2、南の国への転送?
黒山は、とりあえず周りを見る。上着を着ていたが、暑くて絶えられずに脱ぎ捨て、Tシャツ姿になる。空を見上げると青々とした空の上に目を押しつぶすような灼熱の太陽が照り付けている。
夏?いやこれはどこか南の国に来たみたいだ。俺のいたマレーシアとか。先ほど食べた料理の国”タイ”とかそんな感じだ」そう言いつつ、小学生が見える範囲を歩いてみる。「うん、やはりそうだ。この木々は日本らしくない。南の国に来ている。でも、ここは一体どこなんだ?」黒山はもしや夢ではないかと考え、頬をつまんだり、夢ならば声が出にくいとばかりに声を出す。だがつまめば痛いし、声も普通に出る。「これは夢ではない」黒山は、今起きている事への恐怖心が急速に広まった。
「とりあえずどこなのか確認しよう」この時代は1990年。当時は、スマホはもちろんのこと携帯電話も通話機能だけしかなく、かつ普及し始めつつある時代で、黒山はまだ持っていなかった。ということで手探りで探すしかなく、とりあえず今の場所を確認しながら少し先に進んで行く。2・3分ほど歩くと、遠くからわずかながら人の声らしきものが聞こえる。
「人がいるのかもしれない、助けてもらおう」しかしその直後そのことは無意味であることに気づいた。
声はするも、日本語でも英語でもない未知の言語。黒山は日本語と英語以外は解らないので戸惑った。しかしその次の言葉を聞くと、どこかで聞いたような音感にも聞こえる。でもそれが何なのかわからない。「そうか、一人だから不安なんだ。そうだあの子を起こそう。そうすれば一人で悩むより何か知恵が生まれる筈」そう考えた黒山は、咄嗟に小学生が倒れている場所に戻ってゆっくりと起こすと、耳元で「おい、大丈夫か」と叫ぶ。小学生は最初は反応しなかったが、徐々に体が動いて目を覚ます。「目が覚めたか」「ん?暑い。おじさん誰?」明らかに異質なところにいることに気づき、黒山を見ながら怯えている。「あ、怖がらないで俺はお前の味方。まずお互い自己紹介しよう。俺は黒山正一今年20歳。君は?」とにかく小学生を落ち着かせるために精一杯丁寧に語りかける黒山にようやく安心した小学生が恐る恐る答える「ぼ・ぼくは、橋本益男。10歳」「橋本君か、改めてよろしく。実は俺も一体何が起きたのかわからないんだ」黒山の言葉に、冷静さを取り戻しつつうなづく橋本少年。「黒山のおじさんもここがわからないの?たしか雨の時におじさんとぶつかって、突然光って・・・」「そうだ、うん君がいきなり来てぶつかった。その時は何もなかったが、そのときにこれを見つけたんだ」と黒山は橋本少年の横に転がっているピンクの熊を拾い出した。「そして、この熊の後ろにあった赤いボタンを押したら、突然光りだして、気がついたらこんなジャングル見たいなところにに来てしまったんだ」黒山の言葉に不思議そうな橋本少年。「ということは、もう一度赤いボタンを押したら元に戻るのか?」と熊の後ろを探る黒山。「あれ、ボタンがないなあ」手探りで見つからず熊を後ろに向けてくまなく見るが、やはり赤いボタンがない。「なぜ?ボタンが・・・とれたのかなあ」黒山が徐々に焦ってくる。「おじさん焦らないで。なくなったもの仕方ないよ」とむしろ黒山以上に冷静になる橋本少年・すると熊の頭から光が出てくるかと思うと人影が現れた。「な、なんだあ」あわてて熊を手から離す黒山。人影は徐々に姿が見え始め、仙人のような老人が姿を現した。
黒山は腰を抜かしつつ必死に、人影から後ずさりする。橋本少年も怯えながら黒山の後ろに隠れる。「これこれ、恐れるではない。今から君たちの状況を説明するから」人影の老人は丁寧な
日本語で話しかけ始めた。