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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

正義令嬢VS悪役令嬢シリーズ

悪役令嬢VS正義令嬢~地獄の底からごきげんよう編~

作者: 白銀天城

 悪あるところに正義あり。光あるところ必ず闇がある。正義と悪は表裏一体。どちらも絶えることはない。それは、悪役令嬢と正義令嬢の戦いもまた、絶えることはないという悲しき宿命を意味していた。


「どうやらこの勝負、私の圧勝で閉幕のようですわね。降参なさいませ」


 古代より世界の覇権を賭け令嬢ファイトが行われてきた宮殿『ビューティー・オブ・ヘブン』の中央。完全高級素材で作られた四角いリングでは、正義の定めに殉じる正義令嬢と、悪の華を咲き誇らせる悪役令嬢のルール無用の残虐ファイトが繰り広げられていた。


「私共も腐っても悪役令嬢! 正義令嬢との戦いにギブアップなどありえませんわ!」


「そうですか。致し方ありませんわねでは地獄までの旅路……エスコートいたしますわ!!」


 正儀令嬢の中でも天才中の天才にして若きエース、マリアベル。彼女が悪役令嬢を掴み、高級シルクのロープをバネに天高く飛び上がる。


『こっこれはまさか! 出るか! 伝家の宝刀!!』


 司会進行役のセバスチャンの叫びがマイク越しに響く。セコンド令嬢も、観客令嬢もみなこれからなにが起こるのか知っていた。それはマリアベルの得意技。


「お喰らいなさいませ! 令嬢パワー全開!! 婚約破棄ハリケーン!!」


 婚約破棄ハリケーン。それはまるで嵐のように過ぎ去る愛と恋。友情と愛情。身分の差。望まぬ婚約。そんな令嬢必須の青春を力に変え、高速回転しながら相手をダイヤモンド製のリングに突き刺す必殺技である。


「やれやれ、ドレスが汚れてしまいましたわ」


 純白のドレスについた埃を払いながら、満足気に勝利のテンカウントを聞くマリアベル。純金製のポールに背を預ける所作の一つ一つから育ちの良さが伺える。


「オーッホッホッホ! やりますわねマリアベル。それでこそわたくしが倒すに相応しいお嬢様ですわ!」


 実にお嬢様らしい高笑いが宮殿にこだまする。


「どちら様ですの!?」


『あ、あのお方は! 悪役令嬢の最終兵器! 漆黒の薔薇こと『ローズマリー』様だああぁぁ!!』


「地獄の底からごきげんよう。悪役令嬢ローズマリーと申します」


 闇の中から闘気を纏って現れるローズマリーは黒髪黒目に真っ黒なドレス。色白な肌で胸に咲く一輪の赤いバラ以外の服は全て黒という悪役令嬢を体現したような出で立ちだった。


「ふっ、最終兵器を名乗るだけあって凄まじい令嬢パワーですわ。並の令嬢ならリングにあがることすら出来ずに即死しかねませんわね」


「お褒めいただき恐縮ですわ。挨拶代わりにこちらをどうぞ」


 マリアベルのいるリングに向けて、一輪の白いバラを投げる。


「何のつもりですの?」


「まだ疲労が残っているでしょう? そのバラは正義令嬢が使う体力回復のバラ。細工はしておりません」


「勝負はフェアに行いたいというわけですの? 悪役令嬢とは思えませんわね」


「勘違いなさらないで。疲労が溜まっていて負けた、などという言い訳ができぬよう、万全の貴女を叩き潰したいだけですわ」


 ローズマリーの瞳は邪悪に輝いている。しかし、マリアベルは発言に嘘はないと感じバラを手に取り香りを嗅ぐ。たちまち傷が癒え、気力が漲ってくる。むしろ勝負前よりもコンディションは整ったといえよう。


「まことにありがとう存じます」


「なんでしたらティータイムでも取ったらいかがですの?」


「結構。勝利の美酒は勝ってからいただきますわ」


「最後の晩餐のつもりでしたのに……とうっ!!」


 驚異的跳躍力でリングに着地したローズマリー。それでもスカートは下品に翻ることはない。まさに生粋のお嬢様である。


『本日の最終演目! 正義令嬢マリアベル様 対 悪役令嬢ローズマリー様! 試合開始いいいぃぃぃぃ!!』


 そして本日最後の令嬢ファイトの幕が上がる。


「よろしくお願いいたしますわ!」


「こちらこそ、よろしくお願い致します!」


 リング中央でがっちり組み合っても挨拶は忘れない。彼女達は名家のご令嬢なのだから。


「私と互角!?」


「悪役令嬢は卑怯な手ばかり使うから、力押しなら勝てるという発想……貧弱ですわ!!」


 マリアベルが押し負ける。グングン仰け反り隙を晒す。


「このまま押し潰して差し上げますわ!」


「そうは問屋がおろしませんわよ!!」


 マリアベルはわざと自分から勢い良く仰け反ることで反動を付け、怯んだローズマリーの腹部にキックを入れて上空へと弾き飛ばす。


「やりますわね……」


 空中で体勢を立て直すも、時すでに遅し。背後からマリアベルがガッチリと捕まえる。


「このままリングに激突なさいませ! 必殺! 婚約破棄……」


「ふふっ、愚かなマリアベル。勝利に目がくらみ周囲への気配りを忘れるなんて。気品が欠けていてよ?」


「なんですって……? こっこれは!?」


『おおっとどうしたことだ!? マリアベル様の身体にバラのツルが! 茨が巻き付いているううぅぅぅ!!』


「胸の真っ赤なバラは飾りではありませんのよ?」


 茨がマリアベルをきつく縛り上げ、痛みでローズマリーへの拘束を解いてしまう。二人は空中で離れ、再びリング中央へ降り立った。


「オーッホッホッホ! まだまだいきますわよ!」


 ロープを引っ張り、リング中央で動けないマリアベルに次々絡ませる。茨とロープの二重奏はギリギリと身体を締め付けていく。


「ご覧あそばせ。これが悪役令嬢奥義……ざまぁローズホールド!!」


 ローズマリーが胸のバラをロープに突き立てると、ロープも茨も黒く染まり、赤い電撃が縦横無尽に駆け回る。それはまるで、黒いバラについている真っ赤な血で彩られたトゲのようであった。


「きゃあああぁぁぁ!!」


「オーッホッホッホッホッホ!! さあ、跪きなさい!!」


「うぅ……悪役令嬢にこれほどの使い手がいるとは……この令嬢パワーの源はいったい……」


「地獄への子守唄に教えて差し上げますわ。この力は貴女のような正義令嬢に付けられた憎しみの力ですわ!!」


 ローズマリーの顔が憎しみで歪む。彼女を包む暗黒のオーラもまた、その濃さを増している。


「幼い頃より令嬢として生きてきた私は、将来を有望視され、エリートコースをひた走っておりました。しかし、初めて出場したジュニア令嬢ファイトの決勝戦……その会場に向かう途中、私の優勝を妬んだ正義令嬢によって階段から突き落とされ、強く頭を打って入院。そして私を突き落とした正義令嬢の娘が不戦勝で優勝……」


「そんなっ!? 正義の宿命に殉じる正義令嬢が!?」


「事実ですわ。その傷が癒えるまで、数年を室内で過ごした私は……偶然にも頭の怪我が原因で悪役令嬢として百人に……いいえ数百万に一人の令嬢パワーと特殊能力を開花させましたのよ」


 ローズマリーの手から放たれる電撃が威力を増し、火花がマリアベルの身体を鮮やかに照らす。


「うああぁぁぁぁぁ!!」


「リハビリの最後には、同世代の令嬢がごきげんようを百回こなせば倒れるところを、千回やっても膝をつくことすらありませんでしたわ」


「ごきげんようを千回も……? なんという令嬢の鑑。そんな貴女が悪役令嬢になってしまわれるなんて」


「これは神様からのお告げなのでしょう。正義などと口にして、その裏ではドス黒い行為に手を染める正義令嬢を根絶やしにせよと」


 ローズマリーの目にはうっすら涙が滲んでいた。そして、それを見逃すマリアベルではなかった。


「ふっふふふ……」


「なにがおかしい? いいえ、なぜ笑っていられますの? 最早私のざまぁローズホールドから逃れることも出来ず、ただ死を待つだけの貴女が」


「貴女のような強い令嬢がいることが嬉しいのですわ。そして、貴女ほどの令嬢が悪役令嬢であるのならば……正義令嬢として、一人の女性として、正々堂々と死力を尽くしてお相手いたしますわ!!」


 マリアベルのブロンドが輝きリングを染める。誰もがその美しさに見惚れるその僅かな時間。一秒にも満たない刹那に彼女のドレスはウエディングドレスへと変わる。そのあまりの美しさに世界すらも息を止め見入ってしまう。


「今ですわ!」


 止まった時の中でありったけのパワーを振り絞って茨を引きちぎり脱出する。


「はっ……いつの間に脱出を!?」


「行きますわよ!!」


『ローズマリー様を抱えて、マリアベル様が天高く舞い上がる! まるで天国へと誘うようだ!!』


「何処までも愚かですわ正義令嬢! 令嬢に二度同じ技は通用いたしません! 受けなさいダーク婚約破棄トルネード!!」


『こっこの黒い竜巻はまさか!! 婚約破棄ハリケーンと同じ! 同じタイプの令嬢奥義かああぁぁ!?』


 正義と悪は表裏一体。悪役令嬢もまた、婚約破棄を経験するものが多い。同じタイプの技を使えても何ら不思議はない。赤き稲妻を纏った漆黒の竜巻はマリアベルをとらえ真っ逆さまに落としていく。


「やりましたわ! ついに私は正義令嬢を超越した究極の令嬢へと上り詰めたのですわ!! オーッホッホッホ!」


 空中で勝利を確信するローズマリー。だが竜巻の中央より光の柱が立ち上ったことでその顔が驚愕に染まる。


「そんな、そんなまさか……即死のはず!!」


 龍が滝を登るように光の柱の中から一直線にローズマリーへ突進したマリアベルは、その勢いのままさらに上空へと飛翔する。


「なぜ生きている!?」


「負けるわけにはいきません。貴女にこれ以上悲しみを背負わせないために。正義令嬢の誇りをかけて、ローズマリー……貴女の心に正義の魂を刻んでみせますわ!!」


『これは……この体勢は……真の令嬢にしか使うことが出来ないとされる伝説の業……ごきげんようバスター!!』


 究極奥義ごきげんようバスターから逃れる術はない。そうローズマリーは悟っていた。圧倒的才能と実力で悟ってしまった。今の自分ではかなわないと。だがローズマリーの表情は不思議と晴れやかであった。


「負ける……この私が負ける……そう……正義令嬢にも……こんなにも強く、気高い魂が……」


「ごめんなさい。貴女を救えなくて。正義令嬢を代表して謝罪いたしますわ」


「謝罪など不要ですわ。このまま落としてくださいまし。やれやれ、悪役令嬢のアジト『デスクイーンキャッスル』で一から礼儀作法のやり直しですわ」


「再戦ならいつでもお待ちしておりますわ。ローズマリー」


「忘れないで、マリアベル。私は必ず地獄の底から舞い戻る。その時が、貴女の最後の時よ」


「忘れないわ。私の友ローズマリー」


「そう……私を友と……初めての友達が……私を負かした正義令嬢なんてね……ふふっ」


 ダイヤのリングが落下の衝撃に耐え切れずに砕け散り、煌くシャワーとなって二人へ降り注ぐ。


『決まったああああぁぁぁぁ!! 勝者マリアベル様!! 正義令嬢の逆転勝利だああぁぁぁ!!』


 歓声の中、マリアベルは倒れたローズマリーへと手を差し伸べる。


「ふん、自分で立てますわ」


 マリアベルの手は取らずに背を向けて歩き出すローズマリー。


「どちらへ?」


「私に友はいない。悪役令嬢に友情などという惰弱なものは不要ですわ。ですから……貴女はライバル。倒すべきライバルとして覚えておきますわ。ごきげんよう!!」


 闇とバラに包まれて消えるローズマリーには確かに笑顔があった。


「ふふっ、ごきげんよう。私の初めてのライバルさん」


 光あるところに闇がある。悪役令嬢と正義令嬢は表裏一体。戦いはこれからも続いていく。

 しかし、戦いを通して生まれる友情もある。両者が和解し、普通の令嬢として生きていく。そんな日は案外近いのかもしれない。


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[良い点] 令嬢に二度同じ技は通用いたしません!>令嬢は聖闘士だった!? こえぇ…迂闊に婚約破棄からの断罪とか出来んなぁ 別次元に飛ばされそうだ [一言] その内、星座の称号の令嬢とか出てきそう
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