悠弥の変身
「明日の夜、女子会しない?」
「いいですね、やりましょうよ!」
綾がこの女子会が最後の思い出になるように企画したものだ。
その次の日に社長は帰国する。
予定では1年後に2人を元に戻す薬を渡すことになっているが、
本当に内面が女性化してしまい、尚にいたっては身体の変化もあるので
もう充分だと思っていた。
それにやっぱりこんなことは間違っている。
あの素直で可愛い2人を見ていて特にそう思うようになっていた。
約束が違うといわれて、来年の人員と予算倍増の話がオシャカになっても構わない。
わたしにはあの2人をもとに戻す義務があるんだ。
みんなが盛り上がっているなか、悠弥だけが寂しそうな顔をしていた。
それに気づいた朱里が話しかける。
「悠ちゃん、どうしたの?」
「女子会…僕は男だから…」
大丈夫だよ、明日ちゃんと悠ちゃんも仲間になれるから。
それでこの件はきれいに終われる。
「そんなこと気にしなくていいから、悠ちゃんも参加するように」
綾にそういわれて悠弥は嬉しそうに「はい」と返事をしていた。
綾は悠弥を本当の仲間にするプランをちゃんと考えていた。
もちろん他のみんなもそれを知っている。
楽しみにしていてね、悠ちゃん。
そして翌日、いつもより少し早い退社となり、全員で女子会の会場へ向かった。
移動したときに開いてくれた歓迎会以来のみんなとの飲み会。
あのときは苦痛だったけど、今は楽しみでしかたない。
「ここだよ」
そこは居酒屋のような雰囲気の場所ではなかった。
店内はガラス越しになっていてドレスがたくさん並んでいる。
とりあえずみんなが中に入っていくので、悠弥は一番後ろを歩いた。
「すいません、予約していた渡瀬です」
「お待ちしておりました」
飯野というネームプレートを付けた店員が接客をしてくる。
そのは飯野は「あれ」と首を傾げて綾に声をかけた。
「みなさんひょっとしてシャーロットフランシスの…」
「そうですけど…」
「やっぱり!みんなキレイでどこかで見たことあるなって思ったんですよ!わたしシャーロットフランシス大好きで」
飯野は目を輝かせながら興奮していた。
「ありがとうございます。そういってもらえて光栄です」
綾が丁寧にお礼を言い、みんなも笑顔でお辞儀していた。
シャーロットフランシスには魅力がいっぱい詰まっている。
それに携わる仕事ができて、悠弥は誇らしく感じた。
「ではみなさん、お好きなドレスを選らんで、存分に女子会を楽しんでください」
飯野がニコニコしながらいうと、みんなドレスを選び始めていた。
悠弥はなんだかよくわからないので、悠弥は小声で未来に聞いてみた。
「ここってどういうところなの?」
「ん?ああ、この中から好きなドレスを着て女子会ができるの。わたしも初めてなんだけどね」
ここに並んでいるドレスはすべてレンタルだった。
そういうことなんだ!あ、でも僕は着れない…だって男だから…
こんな思いするなら来なきゃよかった…
悠弥は一人落ち込み始めていた。
そこへ綾がやってきた。
「悠ちゃんはどれにするの?」
「どれにって…僕は男だから…」
「そうなの?わたしたちてっきり悠ちゃんは女の子だと思ってた」
女の子という言葉が頭の中でこだまする。
「我慢しなくていいんだよ。素直になって」
綾が優しく言ってくる。
みんなもニコニコしながら悠弥のことを見ていた。
素直に…僕は…
悠弥は自分の気持ちに向き合った。
自分でもよくわからないうちに、みんなと仲良くなりたくなった。
名前で呼び合うようになりたいと思っていた。
呼び合えるようになって仲良くなれて、こんなに嬉しいと思ったことはなかった。
女性しかいない輪に入れたことで、すごく落ち着くようにもなった。
最近では、いつの間にかコスメにも興味を持ち始めていた。
女性の服を見て可愛いなぁと眺めることもざらだった。
そして、女性が憧れるブランド、シャーロットフランシスの仕事をしていることが
誇りでもあり、栄光でもあった。
なんでそう思うようになったんだろう、それは自分が…
「僕は…女です…」
悠弥が振り絞るようにそう呟くと綾はニコッとしながら
「知ってるよ」と言ってくれた。
みんなもずっとニコニコしている。
こんな僕を女として見てくれるんだ…
嬉しくて涙がこみ上げてくる。
「ほら、泣かないの」
「はい…」
悠弥は涙を拭いて笑顔になった。
でもやっぱり…
「ドレスは…着れません…」
「なんで?女の子なんだから着ていいんだよ!ねぇ?」
綾が飯野に聞くと「もちろんですよ」と笑顔で言ってくれた。
その気持ちはすごく嬉しいし、悠弥も本当は着たい。
けど…
「僕も尚みたいに可愛かったら喜んで着るけど…僕は可愛くないから…」
そう、悠弥は外見がガッツリ男だった。
着ても似合わないし、そんな姿でレストランなどに移動したら
際物みたいな目で見られる。
それが怖かった。
「そんなこと気にしてたの?大丈夫だよ、女の子は誰だって可愛い格好する権利があるんだから。それにね」
綾はバッグを漁り、ウィッグを取り出した。
「これ、悠ちゃんのために用意したんだよ。可愛いドレス着て、ウィッグして、シャーロットフランシスのコスメでメイクするの」
それを聞いただけで悠弥の目はキラキラしていた。
ドレス着たい、メイクもしたい、でも…
「その恰好で移動したらまわりの目が…」
「移動なんてしないよ、ねえ飯野さん」
「はい、このまま系列店へ移動しての女子会と、ここの奥にあるホームパーティールームで女子会のプランがあるんですけど、渡瀬様はホームパーティールームをご予約されていますので」
綾はその辺もちゃんと踏まえていた。
今の悠弥の性格上、女と認めても外見に自信がないと言い出すはず。
そのためにホームパーティー形式にし、ドレスも着れるようにした。
髪型もまだ男っぽいのでウィッグを用意した。
「まだ何か問題ある?」
綾は少し誇らしげになっていた。
「あるよね、あと一つ」
そういって、今度は尚がやってきて、袋を渡してくれた。
中を見てみると、レディースの下着だった。
「尚…」
「わたしも悠と同じだったからさ。ドレス着て男物の下着なんて最悪じゃん?」
みんながここまで自分のためにしてくれたのが本当に嬉しかった。
「綾さん、尚…それにみんなも…本当にありがとう!」
「お礼なんていいから早くドレス選ぼうよ」
「うん!」
悠弥はみんなと一緒になってドレスを選んだ。
「これ可愛い」「こっちも可愛い」とはしゃぎあっていると、七瀬が提案してきた。
「みんなピンクで統一しない?」
「それいいかも!」
みんな賛同し、ピンクのドレスを着ることになった。
それぞれ決まったところで早速着替え始める。
悠弥はトイレへ行き、下着だけ先に着替えることにした。
ブラトップにショーツ、前の尚と同じ組み合わせだ。
その辺も尚はちゃんと考えて選んでいた。
下着を着替えてからみんなのところへ行くと、すでに着替え始めていた。
「悠、遅いよ」
「ごめんごめん」
志穂に言われ、悠弥も服を脱いでいく。
ちょっぴり恥ずかしかったが、みんなとこうやって一緒に着替えられると
身体は違うとはいえ、自分が女だという実感が湧いてきて嬉しくなる。
すると、麻美が突然声を上げた。
「尚ちゃんブラしてるの?」
「はい、Aカップのなんですけど、昨日くらいからちょっときつくなってきたんですよね」
綾は思わず絶句していた。
尚の胸はちゃんとブラに収まっている。
まさかこんな短期間で成長するものなの…?
悠弥もそれを凝視し、思わず呟いていた。
「尚いいなぁ…」
女と自覚したことで、悠弥も女の身体になりたいと思うようになっていた。
「悠もきっとなるから大丈夫だよ。ね、綾さん」
「そ、そうだね」
今はそれしか答えられなかった。
悠弥はそうなったらいいなと思いながらドレスに着替えた。
いざ着替え終わると、一気にテンションが上がってくる。
鏡を見ようとしたら綾が「ダメ」と言ってきた。
「まだ悠ちゃんはメイクしてないでしょ、鏡を見るのはメイクしてから。こっちにきて、最後に魔法をかけてあげるから」
「魔法…?」
それを聞いてみんなニコニコしていた。
尚は悠弥に教えてあげた。
「メイクっていうのはね、女の子にとって可愛くなる最後の魔法なの。わたしもその魔法で本当に女の子になれたんだよ。だから悠も魔法をかけてもらうの」
なんて素敵な例えなんだろう。
「魔法…かけてください」
「もちろん、いらっしゃい」
綾は手際よく悠弥にメイクをしていく。
悠弥はその間、ずっと目をつぶってドキドキしていた。
これが終わったとき、僕も本当の女の子になるんだ…
「悠ちゃん、目を開けて」
悠弥はゆっくりを目を開ける。
いつもより瞼が重く感じる。
マスカラがついているからだ。
「どう?魔法はかけたよ」
「これが僕…」
正直、まだまだ男っぽさは残っている。
やはり尚のようにはならなかった。
それでも悠弥は嬉しかった。
可愛いドレスを着て、ばっちりメイクをして、ウィッグのおかげで髪型も女の子だ。
「魔法をかけたんだから「僕」はないでしょ」
そうだ、女の子なのに「僕」なんておかしい。
「わたし…」
「そうだよ。悠ちゃん、ようこそ、わたしたちの世界へ」
綾もみんなも笑顔で悠弥を迎え入れてくれている。
悠弥はにっこりして「はい」と返事をした。
このときから、悠弥の内面は完全に女性化した。