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第3話 王子殿下


 ダルクは王宮の主要な場所を一通り案内し終えると、渡り廊下の真ん中でイルーシャに待つよう言い残してどこかに行ってしまった。

それから5分ほどが経過したのち、すぐに宮殿の方から近衛兵が二人ほどやって来るのが見えた。

双方とも近衛兵を示す赤い肩章をつけており、国鳥の羽根で刃先を飾った槍を一本ずつ手にしている。


「クロード王子殿下がお待ちだ。すぐに来い」


無愛想な低い声に促され、イルーシャは二人の兵に挟まれながら宮殿の内部に足を踏み入れた。




――☆――☆――☆――




さすがは一国の王家が住まう王宮とあってか、内部の警備は並大抵のものではない。人目のつく、つかないにかかわらず、至る所に兵士が並び立っている。

それに広大な面積を誇るエントランスの床はすべて大理石で覆われていて、中央の階段の両端に置かれた鷹像がこちらを睨みつけているのに気づくと、イルーシャの緊張は最高潮に達した。


(王子殿下ってどんな人なんだろう)


相手は王族。

なにぶん一般人がお目にかかれるような人ではないので、どんな人なのか見てみたいという興味はある。

けれども、偽エレナとして出仕していることに後ろめたい気がして乗り気はしない。


悶々としながら階段の一段目に右足をかけたときだった。

前方を歩いていた近衛兵の男らが急に歩を止め、なにかを感じ取ったようにパッと脇に避けて敬礼のポーズをとった。


「おや、こんなところで仔猫ちゃんを発見」


直後、上階からそんな猫撫で声が降ってきて、イルーシャの視線は自然と上方に向けられる。

すると、階段の手すりから身を乗り出して階下を眺める若い男の顔が映った。

歳はダルクと同じで20代半ばくらいだろうか。

ただ彼とは違って上階の男は少し長めの金髪で、女性のような整った顔立ちをしている。


「おはよう。初めまして――という方が正解かな」


男は階段を下りてきてイルーシャのすぐ目の前まで来ると、そう言ってニコッと笑んでみせた。

よく見れば白い軍服を纏っている。しかも見たことがないくらい沢山の勲章が胸に並んでいて、ただの衛兵でないのは確かだ。


(もしかして――)


近衛兵の敬礼といい、男の胸に光る勲章の数々といい。まさかこの人が――

なんとなく嫌な予感が脳内を席巻し始める。そんなとき、イルーシャの脇に立つ近衛兵の一人が口を開いた。


「クロード王子殿下、例のエレナという女性を連れて参りました」

「ほほう、これが100年に一人という女か」


近衛兵から『クロード』と呼ばれた男は、品定めをするかのようにイルーシャの顔をじっくりと覗き込んでくる。

お互いの顔と顔の間は10センチもない。ともすればキスされそうな至近距離だ。


(この人が王子!?)


近衛兵につられて敬礼しそうになるも、蛇に睨まれた蛙のように手足が全く動かない。

一方の彼は数秒ほどイルーシャの双眸を見つめた後、何度か意味深な首肯をみせ、最後には満足げに口元を綻ばせた。


「なるほど、確かにウワサ通りの女だ。わざわざ俺の方から迎えに行った甲斐があった」

「あの………」

「遠路はるばる王宮へようこそ。愚問だが君の名はエレナで合ってるよな?」

「は、はい!」


返事を耳にして、王子のイルーシャを見る目が少し変わった気がした。言葉にするのは難しいけれど、眉が少し動いたからなんとなくそんな感じがする。

もしかして替え玉だと気づかれたのだろうか……

ふと嫌な予感がしたが、当の本人は頓着した様子はなく、


「ここから先は俺が連れていってあげるから」


と、踵を返して「付いて来い」と言って階段を上り始める。

イルーシャはその背をぼうっと眺めていたが、脇に立つ二人の兵士が目配せで「早く行け」と訴えかけてくるので、押し出されるようにして一歩を踏み出した。




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