」

「そうすると中和剤じゃ手遅れですね」

小澤は崩れるように膝をついていた。

まるで絶望したような顔をしていていい気味だ。

石嶺は机の上に袋を置いた。

「これBFDXです。これから必要になるので置いておきますね」

それだけ言って石嶺は社長室を出て行った。

「俺が女に…俺が女になる…はは、ははははは…」

小澤は壊れたように笑っていた。

綾もそれを見てから社長室を出ると、意外なことに外で石嶺が待っていた。

「あんなクズのために作ったなんてバカみたいでしょ」

「そうでもない。俺にとっては誰も作ったことのないものが作れて満足だ」

「悠ちゃんや尚ちゃんのことはどうも思わないの?」

「そうだな、俺の研究に協力できて光栄だろうな」

やっぱり石嶺もクズだ。

これ以上こんな奴と話すことなんて何もない。

綾は石嶺を置いて歩き始めた。

「渡瀬、忘れものだ」

振り返ったら袋が飛んできた。

中には薬が入っている。

「これって…」

「BVXY VはVirilization 男性化 XYは男の染色体だ」

「石嶺…あんた」

「俺が片方だけしか作らないと思うか?それを飲ませれば男に戻る」

「ちゃんと考えてたんだね」

「勘違いするな、俺は完璧主義者なんだ。両方あって、初めて真価が問われる」

一瞬でも見直して損をした。

これは石嶺の本心だ。

研究者として…いや、自分の楽しみのために作っただけだ。

「これ、今の社長も飲めば…」

「ああ、あっさりと中和される」

「飲ませないの?」

「お前は飲ませてほしいのか?」

「冗談じゃない!絶対に飲ませないで」

「俺もそのつもりだ。また勘違いされたら困るから先に言っておくけどな、60近い男がそのまま女になったらどうなるか、それを見てみたいだけだ。研究対象としては面白い」

これも間違いなく本心だろう。

そしてBVXYも元に戻る悠弥と尚を研究対象として見たいから渡しただけだ。

綾はBVXYを突き返した。

「せっかくだけど、これ返すよ」

「なんでだ?」

「なんでもかんでも石嶺の思い通りになると思ったら大間違い、これ以上あの2人をモルモットになんてさせないから。それと今後、勝手に人をモルモットにするのもやめて!人間はあんたのオモチャじゃないの」

「相変わらずだな、お前」

「石嶺、アンタもね」

石嶺にBVXYを渡すと、綾は背を向けて今度こそ歩いてこの場を去った。

ごめんね、せっかく男に戻れる薬があったのに断って。

その代わり…思いっきり素敵な女の子にしてあげるから!

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