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BFDX  作者: 姫
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BFDX


深呼吸をして気持ちを落ち着かせて、ノックしてからドアを開けた。

「失礼します」と言いながら部屋に入ると、小澤がふんぞり返るように椅子に座っていた。

その隣には知っている男が立っている。

「石嶺…」

「久しぶりだな、渡瀬」

石嶺は綾の同期で、今は薬剤部の開発主任だ。

そうか、こいつが絡んでいたのか…

綾は石嶺が嫌いだった。

嫌いというより、何を考えているかわからないので苦手というのが正解かもしれない。

同期でも、今まで一度も同じ部署になったことがないので接点はないが、

それでも入社当時は同期会などを定期的に開いて盛り上がっていた。

石嶺はそのときから独特の雰囲気を持っていて、近寄りがたい人間だった。

理系で頭がすごくよく、まわりを小ばかにして自分は特別だと思い込んでいるので

恐らく石嶺を好いていた同期は誰もいなかっただろう。

小澤が前かがみになり、綾を見てきた。

「呼んだ理由はわかっているだろう。経過はどうなった?」

相手の出方をうかがうためにも、まずは現状を素直に伝えておこう。

「佐々木尚は、移動直後から真面目に薬を飲み、2か月半で精神が完全に女性になりました。それからずっと女性の恰好をして出勤しています。田口悠弥は命令を無視して薬を飲みませんでしたが、佐々木尚が女性として出勤した直後に飲み始めたと思われ、それから1か月程度で佐々木尚と同じように精神が完全に女性化しました。そして今日、自分の意志で女性の恰好をして出勤しました」

あえて身体の変化については言わなかった。

これで向こうがなんというか。

「そうか、見た目はどうだ?」

「佐々木尚は完全に女性です。モデルもやっているくらい普通に可愛いです」

「あれは元々女顔だからな。田口はどうだ?」

「田口もなんとか男には見えないかなと…」

完全に女に見えるとは言わないでおく。

それをいうと身体や顔が変化したことを言わなくてはいけなくなるからだ。

まだこの話をするのは早い。

ところが、小澤が突然言い出した。

「何を言ってるんだ、田口も女にしか見えないだろう」

小澤はポケットから何枚か写真を取り出して見せつけてきた。

それは今日の悠弥と尚だった。

小澤はニヤニヤしながら写真を眺めていた。

いつの間に撮ったんだ?完全に後手にまわった…

綾が悔しそうな顔をしていると石嶺が口を開いた。

「渡瀬、全部を話さずBFDXの秘密を聞き出そうとしていたんだろ。いいよ、俺が教えてやるよ」

「BFDX?」

「あの薬の名前だよ。Brain Feminization Double X。それぞれ直訳すると 脳 女性化 ダブルとXはXX、つまり女性の染色体だ。これだけ言えばお前でもわかるだろう」

脳を女性化させる…そして染色体も…

これで身体の変化も一致した。

「環境によって考え方が変わる薬じゃなかったの?」

「仮にそうだとして、あそこまで女性化すると思うか?相変わらずバカだな、お前。あの2人はモルモットに選ばれたんだよ」

石嶺は昔とちっとも変っていない。

すぐにそうやって人を見下してバカにする。

「佐々木は身体も完全に女になったんだろう?田口はまだか。それにしても田口の精神的な女性化は佐々木より全然早いな。顔も女になってるし、体つきも華奢になっている。どうやら男臭いやつほど効果が出るみたいだな」

石嶺は一人で納得していた。

そして綾に聞いてくる。

「渡瀬、お前気になったことがないか?普通なら、特に田口のようなやつなら一度くらいは飲むかもしれないが、それ以降毎日ちゃんと飲むと思うか?」

言われてみればそうだ。

尚は真面目だから飲み続けるかもしれないが、悠弥はそういうタイプではない。

それなのに欠かさず飲んでどんどん変化していった。

「BFDXには中毒性があるんだよ。一度飲んだら毎日飲み続けてしまう。なぜかわかるか?脳が欲してしまうからだ。男と女は脳の構造が違う。BFDXを1粒飲むと、脳が刺激され、女性と認識しようと働きだすんだ。そうするとその認識を強めるために薬を飲むように脳が指令を出す。だから飲み続けてしまう」

そんな薬を石嶺は開発していたの?

うちの薬って普通の風邪薬とか塗り薬とかじゃない…

この男一体何を企んでるわけ?

「脳っていうのはな、無限の可能性を秘めている。俺はそこに目をつけたんだ。脳がBFDXを飲むように指示することにより、脳はどんどん女性化していく。だが一つ気がかりがあった。それは男という同性の存在だ。男と接触すると男同士の会話をしてしまい、元々の男性脳が邪魔をしてきて女性脳の進行を遅らせてしまうからだ。しかしシャインには絶好の部署があった」

「宣伝部ね」

綾が誇りに思っている宣伝部を石嶺に利用されていたのが悔しかった。

「そうだよ。お前の部署は女しかいない、しかも化粧品だ。おかげで脳の女性化を加速させてくれたよ。次にお前は身体のことを聞きたいだろう?せっかくだから全部教えてやるよ」

完全に上から目線で言ってくる。

しかし全部聞き出せるチャンスでもあるので、綾は耐えながら話を聞いた。

「性同一性障害というのがあるだろう。脳と身体が一致していないという病気だ。だが思うんだ、本当に100%一致していないのか?俺の答えはNOだ。少なくても何%、もしくは1%未満かもしれないが、元の身体の脳が残っている。だから脳は指令を出さないんだ。だが、BFDXは脳を100%女にする。完全に女になった脳はそこで新たな指令を出す。身体が違うから脳と一致する身体にしろってね。その指令を受けて染色体はXXへと変化していき、それらが身体の構造を変えていき、最終的に完全な女になる。佐々木は見事に女になっただろ。田口もあれだけ男顔でごつかったのに女の顔になって華奢になった。近いうちに身体も完全に女になる。そしておそらく佐々木はもうBFDXを飲んでいない。完全な女になったことで脳がそれを必要としなくなったからだ。これが俺の作ったBFDXだ」

すごいだろうと言わんばかりに誇らしげな顔をしている。

腹が立つというよりも怒りがこみ上げてきそうだ。

しかしまだ謎は残っている。

「なんでこんな薬を作ったわけ?田口と佐々木を選んだわけ?」

「別に田口と佐々木じゃなくてもよかったんだ。俺は単に比較できるように男らしいやつと男らしくないやつが必要だっただけだ。それを社長に頼んだらこの2人が出てきた」

綾が社長を睨むと、ずっと写真を見てニヤニヤしていた小澤が気づき、咳ばらいをした。

「なに、どうせならまだ戦力にならない新人から選ぼうと思っただけだ。ちょうどいいのが2人いたからな。けど最初から宣伝部へ配属すると嫌がって辞めてしまうかもしれない。だから最初は営業部に配属したんだ」

自分の会社の社員なのに平然と利用する小澤が許せなかった。

すると、今度は再び石嶺が話始める。

「ところでなんでこんな薬を作ったんだって言ってたな。一つは真面目に性同一性障害の患者、女になりたい男を救うためだよ。もう一つの理由は社長命令だからだ。それ以上のことは知らない。俺としては面白い研究ができればなんでもいいんだ」

綾が再び小澤を睨む。

小澤は気持ち悪いくらいニヤニヤしながら話し出した。

「最近の女は生意気だ。自立だの女性差別だの、俺が若いころの女はもっと男に順応だった。秘書も生意気な女ばかりだ。俺はそのバカな女どもが嫌いでな、そのバカな女どもから金を巻き上げるために、シャーロットフランシスと契約したんだ。おかげで女どもは金をいっぱい落としてくれる。そして渡瀬、お前たちもアホみたいにシャーロットフランシスの虜になって宣伝してるんだからな。本当にバカばかりで助かったよ」

まさか小澤がそんな理由でシャーロットフランシスを

売り出していたとは思ってもいなかった。

石嶺以上に怒りが湧いてくる。

「けどな、最終的に俺が求めているのは俺に順応な女だ。しかし、今のどの女を秘書にしてもダメだ。すぐに意見を言い、余計なことをする。それでいて秘書ですって面してるのが腹正しいったらありゃしない!なんでそんな女ばかりになったと思う?社会がそうさせたんだ。男に交じって女が働くことで、昔以上に自分の意志を持ち、それを貫こうとする。そこで俺は考えた、どうすれば俺に順応な女が作れるか。それが田口と佐々木だ。あいつらは男とほとんど接触しない環境で女になった。まあ田口はまだ完全じゃないがな。つまり、男社会を知らない、純粋な女ということだ。その2人を俺の秘書にして俺の言いなりにさせるんだ」

言い終わると同時にゲスのような下心丸出しの笑みを浮かべている。

綾は悟った。

なんだかんだ理由をつけているけど、最終的には自分に順応は愛人がほしいだけだ。

私利私欲にもほどがある。

悠弥と尚を1年で元に戻す気なんて端からなかった。

そして、シャーロットフランシスを侮辱した。

わたしはシャーロットフランシスに憧れて入社したのに、

まさかこんなふざけた男が…絶対に許せない。

綾はわなわなと怒りで震えていた。

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