3、「タイムトリップ」という現実
「実は君たちはタイプトリップした」「え??」突然現れた映像に映る老人の言葉に一瞬意味がわからない黒山正一「そうじゃろう。つまり、君たちは1990年にいた。しかしこの時代は1535年じゃ」「・・・」黒山は声が出ない。横にいる橋本益男も事の重大さに気づく。「いや、あんたの名前わからないけど、1535年というのは信じられない。まずこの南国のようなところ。戦国時代の日本がこんな暑い南国なんて聞いたことがない。氷河期以前の時代とかの大昔の間違いではないのか?」黒山はわけのわからない現実の不安をもみ消すように思いついた知識を、映像の老人に投げかける。「フフフフ、まず私の名前はベアーだ」老人の口が思わず緩む。
「ベアー!熊ちゃんだ!」突然甲高い声の主は橋本益男。「だって僕、少し前まで通っていた英語の教室で教えてもらったんだ」と小学生の橋本は得意げに黒山と老人に語る。「ほう、良くわかったなあ橋本君」「ベアー!なぜ俺たちの名前を」黒山が怪訝そうな表情をすると老人の笑みは納まり。「黒山君、先ほど君たちがそこで自己紹介をしてたからね」とあっさり答える。「さて、本題に戻すが君たちはここが日本の東京の過去と思っているが違う。ここは日本ではない。ムラカという町のはずれだ」「ムラカ。聞いたことがある」「さすがだな黒山君。かつて君が数年間住んでいた国。つまり1990年ではマレーシアという国になっている。で、ここはマラッカという町である」
「マラッカ・・・」黒山は自分が頭の中で考えていた場所にきた事に不思議な思いをめぐらせる。「ベアー・・・話はわかった。ところでなんで俺たちがこんなところに転送されたんだ?それにこんなところにいても仕方がない。もう一度1990年の東京に俺たちを戻してくれないか?
」といいながらベアーと名乗る老人の映像に向かって頭を下げる黒山昭一。横にいた橋本益男も真似をするように頭を下げる。「うん、そうしようといいたいところだがそれは無理だ」「なぜ?あんたが俺たちを転送したんだろう」頭を上げると再び怒りを抑える黒山のつぶやき。「黒山君たちの気持ちはわかる。だがこれは偶然が重なって起こってしまった。わしとて手が出せぬ」
「結論を言えば君たちが赤いボタンを押したからだ。」「ベアー!わけのわからない事をいうな!そんなものをつけていたからだ。あったら誰でも気になるだろう!!」黒山の怒りの声が凄みを増す。「だが、黒山君さっき見ただろう。今はそのボタンはない。あるタイミングで数十秒間だけ登場するもの。偶然に君が触れてしまったんだ」「はあ?おい貴様いい加減にしろ!」ついに怒りが頂点に達した黒山はベアーに殴りかかろうとする。が、所詮映像相手では何の効果もない。「冷静になりたまえ。そんなことをしても無駄だから」対照的に冷静なベアーは話をを続ける。「君たちに話しても理解できないが、この世界君たちの想像を超える物が多数あるんじゃ」
「異次元か・・・」冷静さを取り戻した黒山がつぶやく「そうじゃ実はわしもその異世界の存在であるが。実はそれ以上の次元の世界もあるんじゃ。実はその世界のある存在の意思で今回のことは動いているのだ」「ある存在ってなんか神様みたい」まだ子供の橋本がはしゃぐ「そうじゃな神のような意思が働いた。だから君たちを元に戻すことはできんが、君たちをこの時代でサポートすることができる」「サポート。いったいどういうこと」「黒山君、橋本君。まもなくわしはいったん消える。この後君たち2人で生きなくてはならないが、困難があればそのつど出てくる。だからまずこの熊は手放すな」黒山と橋本は思わず映像の下に横たわるピンクの熊を見た。