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第25話 募る想い



「待たせてすまない」


クロードは展望台の上で向かい合うイルーシャとアイリーンに向かって下から手を振る。その後少し急ぐような足取りで階段をあがってくると、彼はアイリーンに向かってわずかに会釈した。


「せっかく早く来てもらったのにこちらが遅れてしまった」

「とんでもございません。こちらの可愛い女官さんがわたくしのわがままに付き合ってくれていたのでとても楽しかったです」

「エレナが?」


彼の視線がイルーシャに移る。しかしすぐに目はアイリーンの方に向いて、イルーシャも二人を邪魔しないようそっと後退する。


「挨拶が遅れた。俺はクロード。今日は我が離宮にようこそ」

「こちらこそ初めまして、アイリーンです。本日はわたくしのような者をお招きいただき感謝いたします」

「挨拶はこの辺にして、こうして無事に会えたことだし向こうでゆっくり話し合わないか?」

「ええ、ぜひお願いいたします」


ペコッと礼儀正しく一礼するアイリーンの手を取り、クロードは彼女をエスコートしながらゆっくりと階段を下りていく。


彼は、前はあれほど会に出ることを嫌っていたくせに、参加してみるとそうでもない顔をしているように見えて、後ろで見守るイルーシャは懸念に似た気持ちを覚えていた。




――☆――☆――☆――




 クロードとアイリーンが共に手を取りながら戻って来ると、集まったギャラリーは総じて笑顔で二人を迎えた。


そもそも今日の園遊会は国内融和といいつつ、結婚するかもしれない二人の顔合わせの意味合いが強い。

だから二人が思った以上に仲良さ気にしているというのは周囲の安心材料でもあった。


でも彼らの事情とは裏腹に、イルーシャは笑顔を繕いながらも密かに焦っていた。

侍従長を挟んでアイリーンと親しげに話すクロードはとても楽しそうで、会話が弾んでいるのか彼女の方も口に手をあてて微笑んでいる。


アイリーン嬢はとてもいい人だ。少なくともイルーシャはそう思っている。

だけどそうだからこそ、二人が仲良くしているのを見るのは余計に辛い。



やがてクロードらが周囲を引き連れて移動を始めると、イルーシャは他の城中女官の後方に下がって二人から遠ざかろうとした。

とはいえ王子付きの女官なのであまり離れるわけにはいかず、呼ばれたら近くに行くくらいの気持ちで付いて行ったが、結局イルーシャが呼ばれることは一度も無かった。




 夜になると客人(アイリーン)をもてなすため、宮殿にギャラリーを集めて舞踏会が開かれた。

当然、クロードが踊る相手はアイリーンただ一人。

彼女は夜になるとさらに美しくなって、お色直しをして会に姿を現したその姿はまるで夜蝶のようだった。

艶やかな唇ときめの細かい美肌にはイルーシャですらうっとりしてしまうほどで、手を繋いで和やかにステップを踏む二人を見れば誰の目にもお似合いのカップルに映る。


幸せそう。

イルーシャは遠目にクロードを見てそう思った。


彼の優しそうな笑顔に応えるようにアイリーンの口元が綻ぶ。

二人の息、表情、動き、どれもが一致していて、心と心が通じ合っているように見える。

すると遠くのクロードが一瞬だけこちらに視線を投げかけたような気がして、イルーシャは思わず俯いた。


(きっと運命の人同士なのね)


悔しい気もするけれど認めざるを得ない。それでも心のどこかに現実を受け入れられないでいる自分がいる。

妬いているのだろうか。願っても叶うはずがないのに。

身分も容姿も礼儀作法もアイリーンには何一つとして及ばないのは分かっている。


(なんてバカな期待をしていたのかしら)


イルーシャは心の中で淡い期待をもつ自分自身を蔑んだ。

なぜ自分が彼の一番のお気に入りだと思い込んでいたのだろう。一国の王子とあろう者がたった一人の女を――まして下賤な身分の者だけを愛するわけがない。

むしろそんなことをしてしまえば一国の恥だ。


もう見たくないと思い、現実逃避するように目を伏せる。

イルーシャには今の自分の気持ちが理解できなかった。言葉に言い表そうとすると、急に靄のようなものに包まれて言葉にならない。



もしかしたら、私はここにいるべきではないのかもしれない。



ふと脳裏にクロードとアイリーンの幸せそうな表情がよぎって、彼女の心はひどく傷んだ。




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