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南の国のタイムトラベラー  作者: 麦食くま
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8、『タク』という男について

正一と益男の2人がタクという男の家のある部屋に案内されて言われるがままに座ると、水の入った器が2人の前に置かれる。「嵐で流れ着いたんだな。そりゃ大変だったなあ。まあとりあえず水でも飲んで、この部屋でゆっくりしたまえ」とタクは丘のところであった時とは見違えるような笑顔で話しかける。「ありがとうございます」素直に礼を言う正一「ありがとう」少し遅れて益男も続く。頂いた水を一息に飲んだ正一は、早速タクに話しかける。「タクさん。最初にお会いしたときに確か、この土地の者ではないと言われましたが、ではあなたも元々別の土地から嵐で流れ着いたのですか?」「ハハッハハハハ!、俺は嵐ではないよ。普通にルソンから来たんだが」

「おにぃちゃん。ルソンてどこ?」益男は正一にしか聞こえないような小さな声で質問する「ルソン・・・フィリピンかあ」「フィリピン、知ってるよ台湾の南にある島」「そこで何を2人でしゃべっている?ルソンのことを知っているのか」タクは2人の即席兄弟の話題に入り込んでくる。「あ、ええ名前だけは知ってますが行った事ないですね」「そうか、お前たちが住んでいたという琉球より南側にある島だ。俺はその島にある国で生まれ、貿易の仕事ををしているんだが、このムラカにくると南蛮のものも多く入るので、こっちに常駐したほうが商売が楽と思って来ているんだ。「ナンバン??」意味がわからず驚いている益男に小さく「それはヨーロッパのこと」と小さくつぶやく正一。

「なるほどタクさん。それでここの人ではないということなんですね」「ま、そういうことだ」「じゃあ、タ・タクさんはいつからここに」か細い声で益男が質問する。「うん、ここに来てもう3年になるなあ。ようやく商売のほうも落ち着いたから、そろそろ家族をこっちに連れてこようと思っているんだ」「家族と離れ離れじゃさびしいからですね。でもルソンの拠点は誰に任せるの?」「ショウイチさん鋭いなあ。実はルソンはもう捨てようと思っている。このムラカのほうが、商売がやり易い」しかし、タクのこの答えに引っかかりを感じた正一がさらに突っ込む「でも、生まれ故郷を自分で捨てるのは?」正一は元の時代に戻れないかもしれない事が頭をよぎった。


正一の鋭い口調ながらも怯えた目を見ながら、タクは声のトーンを下げる「実は、商売もしやすいこともあるんだが・・それ以上にあの国には未来がない」「どういうことですか?」「これは、俺も親父が生きていたときから聞いた話なんだが、もともと俺たちの先祖はルソンではないんだ」「はあー」突然タクが壮大な話を始めようとしている気がした正一は、急に疲れを感じ始めていたが、タクはお構いなしに話し続ける。「俺たちの先祖は、このムラカと陸続きにある明国のあたりに住んでいた。そこにあった国の貴族だったが、ある大国に滅ぼされてしまった。そして船で逃げてきた先にあったのがルソンという島。そこで先祖たちは小さな国を作った。

ところが、その国が今度は、別の島にあった国の影響を受けて、その国の宗教を取り入れてしまった。確かアラーというものを信じる宗教だ」「イスラム教?」正一は心の中でつぶやく「そこまではまだ良かった。今度は南蛮の人がやってきたが、あろう事かその南蛮と戦って殺してしまった奴がいる。その結果、彼は英雄とみんなから喝采を浴びた。だが、南蛮の文化はここにくればわかるが、レベルが違う。いつかまたこのムラカに少し前まであったという王国同様に彼らに滅ぼされる。だったら戦争がいつ起きてもおかしくないようなところにいるより、取りあえず平和なこちらに来たほうが良い!」と、気がつけばタクの語気が強くなっている。「あ、あのうタクさん、ちょっと疲れました」と弱々しく正一が話す。「いや、話しすぎたな悪かった。よしとりあえず休め、また後でな」と言い残してタクは部屋を出た。

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