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第23話 懸念



「まさかまた仮面舞踏会ですか?」

「いいや、秋の園遊会のことだ。言うなれば王室恒例の儀式みたいなものかな」

「――というと偉い方が集まってお茶会とかするアレですか」

「女官のくせに随分アバウトにしか知らないんだな。まあ園遊会といっても目的は親睦を深めるだけとは限らないが」


イルーシャは参加したことが無いのでイマイチ想像できないが、ルシャトリア王国では春と秋に園遊会が開催されることは辛うじて知っている。

開催の目的は言うまでもなく親睦外交・国内融和で、国内貴族のみならず、ときには他国の王室を招くこともある。


しかし今回はどうも事情が異なるらしく、


「園遊会という名の見合いだ」


と、クロードは吐き捨てるように言う。


「お見合いをなさるんですか?」

「……レーベ侯爵の嬢と」

「レーベ?」


レーベ侯爵というとルシャトリアでは有名な貴族の一族だ。

家は財務官や施政官など国のブレーンを占める官僚を輩出してきた名門でもあり、財力、地位ともに不動のものとして確立している。

そんな名家の御令嬢とのお見合いをするのに何が不満だというのだろうか。


「父上は俺を次の王に据えるために身の回りを固めたいんだ。次期国王の地盤が不安定だと国が傾くおそれすらあるからな」


政治に疎いイルーシャには王子の言っていることがチンプンカンプン。

でも彼が女性とお見合いをするという点だけは理解できた。


(王子殿下がお見合いということは、政略結婚するということなのかな……)


うわの空でそんなことを考えていると、クロードの美顔が目の前に迫った。


「もし俺が君以外の女と結ばれたらどう思う?」

「そ、それは……とてもおめでたいことだと思います」


返事をしてからすぐに自分はウソをついたと思った。

王子の傍に仕える女官が、差し出がましくも王家の事情に口を挟むことは許されないのはわかっている。

だけど――


「イルーシャは俺のことを祝ってくれるんだね」


明るい前向きな言葉とは裏腹にクロードはちょっと悲しそうな顔をする。


「本当のことを言うと、もしそうなれば少し寂しいかもしれません」

「寂しい?」

「いえ、あの、もうここでは仕事ができなくなるかもしれないなと思って」


素直に“行かないで”と言えたらどんなに楽だろう。


彼が自分のことを好きと言ってくれているのに、彼の前では恥ずかしくなって言いたい言葉も濁してしまう。


俯いたそのとき、イルーシャの額に彼の唇がちゅっと触れた。


「そうはならないようにするから安心していいよ」

「あ、あの、殿下?」

「さあ今日も仕事が山積みだ。早く全部片付けよう」


彼はイルーシャの肩にポンポンと触れてから、いつものように机の前で仕事を始めた。


最近は議会からあがってきた軍に関する法案の処理が多く、彼はときどき思案しながらもテキパキと手を動かして書類にサインをしていく。

普段の王子ならイルーシャにお茶をねだったり、何でもない話に花を咲かせてサボるところがあるのに、今日は珍しく集中しているようだ。


でも本当は物思いにふけっているように見えて、乱れる感情を押さえつけるために仕事で昇華しているのだと思うと彼女の心は複雑だった。




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