7、ファーストコンタクト
「兄ちゃん僕は沖縄のほうがいい。去年行ったことがあるから」と琉球出身者のほうを希望する益男。「そうか、じゃあそうしよう琉球王国から来た商人ということで」「でも」益男の声が急に弱くなる「商人とかしたことがないからばれる気が。僕のいとこは実際に商売していて会社員の僕の家とは生活習慣が違う」益男に意外な盲点を衝かれ少し狼狽する正一。「そ・そうか、それはまずい。俺も商売知らないし、よく考えたら同業者もいるかもしれない。彼らにあったら直ぐにばれる」「兄ちゃん!2つの案を合わせたら。沖縄の漁師が流されたとか?」「なるほど、それはいい」益男の提案にうれしそうな正一。「よし!さらに設定を加えて嵐のせいで記憶が無くなったと」「記憶が無くなるってどういう事?」「つまり、細かい記憶が喪失したということにするんだ。でないと、もし細かいところを突っ込まれた時にうまくごまかせる」説明する正一だが、益男は少し戸惑う「良くわからなくなってきたけど、兄ちゃんに任せる」「それでいいよ。だから益男君はあまり声を出さずに黙っておいたほうがいいよ。さて、あと何か決めておくことは無かったかなあ」と腕を組みながら考え事をする正一。「兄ちゃん、遠くから音がするけど近づいてくる」益男の声に正一の顔色が変わった。「人か動物か?いずれにせよ俺から離れるな」そういいながら音が出ているほうに体を向ける正一。益男はその後ろでやや震えている。「おい!人の声がするぞ」遠くのほうから声が聞こえ、地元の人とわかった正一と益男。「いよいよ本番だ。大丈夫、俺に任せておけ」と益男に自慢げに語るも、正一の体の震えが止まらない。目の前に落ちていた棒を拾って、音の方向を睨み付ける。「やっぱり人がいる。子供を入れて2人だ」という声がしたかと思うと、3人の大柄な男の影が見える。正一の体の震えが大きくなり、益男は今にも泣き出しそうな表情になる。
「ベアー助けてくれ」心の中で正一が叫ぶがベアーが出てくる気配は無い。「お前たち、見ない顔だな」3人の中の真ん中にいた男が声を上げる。「お・俺たちは流されたんだ」震えながら高めの声を出す正一。「流された?嵐で流されたのか」男の声は対照的に冷静で低い。「そ・そうだ。俺たちは琉球という国にいた。魚を取ろうと船に乗ったら大雨でそれから気がついたらここにいるんだ!」演技ではなく、実際に狼狽している正一はできる限りの大声で叫ぶ。「わかった大丈夫だお前たちを殺しはしない。実は俺もこの土地の者ではない」男の冷静な声に少しずつ震えが納まる正一。益男は後ろ正一の足をつかんだまま。「俺も商売で別の国から来てるんだ。俺の名前はタクという。この2人はここで雇っている使用人だ」タクと名乗る男の声に対して正一の震えが収まる。「タクさんですか。俺はショウイチ。後ろにいるのは弟のマスオ」と自己紹介する。「そうか、よし細かい話は俺の家で聞こう。怖がるな、俺についてきなさい」
正一は、タクと名乗るこの男のことをまだ信じていなかったが、タクの他に2人の屈強な男がいたことと、少なくともコンタクトが可能な相手ということがわかったので、とりあえず男を信じてついていくことにした。その間、益男は正一の手を離さなかった。ベアーからもらった荷物を即座にまとめそれを持って、タクの後を歩く。道中はあえて何も話さない。丘から下に降りて町に入る。正一と益男はその雰囲気を恐る恐る見渡した。街中を歩くこと15分。すると、ある建物の前でタクが止まった。「ここが俺の家だ、さあ入れ」との声。いわれるままに中に入る正一と益男。「そこに座れ」とタクに言われるがままに、建物の中にある部屋に入ってそこに座る。